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最少の人口生かした「鳥取モデル」始動 全世代を金融不安から守る教育プロジェクト J-FLECが全面支援

J-FLECの事業概要(提供:J-FLEC)

 「新NISAを始めたけど本当にこれでいいの?」

 株式市場が好調に推移している昨今、日本中が「お金の学びブーム」に沸いています。2024年にスタートした新NISA(少額投資非課税制度)をきっかけに、資産形成に興味を持つ人が急増しています。ただ、一方で「何から学べばいいのか分からない」という声も多く聞かれます。

 そんな中、日本の「お金の教育」を大きく変えるかもしれない取り組みが、鳥取県で始まろうとしています。

 6月11日に鳥取県庁で発表された「J-FLEC」。人口約51万9000人(2026年4月時点)と日本で一番人口が少ない鳥取県が、なぜ今、「マネー教育の最先進県」になろうとしているのでしょうか? その背景には、国が立ち上げた組織の存在と、鳥取ならではの「人と人のつながりの強さ」を生かした地域密着の戦略がありました。

 

▽中立・公正なJ-FLEC誕生

 まず知っておきたいのが、日本のマネー教育の“総本山”となっている「J-FLEC(ジェイフレック=金融経済教育推進機構)」という組織です。

 これまでも、銀行や証券会社といった金融機関が主催するマネー関連のセミナーはたくさんありました。しかし「最後には特定の金融商品を勧められるのでは?」という不安がつきまとっていたのも事実です。

 そこで、国や金融業界などの後押しを受けて2024年に誕生したのがJ-FLECです。特定の金融商品・サービスの売り込みを一切しない「中立・公正な立場」から、国民一人一人が金融リテラシー(お金に関する知識・判断力)を身につけられるよう、ニーズに合わせた学びや相談の機会を届けるために作られました。

 J-FLECの主な事業活動は利用者には至れり尽くせりです。

 厳しい審査をパスした中立なお金の専門家を、無料で学校や企業、地域の集まりに派遣してくれる「講師派遣(出張授業)」や、お金に関する無料イベント・セミナーの実施だけでなく、スマホやパソコンからいつでも学べる動画や講座を用意している「無料のeラーニングや教材の提供」などがあります。これらを活用することで、家計管理や生活設計、資産形成、金融トラブルをはじめとする幅広い知識を学ぶことができます。

 

▽順調な成果

 J-FLECの安藤聡理事長は「J-FLEC誕生以来、私たちは厳しい審査をパスしたお金の専門家を、学校、企業、地域の集まりなどへ無料で派遣する活動を愚直に続けてきました。これまでの実績として、全国の小中高校での出張授業をはじめ、大手企業から中小企業での職域研修、公民館でのシニア向け講座など、数多くの学びの場を創出しています。受講された方々からは『特定の金融商品を勧められないから安心して基礎から学べた』といううれしい声を多数いただいており、中立的な学びへのニーズの強さを実感しています。スマホでいつでも学べる無料のeラーニングや、年代別の学習教材の提供も好評で、順調に日本全国へお金の知識が行き届き始めていると思います」とこれまでの活動の手応えを感じています。

J-FLECの安藤聡理事長

 

▽焦る鳥取県

 国は、このJ-FLECをはじめとするさまざまな関係者の取り組みにより、2028年度末までに「金融経済教育を受けたと認識している人の割合」を米国並みの20%に引き上げるという高い目標を掲げています。

しかし、最新の調査(J-FLEC「金融リテラシー調査(2025年)」)では、日本全国の平均はわずか8.7%。理想と現実の間には、まだまだ大きなギャップがあるのが現状です。

 このギャップに危機感を募らせていたのが鳥取県でした。

 同じ調査で、鳥取県内の「お金の教育を受けたと認識している人」の割合は8.5%。前回の3.8%(全国46位)から21位へと急浮上したものの、依然として全国平均(8.7%)の壁を越えられずにいます。

 金融経済教育を推し進めるための現場も悲鳴を上げています。鳥取県でお金の情報発信を担う「鳥取県金融広報委員会」(愛称:とっとり金融経済教育推進センター、会長:鳥取県知事)の事務局(鳥取県消費生活センター、日本銀行鳥取事務所、中国財務局鳥取財務事務所)のメンバーは、所属団体の業務を担う中で活動しています。そのため、実質的に動けるスタッフは数人程度という、圧倒的な人手不足に悩まされているのです。

 せっかく国がJ-FLECという機関を作っても、学校や企業、公民館などに有意義な情報が届かなければ宝の持ち腐れになってしまいます。さらに、知識の不足は近年、大きな社会問題となっている「SNS型投資詐欺」や「特殊詐欺」の被害リスクを増大させます。

 こうして立ち上がったのが今回の「鳥取金融経済教育推進プロジェクト」です。

出張授業などで学べる内容(提供:J-FLEC)

 

▽鳥取モデルの3つの特長

 6月11日に公表されたこのプロジェクト。プロジェクト発表に先立つ金融広報委員会の総会では、県庁幹部や県議会議長、教育委員会の教育長らも参加する中でプロジェクトを含む2026年度の活動方針が確認され、会見には県内の金融機関の代表だけでなく、あらゆる業界、組織の代表が参加し、プロジェクト推進の意気込みが伝わってきました。

 これまでの取り組みとは一線を画す、ユニークで地元の強みを生かした戦略になっています。名付けて「鳥取モデル」。その主なポイントは3つです。

(1)全世代を対象

 金融経済教育と聞くと、大人のための株式投資の話と思いがちですが、鳥取モデルは違います。対象は児童・生徒から、大学生、社会人、そして高齢者まで。学ぶ内容も資産形成や投資だけでなく、家計管理、生活設計、ローンや保険、年金、税金、そして悪質商法や特殊詐欺の防止まで「暮らしを守るための知識」がフルラインアップされています。

 さらに、初年度から「租税教室」とコラボした「税×金融経済教育」の授業を学校で展開したり、教職員向けのセミナーを開催して教える側の担い手を育てたりと、具体的な内容が練られています。

2)マネーリテラシー・ナビゲーター新設

 プロジェクトの大きな武器となるのが、新設される「マネーリテラシー・ナビゲーター」という役割です。これは、難しいお金の授業を行う講師のことではなく、県内の企業や学校、団体などのスタッフの中から選ばれる「学びの橋渡し役(ネットワークのハブ人材)」です。

 「うちの会社でも社員向けに新NISAの研修をやりたい」「公民館で高齢者向けに特殊詐欺対策の講座を開きたいが、どこに頼めばいい?」

そう思った時、このナビゲーターが窓口となり、J-FLECの無料講師派遣や学習教材など、プロジェクトに参加する団体の教育プログラムを紹介して組織の仲間につなぎます。ナビゲーターが多く登録され、県内各地に散らばることで、行政の手が回らなかった地域の隅々まで、お金の教育が行き届くようになります。

(3)少ない人口が強み

 鳥取県は人口が少ないからこそ、行政、学校、金融機関、経済団体、地域コミュニティーの距離が近いというメリットがあります。

 今回のプロジェクトには、県内の金融機関だけでなく、商工会議所、教育委員会、老人クラブ連合会、メディアなどの関係機関がタッグを組んで参画します。

 この強力なネットワークをもとに「3年間で約6万人(年間約2万人)」に教育を届けるという壮大な目標を掲げました。鳥取県の人口(約51.9万人)から計算すると、県民の8人に1人以上が、この3年間で何らかのお金の学びを体験することになります。このスピード感とカバー率は、大都市圏では真似できない、鳥取ならではの「鳥取モデル」の真骨頂です。

講師を派遣して中学校で授業(他県での実施例)(提供:J-FLEC)

 

▽地方自治体のお手本に

 プロジェクトは、いよいよ本格的に展開していきます。

 今後は、地元のテレビや新聞、チラシ、ホームページなどを通じて、県内全域に「お金を学ぶ機会」の提供がアナウンスされていく予定です。

 2027年3月には、参画組織が集まる「とっとり金融経済教育推進ネットワーク会議」が開催され、どれだけ県民に学びが届いたかの“振り返り”が行われます。一過性のイベントで終わらせず、持続可能な仕組みにしていく取り組みも万全です。

 鳥取財務事務所の平井芳一所長は「鳥取県は人口が少ないですが、その分、顔の見える関係が強固です。35もの機関がこれだけ一枚岩になれるのは鳥取だからこそ。J-FLECの強力な実績とコンテンツという後ろ盾を得て、この緊密な横のつながりをフルに生かせば、鳥取のどこにいても、誰もが気軽にお金の正しい知識を学べる環境を作ることができると確信しています。一過性のイベントで終わらせず、持続可能な仕組みとして地域に根付かせていきます」と宣言する。

 お金の話をすることは、決して恥ずかしいことでも、一部の投資家だけの特権でもありません。今回のプロジェクトのキャッチフレーズにあるように「知ることは人生・生活を守ること。未来を照らす金融経済教育」そのものなのです。

 人口最少県である鳥取県が、地域の絆を最大限使って挑む「鳥取モデル」が成功すれば日本全国の地方自治体が真似するお手本になるに違いありません。

 家計が苦しい時、将来に不安がある時、正しい知識という武器を持っているかどうかで、人生の選択肢は変わります。

 県外に住む私たちも、鳥取から発信されるこのムーブメントから大いに刺激をもらえるかもしれません。

 

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