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ポストコロナの蛙化現象 【辛酸なめ子 コラムNEWS箸休め】

 「ユーキャン新語・流行語大賞」のトップテンが発表されました。年間大賞は阪神タイガース岡田彰布監督の「アレ(ARE)」。3年連続で野球関連用語が年間大賞です。授賞式を見学していて気になったのは「生成AI」。受賞者として登壇したのはメディアアーティストの落合陽一さん。「どうやってAIを使うかということに対して、われわれが自己決定したということが最も重要。生成AIは知識をサポートはしてくれるが、決断の責任を取ってくれない」と早口でトークして、人間はAIにまだ負けていないと思わせる頭の回転を感じさせました。

 独特の緊張感漂う表彰式で少し空気が和らいだのは「ペッパーミル・パフォーマンス」の発表でした。予算の都合でヌートバー選手本人ではなく、いち早くペッパーミルコーナーを設置した浅草の「キッチンワールドTDI」の広報の方が登場。「スタッフ一同、何で私どもが・・・」と戸惑われたそうです。とはいえ、あんなに盛り上がったパフォーマンスも3月のことなのでかなり前のように感じます。今もまだペッパーミルコーナーはあるのでしょうか・・・。

 「蛙化(かえるか)現象」の受賞者は、なんと同現象を体験した20代女性2人でした。昨今は「好きな相手の些細(ささい)な行動や言動で冷めてしまう」という意味で使われていますが、元になった蛙化現象についての論文を発表した大学教授はすでに亡くなられていたとのこと。受賞者として、「蛙化現象」についてマスコミの取材を受けていた女性とその友だちにスポットが当たりました。蛙化して別れても、すぐ次の人が現れそうなかわいい女性たちです。

©️2023 Nameko Shinsan
©️2023 Nameko Shinsan

 壇上では、どんなシチュエーションで「蛙化」したか説明するというシュールなやりとりが。1人目は、彼が「居酒屋で店員を呼ぶ声が小さかった。店員さんが誰も見ていない瞬間に冷めた」そうです。もう1人は「歩道を歩いている時、彼がポールに足をかけて靴ひもを結んでいて、うわって思って」すぐお別れしたとか。2人とも些細なことで蛙化しています。あとで、彼は蛙化認定されたことを知っているのか聞いてみたら「他に好きな人ができたと言って別れたので相手は知りません。受賞しても気付かないと思います」とのことでした。そこまで人間関係に執着しない若い世代の潔さを感じました。

 コロナ禍が明けて、異性を次々と蛙化認定できるほど、人と会えるようになった変化はポジティブにとらえたいです。

【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No. 51からの転載】

辛酸なめ子(しんさん・なめこ)/漫画家、イラストレーター、コラムニスト。1974年東京都生まれ、埼玉県育ち。武蔵野美大短期大学部卒業。著書に「女子校育ち」(筑摩書房)、「スピリチュアル系のトリセツ」(平凡社)、「無心セラピー」(双葉社)、「電車のおじさん」(小学館)、「大人のマナー術」(光文社新書)など多数。

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