「アクションプラン」をアップデート 自動車産業守る「経済安全保障」 再生プラスチック市場の整備進める環境省
「このままでは日本の自動車は世界から締め出される。国が設定した数値目標には届かない。だからこそ、仕組みそのものから考え直す必要がありました」。
東京・霞が関。中央合同庁舎第5号館に入る環境省の会議室で、環境再生・資源循環局資源循環課の河田陽平・資源循環制度推進室長は力強く語り始めました。
2026年3月。日本の自動車産業の未来を左右する可能性がある一つの報告書がまとめられました。その名も「自動車向け再生プラスチック市場構築アクションプラン」。2025年に発表された前計画を、わずか1年で大幅にアップデートした異例の“強化版”です。
なぜ、環境省は急ぐのか。その背景にはグローバルな再生プラスチック市場での日本の出遅れ感と、欧州が市場での立場を有利に進める「欧州の規制」があります。
10年後、世界の自動車市場や私たちの乗る自動車は、どう変わるのか。見えてきたのは、今回のアクションプランは単なる環境保護の取り組みではなく、日本の基幹産業である自動車産業を守るための「経済安全保障」の一手といっても過言ではないという切迫した現実の現れです。

環境省の河田陽平 資源循環制度推進室長
空洞化
「サーキュラーエコノミー(循環型経済)」をめぐる日本および世界の現状をまとめてみます。
世界各国で重要鉱物やリサイクル資源の輸出の管理強化、グローバル企業の再生材の利用が進む中、日本は長い間、石油、金属をはじめとした資源を輸入に依存してきています。石油、ナフサ、鉱石、金属、金属製品の合計輸入額は年間で30兆円を超える水準です。
一方で、欧州連合(EU)は廃棄物輸送規則改正で、EU域外への廃電子機器の輸出規制を強化したり、米国は国内で発生する高品質銅スクラップの一定割合について、2027年から国内販売を義務付けたりするなどの対応を取り始めています。
日本では2024年8月に循環型経済への移行を国家戦略として「第5次循環型社会形成推進基本計画」を閣議決定しました。素材循環重視のリサイクルを進めることで再生材の価値が市場で評価され、可能な限り循環利用されるようになるのが狙いです。
しかし、現状は、毎年約910万トン発生している廃プラスチックの約8割は焼却されており、国内でリサイクルされた再生プラスチックも、その約6割が輸出されているなど、国内の再生プラスチック市場はいまだ十分に構築されていないという厳しい指摘があります。
河田室長は「サプライチェーン(供給網)が安定しておらず、国内の再生プラスチック市場は空洞化しているのが実態です」と警鐘を鳴らし、今回のアクションプランが「その解決に向けた第一歩になりました」と胸を張ります。

自動車に使用されるプラスチック部品イメージ(出所:環境省)
先行する「欧州の規制」
こうした現実を横目に、欧州委員会は「ELV(End of Life Vehicle)指令」等を改正する「ELV規則案」を発表。2026年2月に最終条文案が公表され、再生プラスチック含有率の義務化要件として、規則施行6年後に15%以上、10年後に25%以上(うち自動車由来割合を20%)とする旨が示されました。
先行する欧州に対し、日本がこうした流れに取り残されれば、日本の優れた性能の自動車が「環境性能が低い」とみなされ、海外市場で売れなくなったり、高額な関税を課されたりするリスクが出る恐れがあります。
EUなどに比べ再生プラスチック市場での出遅れ感に強い危機感を抱く環境省は、アクションプランの中で「製造業等がグローバルな競争力を強化していくためには、国内の再生材の質・量の確保と利用拡大を推進し、国際的な資源獲得競争で優位に立つことが重要」と明記。劣勢を挽回すべく、本格的な取り組みを始めました。
産官学が一つに
自動車やプラスチックといった素材関連の業界団体なども“共闘”に乗り出すべく動きました。「産官学コンソーシアム」の立ち上げです。
2024年11月、環境省は経済産業省と連携し、これまで連携が不十分であった自動車製造業から資源循環産業までのサプライチェーンを横断する業界団体を集めたほか、大学教授ら有識者も加えた「自動車向け再生プラスチック市場構築のための産官学コンソーシアム」を発足。現在、コンソーシアムを構成する団体は計13団体に及んでいます(2026年3月時点)。
「これまで連携が不足していたいろいろな業界がまとまったのは意義があります」と河田室長は話します。「自動車メーカーだけでなく、化学メーカーや装置メーカー、家電業界なども関心を持ってくれています」と、産業界全体を巻き込み、“ALL JAPAN”で臨んでいきたいと期待を寄せます。

産官学コンソーシアムの目指す姿(出所:環境省)
「質」「量」両面からのアプローチ
コンソーシアムでは当初、「質」「量」の両面からのアプローチを試みました。高品質な再生材の流通量拡大を進めるとともに、再生材の価値訴求を通じて再生材市場の構築を進め、プラスチック資源循環を促進し、リサイクルの高度化を進めるとの方針を取りまとめました。
その中で、2031年以降から2035年までには日本で生産される新型車両におけるプラスチック使用量の15%分以上、2036年以降から2040年までには20%分以上、2041年以降は日本において生産されるすべての車両におけるプラスチック使用量20%分以上を再生プラスチックとするための必要供給量目標を掲げています。
さらに、ワーキンググループを使用済み自動車由来のプラスチックを利用する「Car to Car」リサイクルと、使用済み自動車由来以外のプラスチックを利用する「X to Car」リサイクルの2つに分けてそれぞれで検討を進め、課題などの洗い出しを徹底的に行いました。

自動車向け再プラ等の供給量目標(出所:環境省)
衝撃的な分析結果
定量分析を踏まえた課題の洗い出しや現状分析の結果は、衝撃的なものでした。
「質」については「品質の底上げと、ばらつきを抑えるための均質化が必要であることが示唆された」とし、「量」については「供給量目標に対して将来的にも不足する見込みで、Car to Car、X to Carともに供給量拡大に向けたさらなる対応が必要」と分析。特に2041年時点の供給見込み量の試算結果は約6.9万~9.5万トンで、供給量目標の20万トンに対して半分以下にとどまっています。
「価値」については「再プラ製造コストについては、バージン材販売価格を上回る試算結果となり、コスト削減に向けた大規模化・集約化が必要であることが示唆された」との結果が出ました。
また、定性分析の結果では「Car to Car」と「X to Car」には共通の5つの本質的な課題が見つかりました。
(1)国内循環(自動車等向け)に回すモチベーションが必要
(2)装置産業化・量の集約が必要
(3)再プラ利用拡大のための設計が必要
(4)情報連携が必要
(5)再プラの価値訴求が必要
そこで、アクションプランでは、こうした定量・定性分析を踏まえ、5つの施策の方向性をまとめました。
(1)国内資源循環量の最大化(量の確保)
(2)技術導入(再プラ回収・製造技術の高度化・量産化・標準化等)
(3)再プラ拡大設計(再プラの適用量を拡大するための設計指針の取組等)
(4)情報連携基盤の活用(トレーサビリティー等)
(5)再プラ価値訴求(認証制度等)

Car to Car プロセス別の問題点と構造的課題の関係整理(模式図、出所:環境省)
「不適正な輸出ルート」洗い出しも
「正直に申し上げて、2025年の時点では、まだ希望的観測もありました。でも現状把握ができたのは大きかった」。河田室長は苦笑い混じりに振り返ります。
2025年3月、環境省は「2031年以降、新型車に使うプラスチックの15%以上を再生材にする」という目標を掲げました。しかし、その後のデータ分析によって、厳しい現実が突きつけられました。それがアクションプランの「改訂」につながったのです。
最大の課題は「圧倒的な供給不足」です。現在、日本国内の廃車から回収されるプラスチックの量だけでは、メーカーが求める需要を満たすには全く足りません。さらに、もう一つの壁が「質の不一致」です。
「自動車メーカーは、安全のために極めて高い純度の樹脂を求めます。しかし、これまでの解体現場では、複数の樹脂が混ざり合った状態で回収されることが多く、そのままでは『また車に戻す』ことは技術的に困難でした」(河田室長)。また、中古となった自動車が海外に輸出されている「量」の現状に対しては「不適正な輸出ルートを洗い出すなど輸出に関する制度の見直しも進めないといけないでしょう」と捜査当局などとの連携も訴えます。
量が足りない、質も届かない、そして手間がかかる分コストも割高になる―。いわば「三重苦」というギャップをどう埋めるか。それが、2026年版アクションプランに課された最大のミッションだったのです。

本質的な課題と5つの施策の方向性(出所:環境省)
「新産業創出」の意気込み
アクションプランとして打ち出した一つの“結論”が「再プラ集約拠点」設立の必要性です。「現状の再プラ製造は、地域分散型で1社あたりの生産量が少なく、量の確保が不安定であることに加え、品質のばらつきが大きいことから、自動車向け再プラ供給における供給能力・高品位を実現するサプライチェーンが多くは存在しない」とし、「自動車向け再プラの供給能力を有し、サプライチェーンを強靱化する体制を構築するためには、地域に根ざした適正処理のネットワークを生かし、各リサイクラーで生産される再生プラスチックを全国何カ所かで束ねる『再プラ集約拠点』が必要ではないか」との見解を打ち出しました。
「再プラ集約拠点」について、河田室長が補足します。「公表はまだできませんが、いくつかの企業、団体から拠点の設立などで前向きな意見をいただいています。ただ、官民での投資、事業となるので、土地利用なり予算計上なり、やるべきことは多い。ほかの省庁や企業、団体と役割分担をしながら、環境省としてはしっかり旗振り役を担っていきたい。新産業創出のつもりで、急ピッチで取り組みたいと思います」。

再プラ集約拠点の必要性(出所:環境省)
3つのフェーズ
今回公表されたロードマップでは、再プラ集約拠点を3つのフェーズで整理しています。
フェーズ1:自動車向けに適用可能な品質まで向上させる
フェーズ2:需要量増加に対応するために処理能力の向上を図る
フェーズ3:グローバル競争力を持つようなコスト最適化を図る
コンソーシアムは今後、年2回開催を予定。再プラ集約拠点の全体戦略の方向性整理や、需要喚起策の検討などを行うといい、その内容に注目が集まります。

再プラ集約拠点のスケールイメージ(出所:環境省)
ロードマップの先にある循環型社会
河田室長の言葉に熱がこもったのは「国際競争」の話題でした。
EUでは、再生プラスチックの使用を義務付ける厳しい規制が始まろうとしており、これが日本の自動車輸出にとって大きな「障壁」になるリスクがあります。「欧州に言われたからやる、という受け身ではありません。日本には、世界に誇る緻密な解体・リサイクル技術があります。今回のロードマップは、日本が培ってきた技術をシステム化し、世界標準をリードするための攻めの一手なのです」(河田室長)。
つまり、このリサイクル網の構築こそが、日本の自動車産業が世界で生き残るための「武器」になるということです。
環境省が目指すのは、単なる規制順守ではありません。車が「一生を終えて捨てられるもの」から「何度も生まれ変わる価値ある資源」へと、社会や国民の意識をアップデートする試みなのです。
気がつけば、自動車リサイクルは、日本の競争力を左右する戦略的産業に進化を遂げました。2031年から始まる本格的な目標運用を前に、環境省の並々ならぬ覚悟が伝わってきます。このアクションプランは、日本が循環型社会で世界をリードするための強力な意思表明であり、このロードマップの先には目指すべき循環型社会がつながっているのかもしれません。
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