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「読書は面倒だが、役に立つ」  自著を語る 実重重美

実重重実『細胞はどう身体をつくったか 発生と認識の階層進化』新曜社、2023、2,700円(税別)

 

地球温暖化に伴う異常気象・災害の頻発、新型コロナウイルスに見られる疫病の流行というように、地球規模で生命を脅かす現象が多発しており、社会を直撃している。

その最前線で活動するビジネスパーソンは、日々こうした難題と格闘されているが、それは森林や動植物を育み、自然を慈しみ、自然の恩恵に浴していくことと表裏一体ではないだろうか。多忙な人も、時には生命や自然の本質をじっと見つめてみることが必要だろう。

私たち人だけでなく樹の大木も、その枝でさえずる小鳥も、葉の上を飛び交う 昆虫も、たった1つの受精卵という細胞が分裂・増殖して群体となり、多細胞の社会を形成したものだ。この現象は、太古の地球に生まれたたった1つの細胞が、分裂・増殖して樹木の枝のように分岐に分岐を繰り返し、やがてすべての生命圏を生み出していったことと、とても似た現象だと思う。

私は本書を「世界一面白い発生学の本」にしたいと考えて執筆した。私が師事した発生学者・団まりな氏の「階層生物学」という手法に基づき、「主体性を持った1つ1つの細胞が対話をしながら身体を作っていく」という姿を描いた。

考えてみると、不思議ではないか。どうやって蝶は卵からアオムシへ、アオムシからサナギとなり、そしてやがて大きな翅を広げて飛び立っていくのだろうか。どうやって巻貝はあんなにぐるぐると巻いた色彩豊かな貝殻を持つようになったのだろうか。どうやってカエルは、水中を泳ぐオタマジャクシから大変身して、1代のうちに陸上で飛び跳ねることができるようになるのだろうか。

私たちの身の回りにいる動植物の一生も、不思議でいっぱいだ。そして私たちの目には見えないところにも、生物たちが追ったり追われたりしている世界が広がっている。

本書は、単細胞生物から出発して、植物、カイメン・クラゲ・ウニ・貝類などの水生動物、昆虫、カエル、ヒトというように、進化のプロセスを通じて発生の現象を見ていく。

多彩な生物の生態を見ているうちに、生物学の最先端まで迫ることができるようになっている。終盤では、一つ一つの断片的な事実が繋がって、大きな自然の体系が見えてくる。

2019年に「生物に世界はどう見えるか」、2021年に「感覚が生物を進化させた」と同じ新曜社から出版してきた。専門用語を用いないで、中高生だった自分でも面白がるように、というスタンスで書いてきたところ、前2作の文章は、豊島岡女子中学・実践女子中学・関西大学・同志社女子大学の国語入試問題でも使っていただいている。

今作の冒頭では、哲学者ハイデガーの「存在への問いかけ」を掲げているが、最後はそれに対する私なりの解答を示したつもりだ。

生物学だけでなく、生命哲学や存在論、音楽、文学といった分野も含めて、楽しんでいただきたい。

すべての生命、すべての自然を大切にし、これらと共存していく上で、生物たちの対話や進化を知ることが必要だというのが私の考えだ。そうした生物界の大きなビジョンを平易な言葉で身近なものとして感じていただけるように描いた。

現代科学の知識を結集して、その最先端の地点から何が見えてくるか。想像力という小舟に乗って、私と一緒に遥かな高空に舞い上がり、この光景を見ていただけたら幸いである。

実重重実(さねしげ・しげざね) 全国山村振興連盟常務理事・事務局長 

 

 

 

 

 

 

 

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