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使用済みプラスチックから合成ガス生成を確認 「おくすりシート」再生資源化への第一歩 「循環型社会」目指す第一三共ヘルスケア

 風邪をひいた時や持病のケアなど、誰もがお世話になる「お薬」。錠剤を取り出した後、手元に残る「おくすりシート」、あなたはどうしていますか?

 そのままプラスチックゴミや燃えるゴミとして捨てている人が多いのではないでしょうか。

 実は、このおくすりシートは国内だけで年間1万3000トン以上が生産されています。極めて身近でありながら、これまで「リサイクルが難しいゴミ」の代表格とされてきたこの難題に、OTC医薬品の製造販売を手がける第一三共ヘルスケア(東京)が真っ向から立ち向かっています。

▽回収拠点は100超に拡大

 「製薬会社として作った後のことまで考える必要がありました」と同社のサステナビリティ推進マネジャーの岩城純也氏は静かに話し出しました。

 2022年に同社がテラサイクルジャパン(横浜市)と協働で開始した「おくすりシート リサイクルプログラム」。専用の回収箱「おくすりシートくるりんBOX」を設置し、市民から使用済みのおくすりシートを回収する日本初の試みです。

 横浜市内の30拠点から実験的に始まったこの活動ですが、住民の環境意識の高さに支えられ、またたく間に拡大。2025年12月に東京都東大和市が新たに加わったことで、2026年3月時点では回収拠点は112拠点にまで増加。累計回収量は2026年4月末時点で20トンを突破しています。

 現在でも月に700〜800キロというペースで使用済みシートが各拠点から集まっていますが、特筆すべきは、プログラム開始から現在に至るまで、設置された回収拠点が「1カ所も離脱することなく継続している」という事実です。

 「店舗の改装等に伴い一時的に外さざるを得なかったケースを除いて、離脱された拠点は現時点でゼロです。それどころか、うちの店舗にも置かせてほしい、うちの会社でも回収を始めたい、という問い合わせが今でも多くあります」と手応えを感じているといいます。

岩城純也サステナビリティ推進マネジャー

 

▽立ちはだかる「素材の壁」

 なぜ、これまで誰もおくすりシートのリサイクルに手を付けなかったのでしょうか。そこには技術者たちを困惑させる「素材の壁」が存在していました。

 おくすりシートは、薬を湿気などから守るため、頑丈な「プラスチック」と、指で押し出すための極薄の「アルミニウム」が強力に接着されています。2つの素材をきれいに分離させることは従来の技術では困難とされてきました。そのため、これまでは手間とコストが見合わないとして、ほとんどが廃棄・焼却されていました。

 岩城氏は「おくすりシートに使われているプラスチックは1種類ではありません。主にPP(ポリプロピレン)と、PVC(ポリ塩化ビニル)という2つの素材が使われていて、製品によってはこれらが混じり合う『複合プラスチック』になっています」と一般的には知られていないプラスチック事情を説明します。

 問題となるのがPVCの存在です。PVCには「塩素(塩)」が含まれているため、溶かそうとすると有害なガスが出るなど処理時の配慮を求められ、扱いづらい特徴があります。

 同プログラムではこれまでの取り組みの中で、使用済みシートを細かく粉砕・加工し、アルミニウムが混ざった状態のままベンチやプラスチックトレー、ボールペンなどへ生まれ変わらせる「アップサイクル(マテリアルリサイクル)」の道を切り開きました。しかし、これだけでは大量に廃棄されるシートを処理することはできません。「集まったゴミを、もう一度同じ製品(おくすりシート)に戻すような循環を作らなければ十分とは言えないと考えた」―。岩城氏の視線は「循環型社会」へ向いていました。

アップサイクルの商品

 

▽JFEエンジニアリングへ送ったメール

 そこで浮上したのが、プラスチックをガス化し、再び資源としてよみがえらせるケミカルリサイクルの「ガス化活用」という選択肢でした。

 この技術を持つのが、JFEエンジニアリングです。彼らは使用済みプラスチック等を一気に気化させ、合成ガス(CO、CO2、H2)を生成する「廃棄物ガス化技術(シーフェニックス プロセス)」を持っていました。

 しかし、第一三共ヘルスケアにはJFEエンジニアリングとはこれまでの取り組みの中で接点がありませんでした。そこで岩城氏は2025年暮れ、JFEエンジニアリングの問い合わせ窓口に、熱い思いをつづったメールを送信したのです。

 「何のつてもありませんでしたから」と岩城氏は話します。「でも、JFEエンジさんが素晴らしいガス化技術の実証実験をやっていると聞いたので、直接メールを出すのが一番早いと思い、具体的なデータを添えて送りました」と振り返ります。

 問い合わせ窓口に送られた一通のメール。JFEエンジニアリングの担当者は、このメールに書かれた「すでにおくすりシートを大量回収している」という実績と熱意に動かされました。「おくすりシート リサイクルプログラム」の社会的意義にも共感をした担当者から「一度お会いしましょう」とすぐに返信が届き、奇跡的な共同プロジェクトが幕を開けました。「運が良かったんですね」と岩城氏は笑います。

▽千葉で実証実験開始

 2026年3月、千葉市にあるJFEエンジニアリングのプラントで、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の委託事業として建設された実証実験設備において、使用済みおくすりシートを用いた実証実験が行われました。

 これまで捨てられていたおくすりシートが、再び化学原料へと生まれ変わる上での最大の課題である、ガスを製造する部分の技術的証明がなされたのが一番の成果でした。

 JFEエンジニアリングはNEDOのGI(グリーンイノベーション)事業の下、2029年を目標に千葉市内に大規模プラントの建設を予定、2031年をめどに社会実装を目指しています。実験の成功を受けて両社はロードマップに沿って歩みを進めていきます。

プラント外観写真(提供:JFEエンジニアリング)

 

▽課題はコスト

 「ケミカルリサイクル(ガス化)は循環型社会を実現する重要なピースではありますが、「マテリアルリサイクル」、そして「高度な分別技術の確立」も含めた三本の矢を同時に進めていく必要があります」と岩城氏は強調します。

 ガス化によるケミカルリサイクルは素晴らしい技術ですが、分子レベルにまで分解されることから、「シートが何になったのか」が目に見えづらいという点があります。一方、回収したシートからベンチやトレーを作るマテリアルリサイクルは「あのシートがこんな身近なベンチになったんだ」と、肌感覚で環境への貢献を実感してもらいやすい。岩城氏は、生活者のモチベーションを維持するためには、この両輪が不可欠だと考えています。

 もう一つの大きな課題は、リサイクルプログラムの全国展開を見据えた時の輸送費などの運用面でのコストです。「回収するためにトラックを何台も走らせて大量のCO2を排出するのは本末転倒」というジレンマです。

 これに対し、第一三共ヘルスケアは運用の改善を始めています。そのモデルケースとなったのが東大和市での取り組みです。これまで各拠点でBOXが満杯になると、その都度、配送業者を呼んで二次回収拠点へ運んでいました。しかし東大和市では、市内の複数の拠点から集まったシートを、一旦1カ所のハブ(基幹拠点)へ集約するシステムを構築しました。

 「例えば、2キロの荷物を3カ所からまとめて送れば、輸送コストは下がります。トラックの走行回数も3分の1に減り、排出されるCO2の量も削減できる。コスト面と環境面、その両方を一気に解決する運用の知恵が、この3年間の経験で見えてきました」と岩城氏は話します。

 今後は、人口10万人程度の自治体を回収拠点の中心にして、全国の自治体や企業と連携しながら効率的な回収網を広げていきたいといいます。

▽「ナフサ依存脱却とカーボンニュートラル」が使命

 第一三共ヘルスケアがこの活動を積極的に推し進めることで、日本が抱える「石油依存」という問題にあらためて注目が集まりました。これは貴重な問題提起であると同時に大きな意義があったといえます。

 日本のプラスチック産業は、石油を精製して作られる「ナフサ」という原料に大きく依存しています。また、プラスチックを作る際にも、燃やして廃棄する際にも、大量のCO2が排出されます。

 しかし、今回の「ガス化技術」が完成すれば、ゴミそのものがナフサの代替品(化学原料)になります。「ナフサ依存からの脱却とカーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)への大きな一歩につながる可能性があります」と同社は意義を説明します。

 使用済みシートから生成した合成ガスは、次の工程として、化学品合成プロセスによりメタノールやエタノール等の化学原料へと変換する“リレー”が想定されています。そこからさらにプラスチックの原料であるエチレンなどが作られ、最終的にまた、おくすりシートへ戻っていく。

 国が目標としているカーボンニュートラルの実現に、約1グラムの小さな1枚のシートが貢献しようとしています。

 「お薬を製造し、生活者の皆さまにお届けしている製薬会社として、使い終わった後のシートまで責任を持つ。それは、これからの時代を生きる企業としての、当然の責任です」と岩城氏は力強く語ります。薬を飲み終わった後、私たちは何気なくあのシートをゴミ箱へ放り込みます。しかし、その小さなシートには、製薬会社と技術者が挑む「未来の循環型社会」が凝縮されているのです。

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