〝姿勢〟で口福寿命延ばそう 安武郁子 食育実践ジャーナリスト 連載「口福の源」
〝口腔(こうくう)機能低下症〟という言葉を聞いたことはありますか?
噛(か)む・飲み込む・話すといったお口の機能が衰えるという症状です。病名にもなっており、健康保険の対象年齢が65歳から50歳に引き下げられるという、深刻な状況です。もはや他人事ではありません。
歩かないと歩けなくなるように、噛まないと、噛めなくなります。
そして、噛めなくなると、やがて「口から食べられなくなる」日が来るかもしれません。
そんな未来をつくっているのは、何げない〝毎日の食べ方〟です。
その中でも見逃されがちなのが「食べるときの姿勢」です。
スマホを見ながら食べる、ソファで足を組んでダラっと食べる…。
そんな何げない姿勢が、舌やあごの動きを制限し、噛む力や飲み込む力をどんどん弱らせてしまいます。
足を組んで食べていませんか? ブラブラ足になっていませんか?
足裏を床にしっかりつけること。
足がつかない時は、踏み台などを置きましょう。
理想の姿勢は、頭・背骨・骨盤がまっすぐに並び、坐骨(お尻の骨)で座る姿勢。
足裏は床にぴったりつけ、膝の角度は90度、背筋を伸ばしてあごを軽く引く。これだけで、食べ物がスムーズに喉を通る〝嚥下(えんげ)の道〟がまっすぐになります。
姿勢が崩れると、呼吸が浅くなり、唾液の量も減ってしまうのです。
唾液は食べ物をまとめるだけではなく、口の中の細菌を抑え、虫歯や感染症を防ぐ〝魔法の水〟と言えます。
つまり、姿勢が悪いと「噛む力」「飲み込む力」「守る力」まで弱ってしまうのです。
子どもも大人も、姿勢は「食べる力の土台」です。
足が届かないイスで食べる子どもは、姿勢が安定せず、噛む筋肉が育ちにくくなります。
踏み台を置くだけで、ぐっと噛みやすく、飲み込みやすくなりますよ。
大人も同じ。
背筋を伸ばして座ると、顔の筋肉が自然に動き、口角が上がり、表情まで若々しくなります。姿勢を整えることは、まさに〝アンチエイジングの第一歩〟でもあるのです。
毎日の良い食べ方、良食実践が、口福寿命を延ばします。
今日の食卓で、まず深呼吸。
背筋を伸ばして、足をしっかり床につけて、その姿勢で一口をゆっくり噛んでみましょう。
食べる力は、姿勢から。
食べる姿勢を整えれば、心も体も自然と整います。
今日も〝良食〟で、姿勢よく、口福な1日を!
【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No.42からの転載】
















