AIが役場の案内窓口に―長瀞町、祭りの質問22.6倍に JetBの3Dアバター、人との役割分担を検証

年間約300万人が訪れる観光地なのに、役場に総合案内窓口がない―。そんな悩みを抱えていた埼玉県長瀞町は2026年3月、人工知能(AI)関連企業のJetB(東京都新宿区)と手を組み、公式マスコットキャラクター「とろにゃん」の3Dアバターを使った行政・観光案内の実証実験を始めた。役場のロビーで始まったAI案内は、長瀞駅前観光案内所へ、さらに観光客のスマートフォンへと拡大。8月の長瀞船玉まつり当日は質問が266件に上り、7月の1日平均の約22.6倍となった。JetBはさらに三重県伊勢市内でも民間企業と多言語AIアバターによる観光案内に取り組む。来訪者が知りたい情報をどこまでAIが案内し、どこから人につなぐか――。
▽総合案内窓口のない役場

長瀞町役場には専用の総合案内がなく、役場の入口に近い窓口では「どこに聞けばいいか」と問い合わせが相次ぎ、そのたびに仕事の手が止まってしまう。職員数の減少が見込まれる一方、住民の要望は多様になり、職員の事務負担が増えることが懸念されていた。
町が動いたのは3月。公式マスコットキャラクター「とろにゃん」の3DアバターとAIアシスタントを載せたデジタルサイネージ(電子看板)を役場1階ロビーに置いた。質問を受け付ける最初の窓口をAIに担わせ、職員が個別の手続きなどに対応する仕組みを試すためだ。
町はこうした官民連携の推進に意欲的だが、担当する人員や専門的なノウハウが足りないという課題も抱える。担当課は、民間の技術を取り入れ、職員の業務と来庁者への案内をどう組み合わせるかを探ってきた。
▽AIが最初に応じる
AI案内を担うのはJetB。同社によると、自治体の公式マスコットキャラクターの3Dアバターに生成AIを載せ、庁舎の総合窓口で住民対応に当たる取り組みは全国初という。サービス「うちのAI Avatar」は、米オープンAIの対話型AI「チャットGPT」を使った自然言語処理と独自の2段階音声生成技術を組み合わせ、町のホームページなどの公式情報を基に日本語を含む15言語で回答する。
装置は奥行きのある「3Dショーケース」。「とろにゃん」はうなずいたり跳ねたりと10種類ほどの動きを見せる。JetBの担当者は、町のキャラクターに感情豊かな表現を持たせた点が特徴だと説明する。キャラクターを通じて質問しやすくする仕組みを、町は行政窓口だけでなく観光案内にも広げた。
当初は役場ロビーで5月末までの予定だったが、設置期間を8月末まで延長した。長瀞駅前観光案内所では5月28日から稼働し、2拠点で並行運用した。さらに8月4日には行政案内と観光案内の双方がスマートフォンやパソコンから使えるようになった。固定の電子看板から、来訪者が手元で問い掛けられる案内へと、利用の場を増やした。

運用を始めた3月27日、「とろにゃん」に地元の子どもが「人口は何人ですか」「名物は」と問い掛けた。職員が英語で尋ねる場面も。正確に答えることもあれば、「データがない」と回答を避けたり、内容がずれたりもした。町はAIの性質上、回答が正確でない場合があると断り、詳しい手続きは担当課への確認を呼び掛ける。精度の調整が実証期間中の課題だ。
▽祭り当日の質問266件
観光案内を試す機会となったのが、例年約7万人が訪れる長瀞船玉まつりだ。8月15日の祭りに向け、JetBなど3者は7月30日、案内情報を追加し、当日の花火プログラムに載せたQRコードからも質問できるようにすると発表した。観光案内所へ足を運ばなくても、その場で知りたいことを聞ける仕組みだ。
JetBが9月に公表した質問ログによると、1日当たりの質問数は7月の通常期が11.8件、8月8~14日が47.4件、祭り当日は266件だった。当日の質問の86.1%はスマートフォン経由だった。ただ、7月はスマートフォンから使えるようになる前で、件数は利用者数ではなく質問の数だ。

祭り当日の質問266件のうち、156件は船玉まつりに関するものだった。一般観光についても59件、その他の質問が51件寄せられた。定型の質問ボタンを使わず、来訪者が自分で入力した質問は176件に上った。さらに、AIの回答のうち34件(12.8%)には、有人窓口などへの確認や公式サイトへの案内が含まれていた。観光客が自分の言葉で質問し、内容に応じてAIが窓口や公式情報も案内する利用状況が記録された。
祭り当日は荒川の増水で万灯船の運行が中止されるなど、予定も変更された。開催内容や交通機関の運行状況は当日も変わるため、最新の公式情報への案内が必要になる。JetBは質問ログを分析し、AIで回答する情報と、人や公式情報へつなぐ案内のあり方を示した。
▽伊勢でも観光案内に活用
JetBは長瀞町以外でも、AIアバターを観光案内に活用している。イベントの企画・運営や地域活性化、アプリケーション開発などを手掛けるCoCoRo(東京都文京区)と協業した「伊勢発・多言語AIアバターでつなぐ観光DX」では、CoCoRoが手掛けるツアーの参加者が、多言語AIアバターを利用できるようにした。行政窓口から始まった長瀞町の取り組みとは異なり、こちらは民間企業の協業を通じて観光客に情報を届ける仕組みだ。

JetBの発表によると、伊勢の事業では月1050件の相談に対応し、利用者アンケートでは85.3%が「また利用したい」と回答した。いずれも協業先のCoCoRoが提供した数字だ。このプロジェクトで、JetBは2月、日本オムニチャネル協会(東京都渋谷区)が主催する「DXイノベーション大賞」の支援会社部門で優秀賞を受けた。JetBは伊勢から三重県全域、さらに全国の主要観光地への展開を計画しているという。 同社の杉浦康樹氏は「観光地では、限られた人員で多様な問い合わせに対応することが課題となっています。AIアバターを活用することで、時間や言語の壁を越えて、誰もが必要な情報を得られる環境をつくりたいと考えています。長瀞町での取り組みを一つのモデルケースとして、地域ごとの魅力や課題に寄り添いながら、全国の観光地にも展開していきたいです」と話している。(株式会社共同通信社 垂見和磨)
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