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焼酎造りの技術生かしたジャパニーズウイスキー 鹿児島・嘉之助蒸溜所が世界に発信

老舗焼酎メーカー発のジャパニーズウイスキーを造る「嘉之助蒸溜所」

 鹿児島の酒といえば「焼酎」だ。ところが、国内でウイスキー製造の免許を持つ蒸留所がある都道府県のトップは鹿児島県なのだという。焼酎造りのノウハウがウイスキー製造に生かせるという背景があるようで、県内13の製造免許を持つ中小焼酎メーカーのうち10カ所(2024年2月現在)でウイスキー造りが行われている。

 海外でも評価されるようになったジャパニーズウイスキー。サントリーの「山崎」や「響」、ニッカウヰスキーの「余市」といった大手メーカーのウイスキーが国際的な品評会で受賞したことをきっかけに、スコッチやカナディアンなど世界4大ウイスキーにジャパニーズウイスキーが加わり5大ウイスキーと呼ばれるまでになった。

小規模な蒸留所でも大手ウイスキーメーカーに劣らない品質が海外でも評価されるようになった(嘉之助蒸溜所の熟成庫)

 

 その中で近年注目されるようになったのが、小規模な蒸留所で造る「クラフト・ジャパニーズウイスキー」だ。焼酎造りの技術を生かしてウイスキーを製造する鹿児島県の「嘉之助(かのすけ)蒸溜所」(日置市)を訪ね、小規模ながら個性的なウイスキーを造る秘密を探った。

2代目の意思を受け継ぐ

 鹿児島空港から車で約1時間。東シナ海に面した海沿いにある「日本で一番海に近い蒸留所」が「嘉之助蒸溜所」だ。嘉之助蒸溜所は、1883(明治16)年に創業した焼酎メーカー「小正醸造」が、焼酎造りの技術を生かしてウイスキーを造ろうと2017年に設立した。

東シナ海を望む「日本で一番海に近い蒸留所」

 

 蒸留所名は、サントリー山崎蒸溜所、ニッカ余市蒸溜所など地名を付けることが多い中、後のウイスキー造りのきっかけとなる日本初という樽(たる)で熟成した焼酎「メローコヅル」を1957年に発売した2代目・小正嘉之助に由来する。品質を評価されながら焼酎になじみがない海外では苦戦したメローコヅルから60年後、嘉之助の孫に当たる4代目小正芳嗣氏(代表取締役社長・マスターブレンダー)が焼酎蒸留と樽熟成の技術を生かしたジャパニーズウイスキー造りに挑んだ。

小正芳嗣社長。「歴史ある焼酎造りを生かしたジャパニーズウイスキーを造っていきたい」

 

 小正社長は「焼酎を前面に押し出すだけでなく、世界の“共通言語”であるウイスキーで表現しようと思った」と語る。焼酎樽でのウイスキー熟成も試し、焼酎メーカーならではの「焼酎とウイスキー造りの融合」を目指している。

▽天然ろ過器「シラス台地」

 嘉之助蒸溜所のウイスキー造りで、大きな特徴となっているのが「3基の蒸留器」だ。クラフトウイスキーのような小規模蒸留所では2基が一般的だというが、複数の蒸留器で培った焼酎蒸留の技術を生かすため「3基あれば、さまざまなバリエーションを試せる」という小正社長のアイデアで決まった。通常2回蒸留するウイスキー造りで3基あれば、違う2基を使った数パターンの蒸留を試すことができるというわけだ。

ポットスチルと呼ばれる蒸留器。ウイスキーは2度蒸留するが、3基あれば「左・中」「左・右」などいろいろなパターンを試すことができる

 

 蒸留所内は、所長でチーフブレンダーの中村俊一さんが案内してくれた。嘉之助蒸溜所が造り出すウイスキーは、3基の蒸留器に加え、この地域ならではの利点があるという。鹿児島の土地は、火山噴火の堆積物によるシラス台地が大半で、中村さんは「水はけが良く“天然のろ過器”のようなもの」と説明した。

蒸留する前段階の「発酵」は約60時間。床に埋め込まれたような発酵槽は焼酎造りの瓶(かめ)を思わせる

 

3倍の速さで熟成

 こうした地下天然水を利用したウイスキー造りで、もう一つの特徴は「寒暖差」だという。鹿児島というと南国イメージが強いが、暖かいものの冬には意外と気温が低くなることから、中村さんは「寒暖差で樽が“深呼吸”し、スコットランドなど寒冷地より3倍のスピードで熟成が進む」と教えてくれた。

「“天使の分け前”といわれる熟成時の原酒蒸発も3倍のスピードで減っていく」と話す中村俊一さん

 

 ウイスキーは12年物が高品質だといわれることが多いが、3倍の速さで熟成が進むため、嘉之助蒸溜所のウイスキーは4年物でその品質にたどり着くことになる。こうして造ったのがモルト(大麦麦芽)だけを原料にしたウイスキー「シングルモルト嘉之助」だ。

嘉之助蒸溜所初の定番ウイスキー「シングルモルト嘉之助」。焼酎製造と樽貯蔵の技術を生かし、「メローコヅル」の思いが詰まっているという

 

▽焼酎蔵でもウイスキー

 嘉之助蒸溜所の近くには、現在も焼酎造りをしている小正醸造の日置蒸溜蔵があり、ここでも2020年からウイスキー造りを手がけている。焼酎造りは8月から12月という時期があることから、オフシーズンを利用してウイスキーを製造する。モルトと大麦を原料に、焼酎用蒸留器で造ったグレーンウイスキーで、23年12月に「嘉之助 HIOKI POT STILL」を発売した。蔵長でマスターブレンダーの枇榔(びろう)誠さんは「アルコール度数51度で香ばしいウイスキーになった」と話した。

小正醸造・日置蒸溜蔵の焼酎用木製蒸留器を説明する蔵長の枇榔誠さん。「普段はステンレス製蒸留器を使っているが、今年これを使ってウイスキー造りをしてみたい」

 

▽沈む夕日を望むバー

 焼酎造りの技術を生かした嘉之助蒸溜所のウイスキーは、「インターナショナル・スピリッツ・チャレンジ2023」で金賞を受賞するなど海外でも評価されるようになったが、もう一つの魅力は、そのロケーションにあるといえる。

白砂の海岸線が続く「吹上浜」。ウミガメの産卵地としても知られている

 

 約9000平方メートルの広大な敷地を持つ嘉之助蒸溜所は、日本三大砂丘の一つ「吹上浜」まで約100メートルで、47キロ続く砂浜を一望することができる。

 嘉之助蒸溜所の一般見学では、最後に2階の「THE MELLOW BAR」で夕日を見ながらテイスティングすることができる。この日、バーでテイスティング用ウイスキーの特徴を説明してくれた小正社長は「品質が最も重要だが、このロケーションも生かしたい」と強調した。

長さ11メートルの一枚板を使ったバーカウンター。建設時に窓から搬入したという

晴れていればバーから沈む夕日を見ることができる。「日本一美しい蒸留所」と言われることもあるという

 

10年、15年物も

 小正社長は「焼酎は海外ではいまだに認知度が低い」と話し、ウイスキーで勝負する考えだ。ウイスキー造りを始めて約7年。「10年物、15年物、30年物も考えている。価値のあるブランドであり続けることを大事にしたい」。南国・鹿児島発のクラフト・ジャパニーズウイスキーに期待できそうだ。

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