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「特集」 政治資金問題なぜ起きるか裏金事件は終わらない 

 自民党の最大派閥、安倍派(旧細田派、清和政策研究会)などの政治団体が裏金をつくっていた事件は、筆者が東京地検に告発状を提出してから特捜部による強制捜査に至るまで、実に1年余りの期間を要しました。

「赤旗」のスクープ

 政治資金規正法は、政治団体の政治資金パーティーにつき、20万円を超えるパーティー券購入者(個人、法人、政治団体)の氏名や金額など明細を収支報告書に記載するよう義務づけています。ところが、自民党の主要5派閥の各政治団体は、2018~20年に開催した政治資金パーティーで多くの政治団体が20万円超のパーティー券を購入していたのに、その明細を記載していなかったり、記載はしていても金額を過少に報告していたのです。組織的に行われた悪質な規正法違反(不記載・虚偽記入罪)でした。

 これを丹念に粘り強く調査し規正法違反を見つけたのが「しんぶん赤旗日曜版」(日曜版)の記者でした。日曜版22年11月6日号で「2500万円分不記載」とスクープしました。同月13日号でも報じています。

 私はその報道直前に記者から連絡を受け、上記の悪質性のほか、明細不記載分はおそらく裏金になっているのではないかとコメントし、報道直後から23年正月にかけ5派閥の政治団体ごとに会長、会計責任者らを順次刑事告発しました。とはいえ、この時は「裏金」の決定的な証拠がなかったので、前述の明細不記載・虚偽記入罪での告発状提出となりました。その後、10月にも日曜版の記者から明細不記載は21年分もあったと連絡を受け、追加告発しています。

 日曜版は23年11月5日号で新たに「パー券積もりに積もって4000万円」と報じました。昨年11月下旬には22年分収支報告書が公表されたので、私は各派閥の政治団体の18年分~22年分の各収支報告書を再度精査。各収支報告書の訂正を確認し、取材・報道後の訂正は〝自白〟に当たるとして11月末から今年正月にかけ、5派閥の政治団体ごとに歴代の事務総長も含め順次追加告発しました。

 5派閥の各明細不記載額は、清和政策研究会3290万円▽志帥会(二階派)1576万円▽志公会(麻生派)918万円▽平成研究会(茂木派)838万円▽宏池政策研究会(岸田派)302万円。以上、総額6924万円でした。

 これは〝氷山の一角〟でしょう。そもそも企業や個人は収支報告制度がないので、20万円超のパーティー券購入を確認できなかったからです。

検察審査会に申し立てへ

 昨年12月以降は連日、裏金事件が報じられました。5派閥の政治団体は所属議員にパーティー券販売のノルマを課し、そのうち、安倍派はパーティー券販売ノルマを超えた分を議員側にキックバック(寄付)し、その収支を収支報告書に記載しない裏金にし、また、所属議員が派閥に販売金を渡さず裏金になっているもの(中抜き)もあるというのです。5年間の裏金額はキックバック分で5億円超、「中抜き」も含めると6億円。また、二階派は2億円超、岸田派は3年間で2千万円超と、それぞれ報道。実は、明細不記載等の各告発状で裏金の可能性を指摘して東京地検に捜査を求め、それが的中し功を奏したようです。

 東京地検特捜部は昨年12月、安倍派や二階派の関係先、安倍派の池田佳隆衆院議員と大野泰正参院議員の各議員会館事務所などの家宅捜索に踏み切りました。うち池田議員については、秘書に「証拠になるものは消せ」と証拠隠滅を指示していたとして今年1月7日に議員本人らを逮捕、その後起訴しました。

 池田議員の「池田黎明会」は昨年12月8日に20~22年分の各収支報告書を訂正し不記載を〝自白〟したので、各年の正確なキックバック額が分かりました。1月8日付朝日新聞は、18年と19年の金額を含め計4826万円だったと報道。私は、池田議員らと安倍派側をキックバックの不記載罪で改めて刑事告発しました。キックバック事件で初の告発となりました。

 報道によると、安倍派の会計責任者と事務担当者は事務総長にキックバックを報告。22年7月の安倍晋三会長死去後、安倍派は、塩谷立・会長代理、下村博文・会長代理ら7人による世話人会の集団指導体制がとられ、世話人会は森喜朗・元会長の意向が反映されたという。安倍派は22年、キックバックを取りやめる方針を決めたものの撤回し、撤回前に複数の幹部が集まり協議していたと報道されたので、22年分は前記8人を含む共謀は明らかだとして刑事告発をしたのです。

 特捜部は1月19日、3派閥(安倍・二階・岸田)の8人だけを刑事処分。その前後で、私は各派閥の20〜22年分の各収支報告書の訂正を確認して、茂木派280万円、岸田派2501万円の裏金プールの不記載を、二階派1億5837万円余りの裏金プールと3年間で計6533万円のキックバックの不記載を、それぞれ刑事告発しました。安倍派が3年分の収支報告書を訂正すれば、キックバック額と裏金額が確認できるので刑事告発する予定でいます。

 また、私のこれまでの刑事告発のうち、20万円超の政治資金パーティー収入明細不記載のほとんどについては、東京地検から1月19日に被告発人全員を不起訴にしたとの「処分通知書」が同月24日届きました。今後、不起訴理由の開示請求をし、「不起訴処分理由告知書」が届けば、東京検察審査会に「起訴相当」の議決を求めて審査申し立てをします。他の告発についても今後不起訴になれば同様です。まだまだ事件を終結させません。

合法的な裏金づくりも

 いかなる制度を採用しようとも法令を順守する気のない政党・議員は「政治とカネ」の事件を起こすでしょうが、その主観的理由以外に客観的理由があるとみています。

 自民党は政治資金のスポンサーである財界・業界から政治献金を受け、自公両党の得票率は50%未満なのに、衆院小選挙区選挙・参院選挙区選挙の〝民意歪曲〟のおかげで過半数または3分の2の議席を獲得しました。その結果、福祉国家政策を否定した新自由主義の財界政治を簡単に強行できた一方で、党員数は1991年の約547万人をピークに激減し、第2次安倍政権下の2012年末には73万人台まで減少しました。09年の衆院選で自民党は敗北し下野。政党交付金は少なくなり、企業献金も減りました。再びそうなりたくないと思った自民党議員は、公選法違反の買収または買収の一歩手前の「有権者への寄付」を行い、はたまた、裏金をつくって違法または不適切な支出をしてきたのです。

 実は、合法的な裏金もあるのです。政治資金規正法によると、政治団体は「公職の候補者」(国会議員ら)に政治活動に関する寄付を行うことが禁止されていますが、「公職の候補者」は政治資金収支報告制度がないにもかかわらず、政党(本部又は支部)は「公職の候補者」に選挙以外の政治活動に関する寄付を行うことが許容されているので、「公職の候補者」が当該寄付金を、いつ、何の目的で支出したのか国民は知ることができません。使途不明金、すなわち裏金です。自民党の派閥はこれに誘発され、政治資金パーティー収入を過少記載して裏金をつくったのでしょう。

真の政治改革断行を

 政治資金問題ができるだけ生じないようにするためには、裏金が簡単につくれないように制度改革するしかありません。

 政党が「公職の候補者」に選挙以外の政治活動に関する寄付を行うことは当然禁止すべきです。「調査研究広報滞在費」も使途基準を厳正に定め、使途報告書の作成を義務づけるべきですし、内閣官房報償費(機密費)も将来は使途を公表すべきです。

 一部報道にあった公明党が検討している政治改革提言の骨子では、政治資金パーティー券購入者の氏名などを政治資金収支報告書に記載する基準額を現在の20万円超から5万円超へと引き下げる同法改正を構想しているようですが、これでは裏金づくりを防止できません。透明度を高めても企業の収支報告制度はないので、企業の政治資金パーティー購入を確認できないからです。事実上の企業献金になっている政治資金パーティーは全面的に禁止しなければなりません。もちろん、1994年の「政治改革」の時に先送りされた企業献金の全面禁止も断行すべきです。

 また、小選挙区制も政党助成金も、派閥の裏金事件を含め「政治とカネ」の事件を防げなかったのですから、いずれも廃止すべきです。衆院も参院も無所属の立候補を保障した完全比例代表制に抜本改革すれば、自民党も少しは自浄能力を回復するでしょう。事件を議員個人の責任だけにして改革を怠れば、次期選挙で得票率が下がることを恐れて党として動き出す可能性が生まれるからです。都道府県議会や政令指定都市議会など会派のある地方議会の選挙制度も完全比例代表選挙にすべきです。

 「政治改革」前に、自民党の副総裁だった金丸信氏(故人)は、当時の「政党への公費助成」導入の動きを批判して、「国民の貴い税金を選挙の候補者に出すのは、今でも選挙違反があるのだから『泥棒に追い銭』にならないとも限らない」と警告していました(朝日新聞90年7月5日付)。この警告は的中したのです。

 政党交付金と企業献金などのおかげで自民党の政治資金はバブル状態となり裏金がつくられてきました。資金中毒患者に必要なことは以上のような〝カネを断つ禁断治療〟なのです。

神戸学院大学法学部教授 上脇 博之(かみわき・ひろし) 1958年鹿児島県生まれ。関西大学法学部卒業。91年神戸大学大学院法学研究科後期課程単位取得退学。博士(法学、神戸大学)。北九州市立大学法学部教授などを経て2015年から現職。「政治資金オンブズマン」代表、公益財団法人「政治資金センター」理事なども務める。「なぜ『政治とカネ』を告発し続けるのか」(日本機関紙出版センター)など著書多数。

(Kyodo Weekly 2024年2月5日号より転載)

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