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損傷バンパーを新品のバンパーへ マツダが取り組む「水平リサイクル」

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自動車リサイクル促進センター

 自動車の“どこ”に関心を持っているかは人それぞれですが、安全性を大きな使命とする自動車メーカーが最大限の注意を払っている部品の一つが「バンパー」です。

 バンパーは衝突時に衝撃を吸収し、歩行者や乗員を守る重要な役割を担っています。バンパーがあることで、衝撃が車全体に伝わるのを防いでくれます。

 以前は金属製のバンパーが中心でしたが、現在は柔軟に変形する樹脂製が主流となっています。

 使用済みの自動車は解体されると鉄・アルミニウムなどの金属類はリサイクルされるものの、バンパーを含む多くの樹脂部品は、これまでに破砕後にシュレッダーダスト(ASR)として処理され、主に熱エネルギーなどに利用されるケースが一般的でした。

 しかし、自動車メーカー「マツダ」の、損傷したバンパーから新品のバンパーを再生する「バンパー to バンパー」という「水平リサイクル」の取り組みが、そんな光景を変えつつあります。

 この画期的な取り組みの裏には自動車業界の枠を超えた「オール広島」の執念がありました。「バンパー to バンパー」が成功した背景や意義、今後のリサイクルの取り組みについて、マツダ技術本部の田中慶和主幹、クルマ開発本部の山本研一上席研究員、経営戦略本部の荒津亘主査に聞きました。

バンパー to バンパーの流れ(マツダ提供)

▽樹脂製が主流に

 自動車の部品の中で、リサイクルが難しいと言われている素材の一つが樹脂です。鉄やアルミニウムは溶解・精錬によって再資源化しやすく、品質を維持したリサイクルが比較的行いやすい素材です。

 一方、樹脂はそう簡単にはいきません。自動車の“顔”とも言えるバンパーは、衝突時に乗員や歩行者を守るための高い衝撃吸収性や、真夏の酷暑から真冬の極寒まで耐え抜く耐久性が求められます。そのため、ポリプロピレン(PP)という樹脂をベースに特殊なゴム成分などを配合した複合材料が用いられています。

 バンパーに使われる素材は金属製と樹脂製の2種類です。かつては、強度が高く耐久性の点で優れていた金属製バンパーが主流でした。ただし、硬いために衝突の際、歩行者に大きなダメージを与える危険性がありました。樹脂製にしたことで軽量化によって燃費向上に貢献できるだけでなく、デザイン面でもスタイリングの自由度が高まりました。

破砕後のバンパー(マツダ提供)

▽塗膜が壁に

 損傷バンパーを回収して「新品と同じ強度のバンパー」にリサイクルするには大きな壁が立ちはだかっていました。それは、バンパーの表面に塗られた「塗膜(塗料が乾燥・硬化して成形された膜)」です。

 コーティングされたバンパーの塗膜は天候などの条件によってはがれないよう、下地処理や塗装工程によって樹脂表面に強固に密着しています。これを溶かして再利用しようとすると、塗膜の破片が不純物となり新しく作ったバンパーの強度が落ちてしまうのです。塗膜が十分に除去されない場合、バンパーに求められる耐衝撃性能等を満たせなくなる可能性があります。

 そのため、これまでの使用済みバンパー由来の樹脂は、あまり強度が求められない箇所の自動車用部品や日用品などに利用されるケースが多く、同じ用途として使われる水平リサイクルは難しいとされていました。

再生樹脂に関するこれまでの取り組み(マツダ提供)

▽あえて困難な部品に挑戦

 マツダがバンパーのリサイクルへの取り組みを本格化させたのは約30年以上前にさかのぼります。「プロジェクトが始まったのは1990年ごろ。社内でリサイクルに関する横断的な検討組織が立ち上がり『これからマテリアルリサイクルをやっていこう』という方針が決まりました」と、山本氏は振り返ります。

 数ある自動車部品の中で、なぜ「バンパー」だったのでしょうか。

 田中氏は「当時から、マツダのバンパーは社内で内製しており、加工や材料開発の知見が蓄積されていました」と語ります。さらに「バンパーは意匠性や機能的にもハードルが高い部品です。あえて困難な部品に挑戦することで得られる知見が、今後のリサイクルのスタンダードになると確信していました。バンパー専用の材料は高機能材料ですから、いかに循環させ、資源を使い尽くすかがポイントでした」と、マツダ独自の考え方を明かしました。

 しかし、事業化までには大きな課題がありました。田中氏は「塗膜が混じると材料が割れるなど機能的な問題が生じます。また、外観部品のため、塗膜が残るとキラキラ光って異物として認知されてしまう技術的な課題がありました。加えて、コスト的な問題も立ちはだかっていました」と当時の難しさを説明します。

「バンパー to バンパー」リサイクルの流れ(マツダ提供)

▽「塗膜除去率98.5%の壁」

 「バンパーの塗膜は、はがれないように作られています。それをはがすのが一番の難所でした」と田中氏は振り返ります。

 当初は塗膜が付着したままのバンパーを破砕・溶解し、再生ペレットとして利用していました。しかし、これだと「引っ張り物性(引っ張られた際の強さや伸びやすさ)」と呼ばれる伸びに対する強度が落ちてしまうことが分かりました。これでは高い品質が求められるバンパーには利用できません。以前から仕事上のつながりがあった高瀬合成化学(東広島市)との共同研究で「塗膜除去率98.5%」まで到達したものの、そこから高い壁を越えられずにいました。

技術本部の田中慶和主幹

▽光学選別機による発想の転換

 そんな中、精米機メーカーであるサタケ(東広島市)の「光学選別機」がブレークスルーをもたらします。同社は玄米からもみ殻を刈り取る、もみすり機を製造していますが、これまでも精米機を使い、とうもろこしやコーヒー豆の皮をむいてほしいという依頼に応えていたという実績がありました。

 光学選別機はカメラやセンサーで色を識別し、不良品をエアーではじき飛ばす機械です。細かく砕かれた樹脂では、くぼんだ場所があると取り切れない、という技術的課題がありました。

 「取り切れない塗膜をはがすのではなく、取り除く(はじき飛ばす)という発想の転換でした」と田中氏。

 3社が力を合わせたことにより、高品質な再生樹脂を取り出すことに成功しました。1995年ごろから活動を始め、事業スタートまで約10年ものトライアンドエラーを重ねたと言います。

 こうして「バンパー to バンパー」の事業化に成功し、現在も修理時に交換された損傷バンパーを回収し、新品のバンパーへ再生する水平リサイクルの取り組みを継続しています。なお、過去には使用済自動車(廃車)から取り外したバンパーのリサイクルにも取り組んでいましたが、物流コストや解体・分別コストの増加などの課題から、廃車バンパーを対象としたリサイクルの運用は終了しています。一方で、将来的な資源循環の高度化に向け、廃車バンパーの有効活用については引き続き検討を進めています。

サタケの光学選別機(マツダ提供)

▽「モノマテリアル化」という設計思想

 マツダの挑戦はバンパーだけにとどまりません。車内を見渡すと、ダッシュボードやシートの周辺など、あらゆる場所に樹脂が使われており、自動車の重量の1割から2割程度は樹脂が占めていると言われています。

 同社はバンパーで培った技術を応用し、車内の内装部品に使われている樹脂の集約化を進めています。これまでの自動車は部品ごとに異なる種類の樹脂が使われていたため、解体したあとの分別が非常に困難でした。

 しかし、設計の段階から「リサイクルしやすいように同じグループの樹脂で統一して作る」という未来を見据えた設計思想を取り入れました。これが「モノマテリアル化」です。

 リサイクルに取り組む現状について山本氏は「自動車は単一の素材ではできていません。ポリプロピレンとかポリエチレンとか、いろいろな材料が混じっています。そのため、解体時のコストなどを考えると将来リサイクルしやすいようにするためには、車両の設計段階から樹脂の種類を集約する必要があるとしてモノマテリアル化を進めています」と解説します。

 ただ、一方で「剛性や強度が違う樹脂を組み合わせないと部品として成り立たないため、いかに同じ素材で作るか、同じ素材の接着剤を使うかなどが技術的なハードルです」(山本氏)。

クルマ開発本部の山本研一上席研究員

▽バンパー確保が課題

 リサイクルの輪を回すには、安定した材料の確保が不可欠です。田中氏は「バンパーは形が大きいため、そのまま広島(高瀬合成化学)へ運ぶと輸送のロスやコストがかさみます。そこで全国の解体・破砕事業者と連携し、エリアごとに粉砕したものを送ってもらう物流の仕組みを作りました」と話します。

 しかし、まだ課題は残されています。

 「圧倒的に再生樹脂の量が足りないのが一番の課題です」と経営戦略本部の荒津氏は指摘します。同社は資源循環のさらなる高度化に向けて、解体・破砕業者との連携強化を重要なテーマの一つと位置付けており、「この領域を進めるために、地域の静脈企業(解体・破砕業者など)の方々とより密接に連携しながら資源循環を進めていきたい」と荒津氏は語り、現場の声に寄り添う姿勢を強調します。

 また、山本氏は「自社だけでなく他社のバンパーをも同じように処理できるかどうかの技術開発・検証もずっと進めています。他社のバンパーは使われている樹脂の種類や物性が異なりますが、リサイクル時に異なる樹脂が混ざってもこれをコントロールする再生技術が確立され、安くて質のいい再生材が安定して入ってくるようになれば、経済合理性はさらに高まります。また、廃車だけでなく地域で出てくるあらゆる樹脂資源を車に使う『X to Car』のルート開拓や、地場の企業、広島大学などと連携した『再生材評価技術開発』といった基礎研究にも力を入れています」と話します。

 今後の廃車バンパーのリサイクルの取り組みについて、マツダは「欧州におけるELV(使用済自動車)規制の動向も踏まえると、比較的大型で車両から取り外しやすいバンパーは、再生材として最大限活用していくことが重要な部品の一つと考えています。現在、地元の解体事業者と資源回収インセンティブ制度の活用も踏まえながら、中国経済産業局ともコミュニケーションを行い、地域における動静脈連携の構築に取り組んでいます。これまで取り組んできたバンパーtoバンパーリサイクルで得られた知見も生かしながら、リサイクルしやすい設計の推進や解体事業者との連携強化に取り組み、地域で発生する廃車バンパーの有効活用に向けた検討を進めていきます」(メディアリレーション部)としています。

 「動脈側」と「静脈側」が車両設計の段階から本格的にタッグを組むことが進みそうです。

経営戦略本部の荒津亘主査

▽資源回収インセンティブ制度導入

 自動車業界全体に目を向けると、欧州の厳しい環境規制への対応が急務となっています。荒津氏は「欧州の規制は非常に厳しいと理解しており、自動車業界全体が大きな課題として取り組んでいます」と危機感を示します。こうした中、業界全体で解体を推奨する「資源回収インセンティブ制度」の運用を2026年度から開始しました。

 さらに「出口の品質が分からない」という静脈側の声に応え、メーカー各社で使う5つの主要な樹脂材料の規格を自動車業界として開示し、リサイクル企業が目標とすべき基準を明確にする取り組みも始まっています。

 その点、マツダは他社より早くからこの技術を磨いてきたため、この世界的なルールの変化をむしろ「チャンス」と捉えることができます。広島を中心とした解体現場やリサイクル事業者と強固な回収・再生ネットワークを結び、地域一体となって資源を循環させる仕組みは、これからの国際競争において日本の自動車産業を支える強力な武器になるでしょう。

マツダの目指す姿(マツダ提供)

▽年間4万本超のバンパーを再生

 マツダはここ数年、安定的に年間4万本を超えるバンパーを再生しており、2005年から2024年までの累計は127万本を超えたといいます。これはすべて損傷バンパーを新品のバンパーに再生したものです。98.5%だった塗膜除去率は99.9%を実現しました。今はメーカーを問わず、あらゆる種類の樹脂部品からのリサイクル技術の適用可能性を検証しているといいます。「各社独自の樹脂材料を使いこなす技術面と、使い終えた車両から効率よく回収・運搬して再生する採算面を両立させるのが大きな課題で、試行錯誤の毎日です」と田中主幹は前を向きます。

 これまで私たちは車を選ぶ時に「デザインが良いから」「燃費が優れているから」といった基準で選んできました。もちろん、マツダは「走る歓び」がモットーですから乗って楽しい車であることは大前提です。

 再生資源によって作られた車に乗るということは、自分が手放した後の未来まで、その素材が循環していく物語に参加することを意味します。

 街中でマツダの車を見かけた時は、バンパーに注目してみてください。マツダが取り組む「バンパー to バンパー」は、使用済み自動車由来の樹脂を再び自動車部品として活用する世界有数の先進事例です。資源循環の高度化が求められる中、その取り組みは今後の自動車リサイクルの方向性を示すものとして注目されています。

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