自動車由来廃プラからケミカルリサイクル油を生産 循環型社会目指す出光興産グループ
日本国内では年約256万台(2024年度)の自動車が役目を終え、廃車となっています。廃車となった自動車から回収される鉄やアルミニウムなどの金属資源は高い割合で再利用されていますが、資源循環における大きな課題の一つとなっているのが「プラスチック」です。
一般社団法人プラスチック循環利用協会が公表したデータによると、国内で1年間に排出される使用済みプラスチック(廃プラ)は約911万トン(2024年)です。そのうちマテリアルリサイクルは約20%、ケミカルリサイクルは約3%、サーマルリサイクルは約67%となっており、残りの約11%は単純焼却や埋め立て処分されています。
近年は、資源循環の高度化や脱炭素化の観点から、プラスチックを再び資源として循環利用する取組の重要性が高まっています。特に、マテリアルリサイクルに加え、廃プラスチックを化学原料へと戻して再利用するケミカルリサイクルへの期待が高まっており、プラスチックの高度な資源循環の実現が大きな課題となっています。
こうした中、エネルギー大手の出光興産の子会社であるケミカルリサイクル・ジャパン(CRJ)は、廃プラスチックを分子レベルまで分解し、再び原油相当の「CR油」へと再生する商業プラントを千葉県市原市に完成させ、2026年4月に商業運転を開始しました。
これにより、廃プラから油に戻し、化学品を経て再び自動車などに使用可能なプラスチックへと再利用できる「プラスチックの循環利用」に向けた新たな一歩が踏み出されました。石油化学産業を循環型に転換する実証が商業レベルで始まったことは大きな意義があるといえます。
このプロジェクトを率いる、CRJの岡村仁彦社長に、自動車リサイクルへの影響や、循環型社会への課題などについて解説してもらいました。

事業のイメージ(提供:出光興産)
軽量化でプラスチック多用
近年の自動車は、燃費向上のための軽量化や、EV(電気自動車)化に伴うバッテリー重量の相殺を目的に、バンパーや内装材、エンジンの周辺部品に至るまで多くのプラスチックが使われています。1台の自動車に使用されるプラスチックの重量は、車両全体の1割から2割近くを占めるともいわれています。
これらは自動車の解体・破砕工程で、金属を取り除いた後の「ASR(自動車破砕残渣)」と呼ばれる細かい“混合残さ”となります。ASRには複数のプラスチックが混在しているほか、ガラス片やゴム、塗料などが絡み合い素材別に分類してのリサイクルが難しくなっています。
そのため、これまでは主に燃やして、その熱をエネルギーとして利用する「サーマルリサイクル」が行われていました。しかし、カーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)実現が求められる中、単に燃やすだけではなく、再び自動車用プラスチックとして利用する資源循環の実現が、自動車業界やリサイクル業界全体の重要な課題となっています。

ケミカルリサイクル・ジャパン市原事業所(提供:出光興産)
静脈産業との連携強化
プラスチックのリサイクルには主に3つの方法があります。1つ目はプラスチックを細かく砕いて溶かし、再び成形し直す「マテリアルリサイクル」で、2つ目は「サーマルリサイクル」。3つ目は出光興産が採用した「ケミカルリサイクル」です。
ペットボトルなどであれば、マテリアルリサイクルが有効で、比較的、環境負荷も小さいと言われています。しかし、自動車部品のように何種類もの異なるプラスチックが複合素材として利用されたり、塗装や油汚れが付いていたりするものをマテリアルリサイクルすると、溶かした際に素材の劣化や異物の混入が避けられず、強度が低いプラスチック(ダウンサイクル製品)になってしまいます。安全性が最優先される自動車の部品に強度が落ちたプラスチックを再利用することは困難でした。
一方、CRJが進める油化ケミカルリサイクル技術であれば、プラスチックを熱分解して分子レベルまで分解し、プラスチックの原料である「軽質原油」の段階に戻します。このプロセスにおいて、付着していた汚れや塗料などの不純物を分離・除去することができるのです。
結果、この油から再び作られるプラスチック(マスバランス方式を適用)は、地下から掘り出した原油から作った新品(バージン材)と比べても、遜色ない高品質のものになります。
日本は石油資源を輸入に依存しています。この技術は資源の乏しい日本にとって新たな循環資源の創出につながる可能性があります。また、廃プラスチックを新たな自動車部品などの原料として活用する循環型サプライチェーンの構築を後押しする一助になりそうです。
ただし、この技術を日本社会に定着させるためには課題もあります。
それは、廃プラを安定的かつ効率的に集めるためのサプライチェーンの構築です。全国にある自動車の解体現場やスクラップ業者から廃プラを回収・分別し、千葉のプラントまで輸送する仕組みづくりは、出光興産グループだけの力で成し遂げられるものではありません。リサイクル事業者、自動車解体業者、そして川上の自動車メーカーとの強固で、かつ業界横断的なネットワークの構築が今後の課題で、岡村社長は「リサイクラー様との連携強化が必要」と訴えます。

24時間連続運転が“肝”
2023年設立のCRJが商業運転を始めた市原事業所の特長は、廃プラを独自の技術で「CR油(ケミカルリサイクル油)」へ戻すという点にあります。使用済みプラスチックの処理能力は年間2万トンに達し、国内の商業用油化設備としてはトップクラスです。
廃プラを熱分解して油に戻すケミカルリサイクルには、熱分解の技術的制約として「コーキング(炭化現象)」という課題があります。
プラスチックを高熱で分解していくと、炉の内部にコークス(炭素分)がこびりつき、熱の伝導率が下がるという問題が起きます。そのため設備を稼働させたのち、止めては内部を掃除せざるを得ず、コストと効率の面で商業化の壁となっていました。しかし、CRJが導入した触媒接触分解システムは、この課題を解決しました。
CRJの岡村社長は「当社の触媒接触分解システムではコーキングの除去操作が不要であり、24時間連続運転ができることが特長です。また、触媒接触分解システムを使うことで、ワックス分がない、プラスチックの原料となるナフサ留分を多く含む軽質原油相当のCR油を作ることができるようになりました」と語ります。

ケミカルリサイクル・ジャパンの岡村仁彦社長
廃プラスチックから高品質な再生プラスチックの原料へ
プラスチックは原油を精製して作られたナフサなどを原料として製造されています。CRJが取り組む技術は、廃プラスチックを軽質原油相当の油へ戻す手法です。
同プラントで生産されたCR油は、出光興産の石油精製装置と石油化学装置へ投入され、「マスバランス方式」を活用して新たなプラスチックへと再資源化されます。マスバランス方式とは、ある特性を持った原料と、そうでない異なる原料が混ざり合う際、その特性を持った原料の投入量に応じて製品の一部に対し、その特性を割り当てる手法です。油化ケミカルリサイクルにより品質を落とすこと(ダウンサイクル)がなく、従来の石油由来のプラスチック製品と同等品質を有する再生プラスチックを市場に供給することが可能となったのです。
CRJは今後、3段階のステップを計画しています。2026年度と2027年度の2年間は、使用済みプラスチックの処理量を設備能力の半分にあたる約1万トンに抑え、実証データを蓄積する方針です。その後は、家庭ゴミを使った実験を行い、2028年度は一般廃棄物の処理を始め、最大設備能力である2万トンへ引き上げます。家庭から出る一般廃棄物は、汚れがひどいものやリチウムイオン電池、油化を妨げる塩化ビニル(塩ビ)といった樹脂が混入しており、処理のハードルは上がります。
「今年は工場などから出る比較的『きれいな』産業廃棄物のプラスチックを扱います。汚れの少ないポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)です。最終的には汚れの多い一般廃棄物の処理に移行するのが目標です」と岡村社長は話します。

自動車メーカーから相談
自動車メーカーはCRJに熱い視線を送っています。
自動車リサイクルを巡っては、欧州を中心とした環境規制強化に伴い、国内外の自動車メーカーはELVから回収したプラスチックを、再び新車のバンパーなどの部品に戻す水平リサイクルの仕組みづくりに注力しています。CRJにも多くの自動車メーカーや大手企業から問い合わせが来ているといいます。
岡村社長は「詳細な社名や中身は言えませんが」とした上で「さまざまな自動車部材をお預かりして、この部材を油に戻せますかという確認や検討は共同で行っています」と打ち明けます。「自動車で最も多く使われているプラスチックはポリプロピレン(PP)ですが、これは私たちのプラントで油化することができます。一度クリーンな油にすることができれば、あとは出光興産グループが長年培ってきた石油精製・石油化学の既存インフラを活用することで、マスバランス方式を適用して新品と同じクオリティーのプラスチックに戻せます」と力強く話します。
課題はエコノミクス
話題がコストに及ぶと岡村社長の表情が引き締まりました。「技術的には油化は可能ですが、最大の課題はエコノミクス、つまりコストです。廃プラを回収・選別・熱分解して油化した再生プラスチックは、現時点で石油から直接作った通常のプラスチックに比べて、キログラム当たりの値段が3倍程度になってしまいます。今後、プラントの規模を拡大して効率化を進めても、2倍程度にするのが限界でしょう。平常時はミネラルウオーターよりも安い『原油』の経済価値には敵わないのです」と指摘します。
1990年代の環境ブームの際にも「廃プラを油に戻す」という技術自体は存在していました。しかし、それがビジネスとして定着しなかった理由は、まさにここにあります。化石燃料に依存し、大量生産・大量消費・大量廃棄を行う「リニアエコノミー(線形経済)」の合理性が市場を支配してきたからです。一方で、二酸化炭素排出や海洋プラスチックの増加といった環境負荷を生み出してきました。
岡村社長は「人任せや消費者任せにしている段階は終わりました」と述べ「これは経済学の言葉で言えば、“市場の失敗(外部不経済)”なのです」と指摘します。
世界の環境政策に目を向けると、欧州(EU)をはじめとする諸外国では、この「市場の失敗」の是正に向けた法整備が進んでいます。EUでは2025年からペットボトルの再生材含有義務化(25%以上)が始まり、容器包装に関しては2030年から罰則付きの義務化(PPWR規則)が可決。そして自動車(ELV規則案)についても、早ければ今年の夏にも法律が可決され、新車への一定割合の再生プラスチック使用が義務づけられるかもしれません。
資源循環を支える重要な役割を担う存在に
一方で「日本は、世界で最も丁寧に、綺麗にプラスチックを分別している素晴らしいインフラがある国です。海外でこれだけ再生材の義務化が進むと大変な事態になる可能性があります。規制をクリアするために外資系企業などが日本の高品質の使用済みプラを買い漁り、海外へ持って行ってしまうかもしれません。日本のものづくりの土台を揺るがす深刻な『経済安全保障』の危機になりかねません」と岡村社長は危惧します。
1911年の創業以来、ガソリンや軽油、ナフサといったエネルギーや化学原料の安定供給を通じて日本のクルマ社会の発展を支えてきた出光興産。しかし今、同社がCRJとともに挑んでいるのは「自社が世に送り出してきたプラスチックを、自社の技術で油に戻し、再び社会へと循環させる」というテーマです。
私たちの愛車が役目を終えた後、そのプラスチックは単なるゴミになるのではなく、最先端の工場でクリーンな油へ変わり、また新しい車のバンパーや内装品などに再生される。そんなサーキュラーエコノミー(循環型経済)は、すでに動き出しています。CRJの油化プラントは自動車業界の資源循環を支える重要な役割を担う存在になるかもしれません。
出光興産グループは、これまでの「化石燃料を供給する企業」という役割を超え、「資源循環を担う企業」へとその姿を変貌させようとしています。商業運転を開始したプラントは、日本という資源に乏しい国が、次の時代を生き抜くための試金石になるかもしれません。

ケミカルリサイクル・ジャパン市原事務所竣工式の様子(提供:出光興産)
編集部からのお知らせ
新着情報
あわせて読みたい


自動車リサイクル促進センター


自動車リサイクル促進センター


自動車リサイクル促進センター


神田外語グループ

















