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現場でこそ叶う「真実の対話」 【サヘル・ローズ×リアルワールド】

 今回は最近、感じていることの一つ、「会話と対話」についてつづります。

 会話は自然にできていますが、実は私たち人間は対話を避けています。それが友人同士、恋人同士、夫婦、家族、職場、そして政治と国民に至るまで。会話は、一見美しい花束のようですが、花瓶の中の水をそのままにしておくと何が発生しますか?  そう、カビです。根っこから腐り出したら回復はもう奇跡でしかありません。であれば、対話をしてハッキリ物事を、意見を述べたほうがいい。そのほうが人間関係は良好になることだってあります。

 この対話の必要性を感じた出来事がありました。私は、とある博覧会の理事として声をかけていただきました。素晴らしい方々と共に会議に参加し、淡々とそれが進んでいきました。異議があればもちろん挙手できますが、知らない間にすごいスピードで進んでいく流れに戸惑い、果たして私がいる意味はあるのか? それ以上に私では力不足であるなら、本来この役目は引き受けるべきではなかったか? そんな思いが頭をよぎっていた折に、SNSで立て続けに博覧会に対して信じられない情報を目にしました。

 そして、それは理事である私も賛同しているように、反対している人々の目には映ったようです。だけど、私はその事実を知る由もありませんでした。もし、そのようなことが市民の了承を得ずに本当に進もうとしているのなら、それはあってはならないことです。

 ここで背を向けて去るか。それとも、理事として意見を、市民の皆さんの思いを伝える対話を選択するか。もちろん迷うことなく私は現場へ行き、市民の方々と共に視察しました。「理事で現地を視察した人はいまだかつて誰もいなかった」と、皆さん口をそろえて言いました。

 知らないところで誰かが傷つく法律もルールも決定も、善くありません。今まで私は〝花束〟の上しか見えていなかったのです。対話をすることで見えてくるものがあることを改めて実感しました。今のうちに気づくことができて本当に良かったです。

 本来はぶつかって、火花を散らして、言葉を交わすのが民主主義。それがなくなり、対話をしなくなったら、独裁と化してしまいます。幸い、日本は意見が言える国。「知らないことは恥ずかしいことではないが、知ろうとしないことはとても恥ずかしい」。これは私のモットー。

 そう、現場にはいつも真実がちゃんとあります。知りたい情報をネットで簡単に検索できても、涼しい会議室の中で資料だけ見ていても、本物の痕跡と真実の対話は、いつだって現場にあるんです。だからこそ、私は理事をやめずに今、現地の声を伝える橋渡しをしようと動いています。正義感は時に命取りとなることがありますが、人生、どう転ぶかは分かりません。それなら悔いのない生き方を、長生きよりも選びたい。これは養母の影響です。

サヘル・ローズ/俳優・タレント・人権活動家。1985年イラン生まれ。幼少時代は孤児院で生活し、8歳で養母とともに来日。2020年にアメリカで国際人権活動家賞を受賞。

(Kyodo Weekly・政経週報 2023年9月11日号掲載)

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