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北海道興部町

2023年も残すところ1週間。ふるさと納税の2023年分の申し込み期限が近付いてきた。2008年にスタートしたふるさと納税は、「生まれ育ったふるさとに貢献できる制度」「自分の意志で応援したい自治体を選ぶことができる制度」。あなたは応援したい自治体、「推しメン」ならぬ「推し自治体」をお持ちだろうか?

一般社団法人おこっぺ町観光協会の職員

ふるさと納税の業務を担うのは町の観光協会

「おはようございます!」

よく通る明るい声が事務室に響く。ここは北海道・興部町(おこっぺちょう)にある一般社団法人おこっぺ町観光協会。出勤してきたのは、池田晴奈さんだ。池田さんは、この町のふるさと納税の顧客管理、問い合わせ対応、事業者サポートなどの業務に携わっている。「観光協会がふるさと納税の業務?」と不思議に思われた方もいるかもしれないが、その謎はおいおい明らかにしていこう。

興部町は、北海道の北東部オホーツク海沿岸に位置する人口わずか3,576人(2023年10月現在)の小さな町。冬には流氷がやってくる。基幹産業は酪農と漁業。ふるさと納税の返礼品としてチーズやホタテが大人気だ。この町では、ふるさと納税の業務を2021年から町の観光協会に委託している。あまり聞いたことがない珍しい仕組みだ。

興部町には、小さな町にしては充実した、オリジナルのふるさと納税サイトがある。ふるさと納税といえば、いくつも大手仲介サイトがあるのに、自前のふるさと納税サイトを作ったのはなぜなのか。池田さんに聞いてみた。

「以前、オフライン(電話での申し込み)の寄附者さまに、インターネットにいろんなサイトがあるのでそこからも簡単に申し込めますよとお伝えした際に、『そういうサイトは町から手数料をとるんでしょ。町を応援したいと思って私が出した寄附額が減るじゃない』と言われたんです」

自治体のほとんどは、広報や決済を大手仲介サイトに依存しており、近年問題視されている。自治体は仲介サイトに寄附額の1割ほどの手数料を支払うので、地域のために投じた寄附金が、手数料という形で地域外に出ていってしまうからだ。令和5年の全国のふるさと納税受け入れ額は1兆円に近づこうとしている。その1割が手数料として消えてしまったら、1千億円近くの税金が本来の目的である地方創生に使われないということになる。それに加えて、受付から配送手続きの業務に関しても、地域外企業に委託している自治体が多く、いずれも『外部依存』となっている。おこっぺ町観光協会は、ふるさと納税の業務手数料としていただいているが、町の活動費として成り立っている。もちろん、オリジナルのふるさと納税サイトの手数料はかからない。なので、地域外に寄附金が出ていかない仕組みを作っている。

ふるさと納税サイト『おっこいしょ!』

「町の応援をしたいと申し込んでくれる寄附者さまの心情を考えたときに、仲介サイトだと、こちらが表現したい町の魅力や情報の発信もどうしても限られてきます。応援してくれる人にしっかり感謝を伝えられる場所、町が頑張っていることを伝えられる場所、寄附者さまが直で入ってこられる窓口を作りたいと思ったんです」

2022年に完成した興部町のふるさと納税サイト『おっこいしょ!』には、返礼品の紹介だけでなく、「おこっぺ町の歩み」や楽しい特集記事も掲載されている。そして観光協会では、道の駅のオンラインショップ『OKOKO(おここ)』も新たに作り上げた。

「ふるさと納税で興部町の特産品の魅力に触れた方に、寄附の時だけでなく継続的に食卓で楽しんでいただけるように、手軽に買えるオンラインショップを用意しました。この町にはまだ観光産業がありませんが、海産物・乳製品や豊かな自然といった魅力的な売り物があります。まずは、ふるさと納税の返礼品の特産品で町の魅力にふれてもらい、良さを知ってもらって、町のファンになっていただきたいんです。そしていずれは町を訪れてほしいんです」

道の駅のオンラインショップ『OKOKO(おここ)』

自分らしいやり方で仕事に貢献

2021年に観光協会に入った池田さんは、なぜここで働こうと思ったのだろうか。

「実は子どもの頃から声優を目指していて、地元の興部高校を卒業した後、札幌と東京で4年活動していました。声で自分を表現することは好きでしたが、ある時エンターテインメントよりも、自分はマネジメントに向いてるなと気付いたんです。人にアドバイスしたり、仕事が効率的に回るように考えたりして、それが認められた時にやりがいを感じたんですね。北海道に戻って働いていた時に観光協会の求人を見て、『自分の行動で人の心をプラスに動かしたい』という思いが生かせそうだと直観しました」

声優志望だったとは驚きだが、確かに池田さんの声はアニメの主人公のようにキラキラと輝いている。

「声優を志した理由は、アニメのキャラクターになりきると自分じゃないものになれて、考え方や世界観もすごく広がることでした。いまの仕事でも、寄附者さまと接する時に、いろんな考えがあるのだなと気付くことは楽しいですし、仕事に習熟するにしたがって対応が早いというお礼や応援コメントをいただけるようになると、やりがいも感じます」

寄附者とのコミュニケーションを楽しみ、マネジメント能力を活かして仕事の効率化に取り組む池田さん。最近はラジオ番組で町の情報や特産品を紹介するコーナーを担当したり、イベントのMCを担当したりと、声を使う仕事でも活躍の場があると喜ぶ池田さんは、自分らしいやり方でいまの仕事を楽しんでいる。

おこっぺ町観光協会の池田晴奈さん

自分らしいやり方で仕事に取り組むといえば、この人もそうだ。2023年の4月から観光協会で働いている佐藤歩菜美さんの担当は、ふるさと納税の寄附者やサイトユーザーに、返礼品や興部町をどう魅力的に見せるかといった広報的な部分。ウェブサイトの『おっこいしょ!』と『OKOKO』以外に、観光協会の公式LINE、Googleのビジネスプロフィール、InstagramといったSNSの管理が主な仕事だ。また、YouTubeの「北海道おこっぺチャンネル」にも池田さんとコンビで出演し、楽しく町の情報発信も行っている。佐藤さんにも観光協会で働く理由を尋ねてみた。

「札幌で10年以上アパレル関係で販売の仕事をしていたんですが、地元の紋別に帰ることになりました。もともと町おこしや地域に携わる仕事に興味があったので、地元の近くでそんな仕事をと思って求人を見た時に、おこっぺ町観光協会ならそれに近いかなと思ったんです」

入ってみたらいろいろな仕事があって驚いたという佐藤さんは、対面で接客していた経験を持つ佐藤さんらしいアプローチで仕事に取り組んでいる。

「接客の場合は、その商品を良いと思っているのか良くないと思っているのかお客様の顔に出ますし、ウェブは人気の商品がはっきり数値に出ます。おすすめの仕方や見せ方、打ち出し方で結果が変わってくることはどちらも同じですね。ウェブは見せ方がいろいろあるぶん奥深いですが、寄附者さまやお客さまから見た時に見やすいか買いやすいか、そこを絶対に忘れないようにしています」

おこっぺ町観光協会の佐藤歩菜美さん

何かやってくれそうな町

佐藤さん同様に2023年4月から観光協会で働き始めたのが、珎道勝仁(ちんどう・かつひと)さんだ。珎道さんは三重県の出身で、栃木県にある大手自動車会社で設計の仕事をしていたのだという。それがなぜ、興部町で働くことになったのか尋ねてみた。

「もともと旅行が大好きで、観光協会という仕事にとても興味がありました。自分が旅行しているときに、もうちょっとここがこうだったらなと思うことがよくあって、そこを変えられるのが観光協会じゃないかなと思ったんです。観光協会をキーワードに求人を探していたところ、興部町がヒットし、この辺りは旅行で通ったことがあったのですぐに応募しました」

珎道さんの旅行好きは半端ではない。30歳の若さで、なんと47都道府県すべてを旅行したという。そんな猛者が北の小さな町の観光協会のどこにひかれたのか。

「いろんな求人案内を見たんですが、単に人手が欲しいというところが圧倒的に多い中、新しい観光開発に取り組みたいという興部町は、求人の文面から何かやりそうだな変わろうとしているなということが伝わってきたんです」

珎道さんの担当は町の観光開発。いまのところ観光資源が非常に少ない興部町に、たくさんの観光客が呼べるように整備していくのが仕事だ。現在は観光の基盤作り、コンセプト作りの部分から取り組んでいる。町への思いは熱い。

「興部町は特定の観光名所こそありませんが、きれいな景色、おいしい食べ物といった旅行の大きな要素は持っている。可能性を秘めていると思います。旅行者の生の声を大切にし、興部町を道外の人や世界中の人に開かれた場所として作り込んでいき、一度訪れたらまた来たいと思えるような町にしたいです」

おこっぺ町観光協会の珎道勝仁さん

そして2024年4月、おこっぺ町観光協会には一人の大型新人が加わる。現在、興部高校3年生の山田陽菜(ひな)さんだ。実は、おこっぺ町観光協会では、高校の授業にも参戦し て『若者の人口流出を防ぐ』目的で、地元の事を知ってもらったり、社会に出てからも必 要な資質能力を養う授業を展開している。山田さんはなぜ観光協会に就職しようと思ったのだろうか。

「以前は町の外で働いてみたいなという気持ちもあったんですが、高校で地元の特産品を使って商品開発をするという授業を3年間受けていくうちに、観光協会の仕事内容を知る機会がありました。自分がやりたかったSNSやインターネット関連の仕事もあるんだ、いいなと思っていた時に、観光協会から求人票が出ると聞いて、これは応募しなきゃと思いました」

現在、興部高校3年生の山田陽菜(ひな)さん。2024年4月からおこっぺ町観光協会に就職する。

すでに観光協会で職場体験も済ませたという山田さんは先輩からの評価も高い。実際に仕事をしてもらったところ、処理のスピードや仕事に対する熱量、顧客の気持ちに寄り添った文章が素晴らしかったのだ。佐藤さんは「能力は申し分ないので、彼女が力を発揮できる環境づくり、サポートをしてあげたい」と語り、池田さんは「興部町の良さを伝えたいという私たちの思いが、さらに力を増して多くの人に伝わるのでは」と期待する。山田さん本人も、「観光協会に入ったら町のPRや特集記事を自分が考えた言葉で利用者に伝えていきたい」と意欲的である。

先輩3人の思いがしっかり伝わっているなと思ったのは、町の未来を展望してもらったときだ。「より多くの人に町に観光に来ていただき、町を好きになった人が移住して、末永く暮らせるような町にしたいですね。私は町が大好きなので・・・」。山田さんはそう語ってほほ笑んだ。

先輩からの評価も高い山田さん(中央)。町のPRや特集記事を自分が考えた言葉で利用者に伝えていきたい」と語った。

2020年にわずか2人しかいなかった観光協会の職員は、寄附金が順調に増えたこともあり現在7人に増え、来春には8人になる。佐藤さんと珎道さんは地域外からの採用で、結果的に町の人口を増やすことができた。高校生の山田さんは希望の職種を見つけられたことで町にとどまることができた。観光協会は、ふるさと納税の実務を請け負うことで、地域の経済停滞、若者の流出、人口減少といった、町の課題解決にも貢献していることになる。

安らぎの町にすることが応援してくれた人への恩返し

ふるさと納税を申し込んだあとは、どういう風にその自治体の役に立っているかもっと知られてもいいはずだ。もちろんどこの自治体でも、支払われた寄附金を税金としてさまざまな分野で有効活用し、使いみちを発表もしている。興部町でもそうだ。だが、それに加えて実務を町の観光協会が担当することで、さまざまな良い効果を町に与え、寄附者の税金が無駄になっていない——それどころか未来への投資になっている。そんな町もあることを知っていただけただろうか。

業務内容は違えども、紹介した4人に共通しているのは利用者の声をしっかりと聴くという姿勢、町に対する愛情だ。それは、それぞれの過去に裏打ちされた、自治体の公務員ではなかなか発揮できないお客様目線のビジネス感覚であり、民間の仲介サイトではなかなか持ちえない地域への熱い思いでもある。

彼らが願うのは目先の利益ではない。町の魅力的な特産物を知ってもらい、町を好きになってもらい、いずれは町を訪れてこの町で安らぎを得てほしいと願っているのである。最終目標は応援してもらった人たちに恩返しできる町をここに作り上げていくこと。素敵な町が出来上がれば、素敵な旅行先、素敵な移住先が増えることになる。町外の人にとっても大きなリターンになるのだ。彼らが見すえる先は町の未来。彼らの仕事はミライクリエーションなのだ。

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