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落語界のお詫びルール 【蝶花楼桃花 コラムNEWS箸休め】

 謝る技術ってあるよね。真っすぐに謝るって、実はなかなかできないこと。土下座はいまや多少のパフォーマンスを含んでいる場合もあるけど、噺家(はなしか)の前座修行中は日常のお詫(わ)びが土下座。土下座祭り開催中! ってな具合。

 修行中の前座が、楽屋で座布団を敷くことはない。365日板の間に座るため、正座ダコができる。そんな環境なので、必然的に謝る=土下座になるというわけ。

 寄席には特別なお詫びルールがある。前座は数人で働き、その中で一番芸歴の長い前座を「タテ前座」といい、楽屋の〝司令塔〟となる。何か失敗をした時は、必ずタテ前座と一緒に謝らなくてはならないのだ。しくじった瞬間にタテ前座の元へ走り、自分のミスを伝える。

 ポイントとしてはどんな状況でも一切言い訳をしない。真実は後で必ず伝わり、言い訳しなかったことを分かってくれるということ。それがたとえ数年後であっても。

 それから、謝罪の前には言葉を付けない。「申し訳ございません」とストレートに謝る。その後で経緯や原因と、それについての改善策を伝える。この順番を間違えると、師匠方の怒りは倍増する。タテ前座歴が長かった私が言うのだから間違いない。

前座時代の筆者(本人提供)

 そうそう! 私がタテ前座の頃、一番下の後輩がとんでもないミスをしたことがあった。頭に血が上った、とある師匠が、楽屋にあった灰皿を私に向かって投げつけたのだ。それを飛んでよけ、飛びあがったままスライディングで土下座をしたことがあった。

 前座部屋ではしばらく「スライディング姐(ねえ)さん」と呼ばれ、ヒーローになったことがある。私の唯一のヒーロー体験かもしれない。ははは。

 同じ釜の飯を食うではないが、そういう前座修行を経たからこそ、仲間と認めてくれる部分もあるのだろう。

 そんな私も昨年真打ちに昇進させていただき、楽屋では前座さんにお茶を出してもらう立場になった。今後、土下座をされることもあるかもしれない。

 万が一、言い訳をしてきた前座さんがいたら、手ぬぐいでも投げてやろうか。スライディングしてかわしてくれたら握手しちゃうかもしれないな。

 この立場になって、師匠方の寛大さが分かる。許すのも技術、だな。

 

蝶花楼桃花(ちょうかろう・ももか)/東京都出身。春風亭小朝さんに弟子入り後、二ツ目・春風亭ぴっかり☆時代に「浅草芸能大賞」新人賞を受賞。2022年3月、真打ちに昇進し高座名を「蝶花楼桃花」と改める。昇進披露興行、初主任興行、企画にもかかわった全出演者女性による「桃組」はいずれも大入りを記録。10月21日より30日まで鈴本演芸場(東京都)で主任興行を開く。

(Kyodo Weekly・政経週報 2023年9月18日号掲載)

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