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シリーズ「持続可能な食~食からエシカル消費を考えてみる」 「豚への愛情」で3K脱却した“エシカル経営” 熊本の養豚業セブンフーズ・前田佳良子社長

飼育する豚たちに囲まれるセブンフーズの前田佳良子社長

 気候変動、世界的な人口増加の影響など、私たちの根本である「食」は持続可能なのか——という問題意識は、確実に広がりつつある。こうした中で、企業は持続可能な食のためにどのような取り組みをし、課題解決に取り組んでいるのか。

 消費者がそれぞれに自ら良心的に社会的課題の解決を考える際に、消費活動の参考となる企業の取り組みを紹介する。

飼育する豚たちに囲まれるセブンフーズの前田佳良子社長

 世界中で広がっているSDGsの取り組みで、「サステナブル(持続可能)」とともに近年聞かれるようになった言葉に「エシカル(倫理的)」がある。環境に配慮した生産だけでなく「人」や「動物」にとって優しい生産・消費活動で使われることが多い。化粧品やファッション、食品といった分野で進んでいる中、「養豚業=エシカル」を実践して注目されているのが「セブンフーズ」(熊本県菊池市、前田佳良子社長)だ。

約7万6000平方メートルの敷地に全9棟の建物があり1000頭の母豚がいる「大津第二農場」(熊本県菊池大津町)

 ▽規模拡大で環境改善

 セブンフーズは、前田さんの実家が1970年4月に養豚業・合志畜産として創業。前田さんは24歳の時に入社したが、畜産業は社会的に3K(きつい、臭い、汚い)というイメージが強く、「小中学生の時は嫌だった」と話す。休みも取れないなど「労働環境の悪さ」も感じていた。

 44歳で社長に就任した前田さんは、規模拡大に乗り出す。「大きくしないと価格交渉もできないし、人も集まらない」。就任時には母豚が100頭と平均的な規模だったというが、5年間で2000頭に増やした。従業員には短時間正社員制度、マタニティプログラム制度、9連休可能な長期休暇といった労働環境を整えた。2023年12月現在、61人の従業員のうち、49人が正社員。パートなどを含め8人が女性だ。正社員の平均年齢も36.7歳と若い。

 その結果、セブンフーズは22年に女性活躍について「内閣総理大臣賞」、21年には働き方改革部門で「農林水産大臣賞」を受賞している。

獣医の巡回時に豚の生態について指導を受ける社員たち

 ▽アニマルウェルフェア

 セブンフーズは「人に優しい」だけでなく「豚にも優しい」。その思いは独特だ。「2人の息子を産んだ経験から、豚舎にいる母豚を見て『自分だったらこの環境は嫌だな』と感じた」という。

 妊娠中の母豚は4カ月もの期間、狭い柵に閉じ込められる。そうした飼育環境から、広い豚舎で自由に行動ができるように改善。豚のストレスを軽減して飼育するようになった。子豚にも「ふかふかの床で暮らす」ことができるように、独自に開発した発酵床(バイオベット)を敷き詰めて飼育。堆肥におがくずともみ殻を混ぜて発酵させたバイオベットは、微生物の働きによって臭気を抑制する効果があり、臭いが少なくなることで豚舎のイメージを改善、豚にとっても快適な環境を実現した。

ふかふかの発酵床で気持ち良さそうな子豚たち

 ヨーロッパを中心に、快適性に配慮した家畜の飼育管理、動物福祉の取り組み「アニマルウェルフェア」の考えが広がっていたが、当時の日本ではそうした概念はなかったという。ただ、前田さんは「豚も同じ生き物だ」という思いから実践していたと話す。

 ▽自社飼料へのこだわり

 セブンフーズが持つもう一つのキーワードが「循環」だ。前田さんは、経営を引き継ぐことがわかっていた36歳の時に米国に留学。農業を学ぶ中で、輸入に頼っていたトウモロコシ(子実コーン)などの豚の餌を自社生産し、国産化する必要性を痛感した。西日本の食品会社を中心に、工場から出る残渣(ざんさ)を入手し、自社の乾燥飼料工場で加工。自社製の飼料(エコフィード)として豚たちに食べさせることで、フードロス削減にも貢献している。

食品工場から出た残渣を飼料に加工するセブンフーズの乾燥飼料工場(熊本県菊池市)

 さらに県内に約37ヘクタールの自社畑を持ち、トウモロコシ、菜種、飼料米、サツマイモを栽培。国産飼料による飼育を進める。今では熊本県内に5カ所ある農場(養豚場)で常時約2万5000頭を飼育し、年間約5万頭を出荷。広い農場で遊びながら伸び伸び育ったことから、多くを「肥後あそび豚(とん)」というブランドとして出荷している。

工場などからの食品残渣。年間を通じて生産しているエコフィードの原料となる

 ▽地域ネットワーク

 食品残渣が自社飼料となり、飼育している豚が食べ、養豚場で出たふん尿が有機堆肥となり、自社や契約生産者の畑でトウモロコシ、飼料米などを育て、自社飼料工場で再び飼料(エコフィード)で戻ってくる循環ネットワーク。

食品や国産穀物を資源として循環させる地域ネットワークで地元と共存する

 自社の飼料で生産した豚肉や国産野菜などで作る弁当を会員制で提供する新たなビジネス「SEVENFOODS」もグループ会社が始めた。

 こうした地域ネットワークについて、前田さんは「自分たちの養豚業だけではなく、地域との共存が不可欠だ」と強調する。ロシアのウクライナ侵攻で穀物輸入が不安定になることもあるといった国際情勢に加え、国内では耕作放棄地の問題もある。目標は「100%国産穀物を食べて育った豚の出荷」だ。「課題はまだまだ多い。ベストではなくてもベターなやり方でも地域と連携しながら、日本の食を守っていきたい」と決意を示した。

エコフィードを食べる豚たち

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