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夢がなくても未来はある 馬場典子【コラム NEWS箸休め】

 ふと、テレビから「なりたいものを見つけられない若者が増えている」という話題が流れてきました。「夢って何? どうやって見つけるの?」という若者の声は明るかったのですが、多様性の時代、昔と比べたら仕事も生き方も自分で選べる時代、選択肢が多すぎると決められないという「ジャムの法則」が、当てはまるのかもしれません。

 私自身も同じような思いを抱えてきたので、そんな若者に驚くよりも、むしろそれを口にできることは正直で強い、と感心しました。子どものころ、心の内で「じゃない方」感にさいなまれることが儘(まま)ありましたが、口にはできなかったからです。

 例えば友だち。童謡「一年生になったら」の中に「ともだちひゃくにんできるかな」なんて歌詞もありますが、ずっと親友はいなくて、それがコンプレックスでした。今も親友はいませんが、尊敬する大好きな友だち、腹を割って話せる友だちがいて、それで十分だと思っています。

 「尊敬する人は両親」と書ける人もうらやましかったです。私は、親に対して「尊敬」という言葉がしっくりときませんでしたし、当時は他に誰か見つけることもできませんでした。尊敬する人がいない自分がダメな子なのだろうなぁ・・・と感じていました。

 そして「夢を持つことが素晴らしい」とうたわれる中、夢のないことにも引け目を感じていました。文集に、当時習っていた「エレクトーンの先生」と適当に書いてみたことがありますが、「もっと大きな夢を持ちなさい」と先生に言われ、結局、言われるがまま「女大臣」と書き直したのでした。

 進む道がハッキリしている学生の多い大阪芸術大学でも、コレというものが見つかっていなくて自信が持てない学生たちがいて、かつての自分と重なります。

 コンサルタントになりたかったものの、縁あってアナウンサーという職業に就くことができた。だから皆もまだ本当に好きなことに出合えていないだけかもしれないこと。どこにきっかけがあるか分からないから流れに任せてみるのも一つの在り方だということ。そして私自身、伝える仕事にやりがいを感じている一方で、人生の夢や目標はいまだに見つかっていない、ということも伝えています。

 ある占いで、50代半ばがピークと言われたことがあります。今から上がるとしたらうれしいのですが、人生100年時代に少し早くない? その後大丈夫? という不安があります。別の占いでは「大器晩成」と言われましたが、そもそも大器を持ち合わせていない場合、小器なりに晩成できるのか? という疑問も残ります。

 そんなこんなを抱えつつ、もしかしたらそのうち自分も何かを見つけられるかもしれないと、天命の50歳を目前にして未来がちょっと楽しみでもあります。夢があるのは素晴らしいことですが、夢がなくても存外悪くないのかも。

馬場典子(ばば・のりこ)/東京都出身。早稲田大学商学部卒業。1997年日本テレビに入社し、情報・バラエティー・スポーツ・料理まで局を代表する数々の番組を担当。2014年7月からフリーアナウンサーとして、テレビ・インターネット番組・執筆・イベント司会・ナレーションなど幅広く活動中。大阪芸術大学放送学科教授も務める。

(KyodoWeekly 2023年5月22日号より転載)

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