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いわく付き見たさ 【辛酸なめ子 コラムNEWS箸休め】

 なぜ、人はわざわざいわく付きの場所を訪れたくなるのでしょう。大西洋の海底に沈むタイタニック号の見学ツアーに出かけた潜水艇タイタン号が行方不明になり、その後、圧壊という惨事が発生。事実が判明するまでは、世界中の人が祈るような思いで事態を見守り、残りの酸素量を心配していました。パニックにならなければそんなに酸素を消費しないから、冒険家の参加者が皆を落ち着かせているはず、と願っていました。世界が息苦しい数日間を共有しましたが、痛ましい結果になってしまいました。

 でも、今回のツアー以前にも、さまざまな会社でタイタニック号見学ツアーが行われていたことを知り驚きました。悲惨な歴史から人類が学ぶダークツーリズム的な企画だと思ったら、金持ちがわざわざ危険な場所に行く、エクストリームツーリズム的な趣向のようです。映画『タイタニック』のシーンに思いをはせ、タイタニック号の船首に潜水艇を停泊させて結婚式を挙げた人もいたとか。死者の神経を逆なでしかねません。

 日本人の感覚からすると、人が亡くなった現場などを冷やかしの気持ちで訪れたら、倫理的にも運気的にもよろしくない気が。そういう私も、心霊スポットなどを訪れたことはありますが、その後体調が悪くなったりしました。過去にタイタニック号見学ツアーに参加した人が、後日災いに見舞われていないかリサーチしてほしいです。参加者は富豪や成功者が多いので、ネガティブなものに影響されない自信があるのでしょうか。

 日本でも最近若者の間で「呪物(じゅぶつ)」が大人気です。昨年、国内外の呪物を集めた「祝祭の呪物展」が開かれ、東京会場は来場者1万人超えだったとか。私は鑑賞後に首が痛くなったり、体中切り刻まれる夢を見たり、テレビが壊れたりといった災難に遭いました。

 その第2弾「祝祭の呪物展2」が今年も開催。来場者が呪物に顔を近づけて見入っていました。「呪いのマリア像」「線香の香りがする幽霊の掛け軸」「首刈り族の枕」「可愛(かわい)がると歌う人形」「龍を閉じ込めた絵」などディープな呪物がひしめく会場。今回は短時間の滞在だったこともあり、そこまで運気に悪影響はありませんでした。

 そんな呪物が大人気なのは、民族学的にも貴重ということもありますが、呪物を見ることで、自分の平凡な幸せを確認したいからかもしれません。成功者ほど悲惨な事象と自分を比べて、幸運さに酔いしれたいのでしょうか。光が強いほど闇も濃くなるようです。

©️2023 Nameko Shinsan

辛酸なめ子(しんさん・なめこ)/漫画家、イラストレーター、コラムニスト。1974年東京都生まれ、埼玉県育ち。武蔵野美大短期大学部卒業。著書に『女子校育ち』(筑摩書房)、『スピリチュアル系のトリセツ』(平凡社)、『無心セラピー』(双葉社)、『電車のおじさん』(小学館)、『大人のマナー術』(光文社新書)など多数。

(Kyodo Weekly・政経週報 2023年7月24日号掲載)

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