電動車用モーターからレアアースを回収 2030年ごろの実用化目指す 日産自動車と早稲田大学が共同開発
近年、世界中で電気自動車(EV)やハイブリッド車(HEV)の普及が進展しています。これに伴い、その心臓部である「モーター」に使用されているレアアース(希土類)のリサイクルの重要性が高まっています。
一方で、レアアースの供給制約や調達リスクが指摘されており、自動車メーカー各社は、安定調達と供給網の多角化に取り組んでいます。
今回は、電動車の性能を左右するレアアースの役割と、その資源価値に着目し、これを有効活用するために、日産自動車と早稲田大学が進める共同研究について解説します。

レアアースリサイクルプロセス(日産自動車提供)
レアアースの役割
レアアースは、スマートフォンやパソコン、身近な家電製品に至るまで、幅広い電子機器に使用される重要な素材です。レアアースは、地球上に偏在していたり、あるいは採掘や製錬が難しいとされる希少金属(レアメタル)31種類のうち、ネオジムやジスプロシウムなど17元素の総称を指します。
自動車分野では、EVやHEVの動力源であるモーターにおいて、レアアースが重要な役割を担っています。自動車を動かすための高性能なモーターを作るためには、極めて磁力が強い磁石が必要です。現在、多くの自動車用モーターに「ネオジム磁石」が採用されています。
このネオジム磁石には、ネオジムに加えてジスプロシウムなどのレアアースが使用されており、高温環境下でも磁力を維持するための耐熱性向上に寄与しています。レアアースを使ったモーターは、パワー、耐熱性が優れるので、モーターの高出力化・小型化につながります。
レアアースの確保
しかし、このレアアースの確保に関しては、生産と精製工程の多くを中国が担っていることによる供給面での課題があります。
レアアースを採掘し、純度の高いレアアースへと「精製」するプロセスには、高度な技術と莫大なコスト、そして環境負荷への対応が伴います。長年、この採掘・精製プロセスを国家戦略として推し進めてきた中国は、現在でも世界のレアアース供給網(サプライチェーン)の大きな役割を担っています。
日本では今年1月、中国からのレアアース磁石の輸入が前月比21.1%減と急減しており、輸出規制の影響が顕在化しつつあります。これに対抗するため、4月1日の日仏首脳会談でもレアアース供給網に関する協力工程表が確認されたばかりです。
今後、EVやHEVなどの電動車の普及が進めば、レアアースの需要はさらに増加します。レアアースをいかに確保するかは、日本の自動車産業、ひいては国全体の重要課題といえます。

回収されたレアアース化合物(日産自動車提供)
期待されるリサイクル
このリスクを回避するため、自動車業界では使用量削減・代替・ソース多様化といったアプローチが進められています。例えば日産では、新型リーフにおいて、初代リーフと比較して重希土類の使用量を約90%削減し、アリアでは永久磁石を使わないシステムを搭載しています。一方でサプライチェーンの観点では、商社をはじめとした企業がオーストラリアや北米など、中国以外の国からのレアアース調達ルートを開拓しています。しかし、性能面やコスト面で、すぐに完全な代替ができるわけではありません。
そこで、もう一つの強力な切り札として長年期待されてきたのが「リサイクル」です。
日本国内では、電動化の進展により、ハイブリッド車やEVの販売台数は増加傾向にあります。これらに搭載されていたモーターの中には、貴重なレアアースが使用されています。これらを廃車から回収して再利用できれば、日本の「都市鉱山」から安定して資源を調達できるようになります。
しかし、「言うは易く、行うは難し」です。これまでレアアースのリサイクルには「コストと手間」という非常に厚く高い壁が立ちはだかっていました。従来の回収方法は、廃車からモーターを取り出し、さらにモーターを手作業で細かく解体し、中から磁石を取り外すという非常にアナログで面倒なプロセスが必要でした。しかもモーターの磁力は強力で、部品同士がくっついてしまうため分解作業は困難を極めます。結果として「新しく輸入した方が安い」という状況になり、本格的な事業化が進んでいなかったのです。
日産と早大が技術開発に成功
この重苦しい現状を打破すべく、画期的な技術開発に成功したのが、日本のEV市場をけん引してきた日産自動車と、早稲田大学(創造理工学部環境資源工学科 山口勉功研究室)の共同プロジェクトです。
その開発の裏側について、日産自動車の材料技術部シニアエンジニアの小川和宏氏が解説してくれます。

日産自動車材料技術部 シニアエンジニアの小川和宏氏
小川氏によれば、プロジェクトの始まりは2016年から2017年ごろにさかのぼります。
「2010年頃に、レアアースの供給がひっ迫し、レアアースを使わない磁石への代替、レアアースの使用量の削減の対応を進めましたが、日産ではリサイクルも必要だという強い思いがありました。日産は2010年に『日産リーフ』を発売し、パイオニアとしてEVをリードしてきました。だからこそ、電動車を普及させる側として、資源を安定供給させ、循環させる責任があると考えました」(小川氏)。
日産が目をつけたのが、早稲田大学の山口研究室が持つ「乾式製錬法」という技術でした。山口教授らが取り組んだのは「わざわざモーターから磁石を解体しなくていい」という発想です。同大の大型の炉設備を使用し、なんと、使用済みのモーターを解体せず、磁石を含んだそのままの状態で、1400度以上という超高温の炉に放り込んでドロドロに溶かしてしまうのです。

モーター内のローター(日産自動車提供)
「モーターの中にはローターという回転部品があり、そこに磁石が組み込まれています。ローター1台には、だいたい1.5kgから2kgの磁石が入っています。これを丸ごと炉に入れて溶かす。そこに『フラックス』と呼ばれるホウ酸塩などを主成分とした物質を加えます。すると、密度差で、溶けたモーターの中で鉄などの金属の相と、レアアースを含んだ相(スラグ)がきれいに分離し、レアアースを含むスラグ相が上に浮き上がってきます」(小川氏)。
現在苦労して行われているモーターの解体作業が不要になるため、レアアースの回収にかかる作業時間は、従来の手法に比べて「約50%も削減」できることが確認されました。圧倒的な効率化です。

早稲田大学での実証実験(日産自動車提供)
共同開発したリサイクル技術のプロセスは以下の通りです。
(1)加熱溶融を促進する銑鉄、鉄の融点を下げる加炭材を加え、1400度以上に加熱した炉でモーターを溶融
(2)酸化鉄の添加により溶融液中のレアアースを酸化
(3)レアアース酸化物を溶かすため、ホウ酸塩系のフラックスを少量添加
(4)「レアアースを含んだ酸化物相」と、より密度が大きい「レアアースを含まない鉄-炭素合金相」を分離
(5)上層に分離された酸化物相から、レアアース化合物を回収

レアアース酸化物含有スラグ(日産自動車提供)
フラックスの最適化がポイント
しかし、この画期的な技術が完成するまでには、長い時間と多くの試行錯誤が必要でした 。小川氏が「最も困難だった」と振り返るのが、レアアースを分離させるための「フラックス」の最適化です。
「フラックスの選定に関しては、材料と濃度、溶融温度などさまざまな条件の組み合わせから、山口教授がもっていた豊富なノウハウをもとに、試行錯誤しながら絞り込みを行いました。約2年かけて最終的に『ナトリウムホウ酸塩』という化合物で、レアアース酸化物を少量、低温で分離できる条件を見出しました」と振り返ります。

フラックス(日産自動車提供)
もう一つの壁が「スケールアップ」です。実験室の小さな試薬で成功しても、実際の自動車部品でうまくいくとは限りません。小川氏は「小さなスケールのラボ実験から始めて、最終的には実際に1.5kgから2kgの磁石が入ったローターを丸ごと1台溶融する大型実験へとスケールステップアップしていきました。ここで重要なのが回収率です。
私たちの技術では、ローターに含まれる希少なレアアースの回収率は98%に上ります。ロス分はわずか2%です」と胸を張ります。簡便な再生プロセスで新品同様の素材として蘇らせる、画期的な技術です。「現在は他社製のモーターでも同様なことができるのか確認を進めている」といいます。
技術的なブレイクスルーは見えてきました。しかし、これをビジネスとして成立させ、実際に社会で回していくためには、社会的な課題も存在します。
廃車が確保できない
経営戦略本部コーポレートものづくり戦略部主管の美藤洋平氏が、自動車メーカーが目指す「Car to Car」の水平リサイクルに向けた現状の課題を説明してくれます。
美藤氏が最も強い危機感を抱いているのが「そもそもリサイクルするための廃車(廃モーター)が日本国内で確保できない」という構造的な問題です。
「日本のハイブリッド車やEVといった電動車は高い信頼性に加え、国によっては中古車でもエコカーに対する優遇があるなどの理由で、中古車として海外で非常に高い人気があります。その結果、せっかくの貴重な資源を使用した電動車が海外へ輸出され、流出してしまうのです」と美藤氏は話します。せっかく国内に「都市鉱山」があっても、掘る前に海外に持っていかれているのが実情です。
「国内マーケットに資源をとどめることができるように、制度の在り方も論議されるべき」と美藤氏は指摘します。

自動車経営戦略本部コーポレートものづくり戦略部の美藤洋平主管
経済合理性とトレーサビリティー
さらに、「経済合理性」というシビアな現実もあります。
「いくら環境に良いリサイクル技術でも、事業として持続可能なものにするためには、経済合理性を高める必要があり、低コストで大量に処理できるスキームにすることが必須です」(美藤氏)。
これを解決する鍵の一つが、信頼性を担保するための「トレーサビリティー(情報追跡)」の仕組みです。
どのメーカーの、どの年式の車のどんな部品に、どんなレアアースが、どれくらい含まれているのか。現在、解体業者の現場では、廃車を見ただけではモーターなどの中身までは分かりません。だからこそ信頼性があって広く利用可能なトレーサビリティーが重要なのです。
「バッテリーについてはこれらの情報管理が先行していますが、モーターのレアアースに関しても、製造段階から情報を付与し、廃車時にスムーズに仕分け・回収し、どこに還流するのかが管理できるような『情報基盤』を業界全体で作っていく必要があります」と美藤氏は話します。「Car to Car」の水平リサイクル実現には、自動車メーカーだけでなく、解体業者やリサイクル業者、そして国、自治体が一体となった「巨大なエコシステム」の整備、構築が急務です。
日産は、誰よりも長くEVと向き合ってきたメーカーだからこそ、EVが普及した後の「バッテリーの再利用(4Rエナジー事業)」や「希少資源の回収」といった、クルマの一生を見据えたサステナビリティー(持続可能性)にいち早く取り組んできました。
資源を余すところなく有効活用するために、日産と早稲田大が描くこの未来図は、資源小国・日本が世界で戦い抜くための大きな武器になるはずです。
現在、この技術は2030年頃の実用化を目指して、さらなる実証実験が進められています。私たちの乗るクルマが、将来別のクルマの心臓部になって生まれ変わる。そんな理想的な循環型社会が、すぐそこまで来ています。
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