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「リアルな世界」とは何なのか 【サヘル・ローズ×リアルワールド】

 このコラムのタイトルについて、ふと考えていたところです。「リアル」とはいったい何なのか?   見えないものも多く、渦巻く現代社会。日本に限らず、世界中にリアルというものは果たして存在しているのか?   私が書くコラムだってそう。100%の信憑(しんぴょう)性がある訳でもない。ただ、一個人である私が感じたこと、疑問をつづっています。

 日本では元日から悲しいニュースが立て続けに流れました。能登半島地震を知ったのはイランにいる友人から。その時、私は母とホルムズ海峡を旅していて、大きな悲しみが込み上げてきました。イランに滞在していた際には海外のメディアから情報を得て、日本に戻ってきてからももちろん報道を見ていましたが、見比べた際に幾つか違和感を覚えました。というのも、被災地の映像が海外メディアと日本のテレビ局であまりにも違いがあったのです。これは、決してどちらがいいか悪いかということではありません。あくまで、私が感じたことの一つとして。海外メディアのほうは、家屋が崩れ、人も歩けない道路など、見ていてとても分かりやすく、地震の強さが伝わるのですが、日本のほうは、日が経つごとに見せ方が落ち着いていた感じがしたのです。きっと視聴者にショックを与えないための配慮なのだと思います。

 ですが、個人的には被災地の現状がハッキリと見える、把握できることで、「なんとかしないと」という人々の思い、支援の方法も変わってくると感じました。仕方がないことではありますが、見えない情報も多くあったため、国民が不安になることもあったと思います。その原因が何なのか?   案外、説明不足であったり、続報が少なかったりしていたことはないでしょうか。きっと報道の在り方は全世界が抱える難題かもしれません。その中で、私たちは何を持って「リアル」と捉えるべきなのでしょうか?

 2022年9月にイランでヘジャブ(スカーフ)から髪が出ているとして秘密警察に連行された女性が亡くなり、全世界でデモが起きました。イランの全ての女性が自由と人権を持って生きられるために。メディアの映像ではこの時、イラン国内のデモで暴動化した市民が映し出されました。そのさなかに母がイランへ戻ったのですが、私は心配で夜も眠れなかったほどです。無事に日本へ帰ってきた母が言うには「確かにデモはあった。怖い瞬間も確かにあるけど、報道で伝えられているような状況とは違う」とのことでした。

 実際に今、イランの首都テヘランの一部ではありますが、海外のファッション誌から出てきたような美しい女性が街中でもヘジャブを外し、ジーンズで街を颯爽(さっそう)と歩く姿を多く見かけます。

 シラーズやホルムズなどの観光地でも、個々の意思でヘジャブを外す選択をしています。そして、多くの方から「イランのデモを世界は過激に伝えすぎている。そのせいで怖い印象が植え付けられ、観光客も減ってしまった」という声を耳にします。「リアルな世界」とはいったい何なのか? 私の世界は「リアル」か「フェイク」かーー。

サヘル・ローズ/俳優・タレント・人権活動家。1985年イラン生まれ。幼少時代は孤児院で生活し、8歳で養母とともに来日。2020年にアメリカで国際人権活動家賞を受賞。

(KyodoWeekly 2024年2月5日号より転載)

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