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韓国の少子化に「適応がうまい」 【平井久志✕リアルワールド】

 韓国の2022年の合計特殊出生率は0.78だった。合計特殊出生率とは1人の女性が生涯に産む子どもの数だ。日本の1.26と比べても、さらに深刻だ。韓国統計庁が昨年12月に発表した人口推定によると、韓国の人口は22年の5167万人から、半世紀後の72年には約30%減の3622万人になる。しかも、この予測は合計特殊出生率を1.0と仮定したもので、出生率が現在のような0.7~0.8の水準ならば、3千万人を割り込んでしまうという。

 韓国では朝鮮戦争が1953年に休戦になると、ベビーブーマーや北朝鮮から逃げてきた人たちで人口が急増した。55年から63年までの9年間の合計特殊出生率は推定でなんと6.1だ。

 62年に朴正熙政権は「家族計画事業」を打ち出し、映画館では上映前に家族計画を推奨する映像が流れたりした。朴政権は「経済成長」と「産児制限」を掲げたが、皮肉なことに、経済成長を担った主力は、政府が産児制限の対象としたベビーブーマー世代だった。

 82年には避妊手術が医療保険の対象になるなど産児制限政策が続いた。だが、80年代末になると、ようやく政府の人口抑制政策が人口維持政策に変わっていった。韓国政府は94年になり産児制限政策を放棄するが、98年には出生率が1.45%まで低下した。

 韓国は90年代半ばから出生率向上へ政策転換をするが、そこに97年末のアジア経済危機が襲った。雇用の不安が深刻化し、未婚化や晩婚化が進んだ。女性の社会進出が進み、非正規職が増え、中産層が分解し貧富の差が拡大した。若者たちの間で出産よりは自分の生活を優先する考えが拡大した。その結果が現在の少子化だ。

 そうした韓国の少子化問題について、著名な進化生物学者の崔在天・梨花女子大教授のユニークな指摘が話題になった。崔氏自身が運営するユーチューブチャンネルで「ある意味、韓国の人たちは実に賢い。進化的な観点では本当に適応がうまい民族だ」とし「動物になぞらえるなら、ひなを産み育てることができない状況でひなを産む動物は絶対に有利な状況を作り出せない。状況が良くなった時にひなを産むべきだ」と述べた。

 その上で「過去、数十年間、私たちはどれだけ一生懸命努力したか。大韓民国は世界最速で産児制限に成功し(たのに)、いきなり、自国民の数が減ってしまうと言って、豊かな国々が元通りに出生率を高めるのだから、地球的には災難だ」とした。

 「経済学者は労働力が不足して生活が苦しくなるという心配をするが、少数の国民でどのように人間らしく生きていけるかを模索すべき時代が来ている」とも主張。「全地球的に合意が実現できるのなら、むしろ人口が徐々に減っていけば地球ははるかに暮らしやすい惑星になるだろう。その先導的な役割を、もしかすると、今の大韓民国が果たしている」と話している。

 朴政権時代には、街に「たくさん産んで苦労せず、少なく生んで立派に育てよう」というポスターが掲げられたが、韓国の現在の若者たちはこのスローガンを誠実に実践しているのかもしれない。

日本でも? プロポーズイベント 【平井久志✕リアルワールド】 画像2

平井久志(ひらい・ひさし)/共同通信客員論説委員。2002年、瀋陽事件報道で新聞協会賞、朝鮮問題報道でボーン・上田賞を受賞。著書に「ソウル打令 反日と嫌韓の谷間で」(徳間文庫)、「北朝鮮の指導体制と後継 金正日から金正恩へ」(岩波現代文庫)など。

(KyodoWeekly 2024年2月12日号より転載)

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