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人口減少、人手不足…地域の課題から日本のジェンダー平等を考える 共同通信社主催シンポジウム「地域からジェンダー平等を」

東京都内で開催されたシンポジウム「地域からジェンダー平等を2023」

 国内の地域の“男女平等の度合い”はどれぐらい進んでいるのだろうか? それを可視化したのが、「都道府県版ジェンダー・ギャップ指数」。これは、スイスに拠点を置くシンクタンク「世界経済フォーラム」による男女平等度の指標「ジェンダー・ギャップ指数」とほぼ同じ手法で統計処理し、国内地域の男女平等の度合いを可視化したもの。上智大法学部の三浦まり教授らでつくる「地域からジェンダー平等研究会」が、2022年春に初めて公開した。この「都道府県版ジェンダー・ギャップ指数」を基に、国内のジェンダー平等へのアプローチを議論するシンポジウム「地域からジェンダー平等を」が、12月11日に東京都内で開催された。

■ジェンダー研究の第一人者&実践企業に学ぶ。今年のテーマは「経済」

 同シンポジウムは、昨年12月に初開催され、今回が2回目。昨年は、今年春の統一地方選を見据え、「政治」や「行政」分野のジェンダー平等をテーマに議論した。今回は、地域の課題解決の大きなカギとして「経済」を取り上げた。登壇者は、三浦氏のほか、ポーラ代表取締役社長の及川美紀氏、大橋運輸(愛知県瀬戸市)代表取締役社長の鍋嶋洋行氏、Think Impacts(東京)代表取締役の只松観智子氏(オンライン参加)。モデレーターを共同通信社編集局次長の山脇絵里子氏が務めた。

上智大法学部教授・三浦まり氏

 冒頭、三浦氏は、世界版ジェンダー・ギャップ指数で出されている日本の数値について、「日本の平均値であり、人口規模が大きく南北に長い日本は、47都道府県の地域差が相当大きい。平均値だけでは日本の実情が分からない」と指摘。47都道府県について、「政治」「行政」「教育」「経済」4分野の男女格差を丁寧に見て、“ジェンダー格差”と“地域格差”両方の軸を常にクロスさせながら地域課題解決を目指すことが、都道府県版ジェンダー・ギャップ指数を出す目的だと解説した。総合ランキングをあえて作らないことをポイントに挙げ、「数値だけを見るのではなく、各都道府県がそれぞれの“強み”と“課題”を知ってジェンダーギャップ解消推進に活用してほしい」と呼び掛けた。

 また、三浦氏は「地方では人口減少や人手不足に対する切迫感が非常に強いと感じる」と述べ、今後の課題として「ジェンダー格差解消で地方からの女性の流出を防ぐこと」「女性にとって魅力的な雇用を地方に増やすこと」「行政のリーダーシップ」などを挙げた。これに対し山脇氏は、「ジェンダーギャップ解消について、経済の分野が一番難しい。男性の給与水準が低いところは男女が平等に見えてしまう場合がある。全体の底上げを課題にしていかなければいけない」と応じた。

■地域のジェンダー平等に向けて企業が果たす役割は?

 及川氏は、女性が地域で活躍するためのポーラの取り組みについて話した。ポーラでは、1400人弱の社員が、ポーラと業務委託契約を結び商品の販売ショップを営む2万5000人の個人事業主をサポートする形が取られている。総合職の女性は、半数が地域に根差して働いており、希望する働き方や会社に期待することなど女性たちの本当の声を聞く目的で「ダイアローグカフェ」というプログラムを実施。また、行政や大学などと連携し、女性のリーダーシップや地域での働き方をテーマにした取り組みを複数の地域で始めた。大分県内の高校に出向いて、地域で働く女性を見て仕事について考えてもらう出張プログラムなども行っている。及川氏は「自分の住んでいる地域や置かれた環境によって可能性を閉じるのではなく、主体的で自分らしい人生を過ごすことを応援していきたい。そのためには、われわれ自身が地域に足を運び、その現状を見てディスカッションしながら、小さな施策を積み上げることが大事」と話した。

ポーラ代表取締役社長・及川美紀氏

 只松氏は、社会の課題解決に対しさまざまな組織や個人が対等な立場で参加して解決を目指す「マルチステークホルダーアプローチ」の考え方について解説。機能している自治体として、2021年3月に10年間を計画期間とする「豊岡市ジェンダーギャップ解消戦略」を策定し、取り組みを進めている兵庫県豊岡市を挙げた。豊岡市の成功要因として「トップの戦略的思考とコミットメント」「明確なビジョンと現状の把握」「根本問題の特定」「市民の声を戦略に反映する仕組み」「税金以外(豊岡市の場合は地方創生推進交付金・ふるさと納税)による資金調達」などができている点を挙げ、「ジェンダーギャップの解消を目指しレジリエンス(不利な状況を跳ね返す力)が高まった小さな世界都市だ」と評した。

オンラインで参加した「Think Impacts」代表取締役・只松観智子氏

 鍋嶋氏は、大橋運輸が取り組む採用力強化策について説明。「中小企業こそダイバーシティ経営が必要だ」と力を込めた。“選ぶ”から“選ばれる”会社になるために、採用力強化と合わせ、福利厚生や成長支援、趣味を応援する企画など、今いる社員の満足度を向上させることにも力を入れていると説明。また、価格競争に飲み込まれないために、地域で最も信頼される会社を目指し、地域住民との川の清掃や、小学1、2年生対象の交通安全教室の企画開催などの地域活動に取り組んでいることも紹介した。鍋嶋氏は、「少子高齢化、人口減少、2025年問題(団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となり社会保障費の増大や労働力不足が懸念される問題)など、多岐にわたる地域課題に対して、事業や社員を通じて少しでも貢献ができるように、職場環境を整え人材を蓄えていきたい」と話した。

大橋運輸代表取締役社長・鍋嶋洋行氏

■若い女性の地方からの流出を防ぐために

 ディスカッションでは山脇氏が、地方には高学歴の女性が十分に力を発揮する就職先が十分にはなく、若い女性たちが都市部に流出してしまうという課題を提起した。

 宮城県石巻市出身の及川氏は、東京の女子大に進学したが、周りには経済的な問題や兄弟構成などで進学をあきらめた女性の友人もいたという。及川氏は当時、「地域で働き続けられる仕事は看護師か学校の先生だけ」と思っていたと振り返り、「地域の中にも一生働けて稼げるところはいっぱいあることを若者に教える大人や情報が必要だったのではないか」と話した。

 三浦氏は、女性の大学進学面でなお残る難しさについて解説した。「学歴とリーダーになる資質は必ずしも直結するものではないが、進学率はジェンダーギャップ解消では重要な問題」と指摘。その上で、「日本の難関大学といわれる大学の女性の比率は2~3割であり、これが5割になり、その30年後にようやくリーダーシップの点で男女の割合が縮まっていくと考えると、どれだけ腰をすえて取り組まなければならないかということが見えてくる」と警鐘を鳴らした。人口減少による地方私大の経営の厳しさや、女性が地方から都市部に進学するには住居のセキュリティー面でコストがかかることなども指摘。そのような面での女子学生への支援についても、「“逆差別”ととらえるのではなく、元々の障壁が男女で違うということを社会全体で共有することも重要ではないか」と話した。

 鍋嶋氏は、運輸会社での女性登用についてはさまざまな意見もあるという実情を明かした。その上で、「女性が働きやすくなければ、多様な人が働きやすくなることは難しい」と強調。「“残業をせず短時間勤務でもリーダーになれる”ということについて社内で広く理解を得るには時間がかかったが、継続的な情報伝達や、リーダーに登用した女性たち自身の活躍もあり、徐々に浸透してきた」と報告した。また、「ダイバーシティに関しては、短期間で成果を求めるのではなく長期的な視点で取り組んでいくべき。中小企業の私たちができれば、他の中小企業も取り組んでみようかなとなると思う。やはり継続が必要かなと思う」と話した。

 男女の賃金の差異については2022年7月の省令改正により、常時雇用する労働者数が301人以上の事業主は情報公表が義務付けられた。これについて只松氏は、「賃金格差だけでは分からない業界ごとの特徴や構造、課題をさまざまなデータから分析し、業界や企業の弱点を把握して施策を打っていくことが重要になってくる」と解説した。

■東京から見ている景色が日本全体の景色ではない

 女性が長く働き続ける上での課題についてもさまざまな意見が出た

 及川氏は、「地方で働くポーラの個人事業主は、1人親家庭の女性の就労状況や、女性の貧困問題など、その地方の情報に非常に精通しており、行政に働きかけることもできる。地域の女性リーダーがいて行政と連携して課題解決へのアクションが起こせるのはメリットだ」と話した。また、自身がポーラ初の女性社長に就任したことについて、「“18時で帰る管理職”の実現など、自分がやりたいことをやったり、環境の中にある違和感を解消したりするためには1つ上のポジションに就かないとできない。それを1つ1つやってきたら、社長になっていた」と話した。

 三浦氏は、「30代が子育て期と重なり、女性にとって厳しい期間であるとすると、前倒しで多様な経験ができたり、子育て期に入る前から先を見通してモチベーションを保てたりする環境作りが必要だ」と指摘した。一例として、行政の職場で、議案や予算案からまんべんなく役所の仕事が分かる議会事務局の仕事に女性を早い段階で配置することなどを挙げた。

モデレーターを務めた山脇絵里子・共同通信社編集局次長

 山脇氏は、「『東京から見ている景色が日本全体の景色ではない』ということを三浦先生とよくお話しする。都道府県版ジェンダー・ギャップ指数の作成をしてきた3年間の中でも、日本は性別による差別だけではなく地域格差も非常に大きく、それを解消していかなければいけないことをつくづく感じた。政府任せにするのではなく、私たちが地域からこの国を底上げしていくんだというムーブメントをぜひ高めていきたい」と力を込めた。「都道府県版ジェンダー・ギャップ指数」は、2024年も3月8日の国際女性デーに最新版を公表予定。山脇氏は、「共同通信の加盟新聞社、テレビ局などでデータを公表するので、それぞれの地元がどれぐらい課題の改善や解決がされているか、楽しみに見てほしい」と結んだ。

 シンポジウムのアーカイブはYouTubeで見ることができる。

 シンポジウム「地域からジェンダー平等を」は共同通信社主催、「地域からジェンダー平等研究会」共催、後援は、内閣府男女平等参画局、経済産業省、全国知事会。協賛は、アートネイチャー、井村屋グループ、キッコーマン、共栄火災海上保険、シミックホールディングス、ポーラ。

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