農業と食品産業の存続のために 鬼頭弥生 農学博士 連載「口福の源」
この4月に、「食料システム法」に基づく「合理的な費用を考慮した価格形成」に向けた措置が開始されたのをご存じだろうか。
近年、農産物や食品の生産コストが上昇する中、それが取引価格に適切に反映されず、生産者の持続的な経営が困難になる場合があることが問題となっている。
そうした問題を解決し持続的な食料供給を実現するため、食品の適正な取引、特にコストを考慮した価格形成を促す制度が定められた。
具体的には、食料全般の取引において、取引相手から費用などの考慮を求める事由が示されて協議の申し出がされた場合には誠実に協議すること、また、商慣習の見直しといった持続的な供給に資する取り組みの提案がされた場合には検討・協力すること。この二つが、努力義務として事業者に課される。
取引実態調査などに基づき、努力義務に対する取り組みが不十分と判断される場合には、指導・助言または勧告・公表の措置がとられることになっている。事業者間の協議で活用されることを想定し、米穀や野菜などの指定品目について、コスト指標作成団体がコスト指標を作成・公表することになっている。
こうした制度は、国内の農業・食品産業の存続に寄与するだろう。一方で、努力義務とコスト指標公表という枠組みは、どこまで実効性を持つことができるか。
市場の性質から来るジレンマも存在する。個々の事業者の経営や産業の存続を考えると、生産コストが取引価格に適正に反映されることは重要かつ必須なのだが、多くの場合、取引価格や最終小売価格が上昇することになる。
結果として、実需者や消費者が取扱量・消費量を減らしたり、代替品や輸入品の仕入れや購入に切り替えたりする可能性がある。「適正な価格形成に関する協議会」においても、生産側の意見として、コストを取引価格に反映する重要性とともに、そうした懸念への言及がなされていた(「適正な価格形成に関する協議会」議事要旨より)。
すると要になるのは消費側の理解と受けとめだ。農林水産省は消費者の理解醸成のための「フェアプライスプロジェクト」に取り組んでいる。動画配信のほか「値段のないスーパーマーケット」といった、展示を基に参加者自らが値付けをする参加型イベントなどを行っている。
国際情勢も重なり、農業・食品製造の資材コストのさらなる上昇や供給不足、物流コスト上昇も懸念される今、生産側も消費側も、間に立つ流通業者も非常に厳しい状況にある。他の制度も組み合わせながら、社会全体の意識も再構築しつつ、現在と未来の食と、それを支える農業と食品産業の存続を、皆で考えていく必要がある。
きとう・やよい 愛知県出身。京都大学大学院農学研究科修了。2019年から同研究科講師。消費者行動、リスク認知などを研究。
【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No.17からの転載】
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