【キウイ物語(下)未来へ】スケールメリットが強さの源泉 欧州委員会が認めた効果 夢は「世界で最も健康的な果実ブランド」
ニュージーランド(NZ)北島の中心都市タウランガの中心部から北東に車でしばらく走ると、ウオーターフロント近くに位置するゼスプリ・インターナショナルの本社が見えてくる。
グリーンキウイを彩ったような緑色を基調とした外観が映える。1階から3階にかけては吹き抜け構造で明るい光が差し込み、NZの自然を持ち込んだような空間だ。入り口を入ると正面にマオリの守り神の彫刻がお出迎え。土地と人々を守るという「カティアキタンガ(守護精神)」の哲学を象徴しているそうだ。開放的なオフィスには400人超の社員が働く。座席はフリースペースで、1階の社員用のカフェのそばには、キウイを並べた大きなキウイスタンドが二つ。社員はいつでも棚からキウイを取って食べることができるといい、キウイがいくつも乗った社員の机も多い。この自由で活気ある空間の中で、ゼスプリの世界戦略が整えられ、進められていく。

外観が映えるゼスプリ本社
▽圧倒的なスケールメリット
ゼスプリの2024年度決算は、過去最大規模の収穫により、売上高にあたる営業収益は51億4000万ニュージーランド・ドル。販売されたキウイフルーツは2億2090万トレイと、いずれも過去最高。この営業収益は、NZ国内では上位の規模にある。
一般的な株式会社は「企業利益の最大化」を目指すが、ゼスプリの経営の目的は、「グローワーの収益の最大化」だ。
国内外への販売や広告活動などもゼスプリが担うため、販売の安定性や収益性は高く、グローワーは「作ること」に集中できる。こうしたことは個人農家では決してまねをすることはできない、いわば「スケールメリットの塊」といえる。そして、このスケールメリットこそが、世界市場を席巻している強さの源泉だろう。
▽日本市場に期待
1989年からゼスプリで勤務している、コラボレーティブ・マーケティング・マネジャーのウォレン・ヤングさんが、ゼスプリの強さを解説してくれる。
現在、生産者であるグローワーは約2800人、パックハウスはNZ内に80を数えるという。ヤングさんは「ゼスプリにはグローワーに生産のサポートをすること、パックハウスやラボとのつながりを大切にすること、サプライチェーン(供給網)を構築することの3つの大きな責任があります」と指摘する。
また「農業環境の水準やキウイの高品質が担保されていないと出荷はされません。ゼスプリの信頼性を守るために大切なことです」とゼスプリ・システムの厳格さが信頼性につながっていると言い切る。
現在、NZ国内では約1万5000ヘクタール(ha)の土地を利用してキウイを栽培。種類別の内訳は「ゴールド」が68.6%、「グリーン」は31.1%で、新品種の「ルビーレッド」はまだ0.3%に過ぎないという。そのため「今後は3~5年かけてグローワーを増やし、ルビーレッドの大量生産につなげたい」と意気込む。
日本市場については「キウイブラザーズは人気があるようですね」と笑い「日本は高齢化が進み、健康面を管理したいという人が増えてきています。キウイのマーケットシェアは伸びるのではないか。日本はとても重要な市場です」と期待する。

経営戦略を説明するゼスプリのウォレン・ヤングさん
▽1年を通した供給目指す
今後について、ヤングさんは「新型コロナ感染を経て世界的に健康への関心が高まっている。フルーツにおけるキウイのシェアは1%以下だが、だからこそチャンスだと思っている。世界的に中流階級が増えていること、高齢者が増えていることは追い風だ」とみる。
キウイは50カ国以上で販売されているが、さらに新しい販売先がないか、オンライン含め販売チャネルを増やしていけないか。北半球を中心に世界的にグローワーを増やし、1年を通して供給するためのマーケティング戦略を考えていくという。
▽欧州委員会が承認
「キウイは健康的と言っているだけでなく、科学的な裏付けが必要です」とゼスプリのイノベーション・マネジャーのポール・ブラッチフォードさんは強調する。
その言葉を証明する歴史的な出来事が2025年8月に起こった。ゼスプリのグリーンキウイが、欧州連合(EU)の欧州委員会から、生鮮フルーツとして世界で初めて「ヘルスクレーム」(健康強調表示)の承認を受けた。
ヘルスクレームとは、食品や栄養成分が健康に対して持つ機能性や有用性を公的に表示できる仕組みだが、その審査は極めて厳格だ。ゼスプリは15年間にわたり膨大な被験者データと臨床試験の結果を積み上げた。その結果、「グリーンキウイの摂取が、正常な腸の働きに寄与する」という因果関係が、欧州食品安全機関(EFSA)に科学的に認められた。これは農業の歴史においても画期的な一歩と評価されている。
これだけではない。MRIを用いた研究では、キウイの摂取が認知機能や脳活動に影響を与える可能性が示唆されている。また、皮膚試験では体内のビタミンC濃度に変化が確認されたことも報告されたといい、ブラッチフォードさんは「キウイが将来、健康ニーズに合わせて摂取されるような未来を目指している」と展望を語った。

ゼスプリのイノベーション・マネジャーのポール・ブラッチフォードさん
▽1日2個のグリーンキウイの効果
消化器系の専門家が補足する。
NZのオタゴ大学医学部のリチャード・ギアリー教授は、健康な被験者や、慢性の便秘患者を対象にグリーンキウイの腸機能への作用メカニズムを研究してきた。東北大学やイタリアのボローニャ大学などとの15年にわたる研究で、最終的には6件の臨床試験を使用。EFSAの委員会は「6件の試験から得られたエビデンスは、健康な被験者が1日2個のグリーンキウイを摂取すると、排便回数が週あたり約0.5回から2回増加するという好ましい効果を示唆していると見なしている」との見解を示した。
さらに、ニュージーランド・バイオエコノミー科学研究所の主任研究員であるジョン・モンロー博士は、腸機能におけるキウイの食物繊維について研究。キウイに含まれる食物繊維が分散すると、胃の空間を容易に満たし、他の食物を取り囲み相互作用することに気づいた。研究では、消化されたキウイの組織が消化プロセスに影響を及ぼす可能性があり、食後の血糖応答や腸内環境に関与する可能性を指摘している。また、こうした働きと腸の健康との関連についても、今後の研究が期待されるとしている。

ヘルスクレームについて説明するリチャード・ギアリー教授

キウイの効能について説明するジョン・モンロー博士
▽追い風と逆風
キウイの持つ豊富な栄養素の効能が科学的にも認められ、順調に世界戦略を進めているかにみえるゼスプリ。ただ「世界的な競争の激化、物価の高騰と景気の減速といった経済環境の悪化、紛争による地政学的な問題といった世界情勢も乗り越えなければいけない」(ヤングさん)と逆風も感じるという。
グローワーの満足度を上げて利益をもたらすこと、消費者への訴求力を高め、キウイは「プレミアムブランド」と思ってもらうことに精力を傾け、「2035年までに世界で最も健康的な果実ブランドになることが私たちの夢です」(ブラッチフォードさん)と熱く語る。
120年前、1人のNZ人女性が中国から持ち帰った果実の種子は太平洋を渡った。その一握りの種は、ショーンさん一家のようなグローワーたちの努力、ラボやパックハウスでの精密な検査と管理、そしてシール博士やギアリー教授ら研究者の探究心という多くの人々の努力と情熱によって、世界の人々を笑顔にする果実に姿を変えた。
オークランドの青い空の下、未来を見つめるゼスプリの取り組みは続けられている。キウイという小さな果実が描く物語は、これからもまだ続く。

キウイに張られるシール

吹き抜けが開放的なゼスプリ本社

ゼスプリ本社入り口にあるマオリの守り神
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