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出合いたい、「生きた記憶」 【サヘル・ローズ×リアルワールド】

 「終わりなき戦争」と「始まらない平和」。何気なく納得させられているマッチング。過ぎてしまいましたが、6月20日は世界難民の日でしたね。国際的に定められなければいけないことが悲しい現実であり、本来は「世界難民の人」と「国連」も必要ない、いつか解体されること、なくなることを目標にしたい。ですが、そうはいかなくなってきている。

 昨年末の時点で、紛争、迫害、暴力、人権侵害によって避難を余儀なくされ、難民として生きなければならなくなった人々が過去最大の1億840万人。この数字に驚くだけでなく、この数字に含まれなかった人々も多くいるということを忘れてはいけない。

 避難する道中で命を奪われ、ブローカーにだまされ、人身売買や臓器売買を目的に誘拐されてしまった人々もいます。全てを把握できていないため、含まれていない命の数は計り知れない。そしてこの中に芽生え出す憎しみの連鎖。忘れていく世界、そして何もしてくれない国々への感情はさまざまです。戦争という火種は消えてはいない。

 しかし、このニュースに関して日本国内の人々はどれほど反応しているのだろうか。東京・渋谷のセンター街、新宿のアルタ前、表参道の坂・・・。息を切らしながらすれ違う人々に問いたかった。こういう活動や声を上げる人・団体はいつも同じ。そこにも問題があると思うのです。同じ人たちで声を上げているが、肝心な世論を巻き込めていない。いや、巻き込むというのは語弊があります。気づいてほしい。「明日はあなたが過去最大を更新する数字に含まれるかもしれない」と。

 でも、残念ながらまだまだ遠い出来事として捉えてしまっている。もっと身の回りの変化に気づかないといけない。実は日本国内でも少しずつ異変は起きています。社会の中で確実に生活が脅かされ始めている人々が増えてきている。

2019年にイラクのダラシャクラン難民キャンプを筆者が訪れた際に見つけたバラの花

 先日、二子玉川駅の改札でその光景と出合った。きれいな衣服をまとった若い男性が茶わんを片手に物乞いをしている。その10メートル先では、また別の人が物乞いを。私以外の人々にも同じような衝撃があったと思います。みんな気になって振り返っていた。確実に今まで見えなかった闇が表面化してきている。彼らに聞いてみたかった。「なぜ、物乞いを?」と。

 その時は次の予定の時間が迫っていて、尋ねることができず・・・。とても後悔しています。活動家の言葉以上に力を持つのが「生きた証言」だからです。「記録」を求める現代社会において、「記録」よりも先に「記憶」と出合う必要があります。今、「記憶」よりも「憶測の記録」が出回っている。だからこそ私は「生きた記憶」と出合いたい。そして次の世代には「終わらせた戦争」と「始まった平和」の記憶を残せられるように。

 

サヘル・ローズ/俳優・タレント・人権活動家。1985年イラン生まれ。幼少時代は孤児院で生活し、8歳で養母とともに来日。2020年にアメリカで国際人権活動家賞を受賞。

(Kyodo Weekly・政経週報 2023年7月31日号掲載)

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