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下水道で判明した「麻薬汚染」 【平井久志×リアルワールド】

 尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は、韓国で青少年の麻薬関連事件が増加しているとし「麻薬との戦争」を訴えているが、韓国の麻薬汚染の深刻さが「下水道」から浮かび上がった。

 韓国の政府機関である食品医薬品安全処は6月8日、2020年から行ってきた下水道に含まれる麻薬類の調査結果を明らかにした。

 麻薬の使用者に対して尿検査などを行って使用の有無を確認することはよく知られているが、麻薬使用者の排せつ物は結局は下水道に流れ込む。警察などに摘発される麻薬使用者は実際の麻薬使用者の一部でしかない。下水道の検査で、麻薬使用の実態が分かるのではないかという目的で行われた調査だ。

 20年には57カ所、21年は同37カ所、22年は同44カ所の下水処理場でサンプルを採取し、その分析を行った。うち34カ所は3年連続となった。

 この結果、3年連続で調査をした34カ所では、メタンフェタミン、アンフェタミン、エクスタシー、コカイン、LSDが検出された。

 通常、「ヒロポン」と呼ばれているメタンフェタミンが最も広範囲に使用されているようで、3年連続で調査をした34カ所のすべてで検出された。千人当たりの1日平均使用推定量は約20ミリグラムだった。通常のメタンフェタミンの1回の使用量は約30ミリグラムとされる。単純な計算では、韓国の1500人に1人はヒロポン使用者という推論が成り立つ。

 また、クラブなどで広がっているといわれるエクスタシーの千人当たりの1日平均使用推定量は20年には1.71ミリグラムだったが、21年には1.99ミリグラム、22年には2.58ミリグラムと毎年増加した。検出された処理場数も20年は19カ所だったが、21年には27カ所、22年も27カ所と増加している。

 韓国では4月に、学習塾などが多いソウルの江南区大峙洞で、2組の男女が「集中力や記憶力を上げる飲料の試飲会」と称して高校生らに麻薬入り飲料を配布し、保護者の連絡先を聞き出す事件が発生した。保護者に「違法薬物服用の事実を学校や警察に通報する」と金銭を要求する電話があった。警察が飲料を配布した男女を逮捕したが、麻薬犯罪が青少年の身近に迫っていることを示す事件として大きな衝撃を与えた。

 一方、韓国では、一部の飲食店でおいしくて病みつきになるという意味で「麻薬キムパプ(のり巻き)」、驚くほどよく眠れるという意味で「麻薬枕」といった商品名が使われたりしている。尹錫悦政権が「麻薬との戦争」を訴えていることもあり、地方自治体の議会や国会などでこうした商品名や宣伝を規制しようという動きも出始めている。

 韓国の警察庁によると、18年に逮捕された麻薬事犯は8107人でこのうち10代は104人(1.3%)だったが、22年には1万2387人で10代は294人(2.4%)だった。麻薬事犯は4年間で52.8%増加したが、10代は2.8倍の増加だ。麻薬事犯の年齢層は、かつては40代がトップだったが、それが30代になり、21年には20代がトップになるなど若年化している。

 この背景にはSNSや仮想通貨の発達で、若者たちが手軽に麻薬に接することが可能になったことがあるとみられている。尹錫悦政権は「麻薬との戦争」に勝利できるだろうか。

 

平井久志(ひらい・ひさし)/共同通信客員論説委員。2002年、瀋陽事件報道で新聞協会賞、朝鮮問題報道でボーン・上田賞を受賞。著書に「ソウル打令 反日と嫌韓の谷間で」(徳間文庫)、「北朝鮮の指導体制と後継 金正日から金正恩へ」(岩波現代文庫)など。

(KyodoWeekly 2023年7月3日号より転載)

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