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小笠原に回遊するアオウミガメのプラスチック汚染の実態を解明

2026年1月3日
学校法人 立正大学学園 立正大学
国立研究開発法人 産業技術総合研究所
国立大学法人 九州大学

 

発表のポイント

・調査は小笠原母島で行い、消化管内容物の顕微鏡による観察、遺伝子の解析、炭素及び窒素安定同位体比分析の3つの手法を用いて、プラスチック汚染の実態を解明した。

・調査した10個体中7個体の消化管にプラスチックが存在していた。プラスチックの平均出現数は9.2±8.5(0〜31)であった。

・マクロプラスチック(1)に相当する10cm2〜1m2の大きさのものが56.5%を占めていた。

・アオウミガメが摂食していたプラスチックはその回遊域よりも広い範囲に起源を持つと推定され、摂食は越境汚染(2)であることが判明した。

・プラスチックを取り込んだ原因としては、主な餌である海藻に混在するプラスチックを摂取すること、餌のクラゲ類などと誤認していることが考えられる。

 

 立正大学、国立研究開発法人産業技術総合研究所、九州大学の研究者及び学生(研究当時)で構成された研究グループは、小笠原諸島に来遊するアオウミガメ消化管に含まれるプラスチックについて調査し、プラスチック汚染の実態について明らかにしました。

 この成果は2026年1月2日(日本時間1月3日)にPeerJ Life and Environment誌(電子版)に掲載されました。

 

 

図1. アオウミガメ 2025年12月11日小笠原・二子島で撮影。©環境省

 

 

 

図2.アオウミガメに摂食されたプラスチック。A: エアークッション, ポリヒドロカーボン, B: シート状プラスチック, ポリヒドロカーボン, C: 糸状及びシート状プラスチック, D: マスク, E: 糸状プラスチックの塊, F: プラスチックの破片, G: コンタクトレンズのブリスターパック, ポリプロピレン, H: ペットボトルの蓋, ポリエチレン, I: 笛, ポリエチレン, J: シート状プラスチック, スケールバー2cm. K: ペットボトルのラベル, スケールバー2cm. L: シート状プラスチック, スケールバー1cm. PeerJ Life and Environment誌より引用

 

研究の概要と背景

 世界のプラスチック廃棄物の排出量は2020年には5,210万トン/年と推定され、その内の43%は陸地を経て水生環境へ輸送される危険性が指摘されています(Cottom et al., 2024, Nature 633(8028):101–117)。プラスチックは、魚類はもとより鯨から動物プランクトンまで多くの種類の海洋生物の体内から発見されています。

 日本近海に分布するアオウミガメ(図1)は、繁殖のために本州太平洋沿岸から小笠原諸島に回遊します。そのため、小笠原で採捕されたアオウミガメは広範囲な海域でさまざまな形態(浮遊、堆積、海藻に混在など)で分布するプラスチックを摂取し、蓄積していることが考えらます。本研究はプラスチックを摂取する要因とプラスチックの起源を推定することを目的として、消化管内容物の顕微鏡による観察、消化管内容物のDNA解析、炭素・窒素安定同位体比(3)分析の3つの手法を組み合わせた研究を行いました。また、フーリエ変換赤外分光法によりプラスチックの種類を同定しました。

 

研究の内容と成果

1)調査した10個体中7個体からマイクロ、メソ、マクロプラスチックが出現しました(図2)。メソ、マクロプラスチックは6個体から合計92個が出現し、平均出現数は9.2±8.5個(0〜31)でした。それらの重さの平均は15.28±24.17g(0〜70.55)であり、プラスチックが体重に占める平均の割合は、0.014±0.021%(0〜0.064)でした。

2)プラスチックの大きさは、マクロプラスチックに相当する10cm2-1m2のものが56.5%、メソプラスチックに相当する10mm2-10cm2のサイズが41.3%を占めました。

3)主要な餌は大型海藻であり、DNA解析の結果から採捕時に餌場としていたのは褐藻類シオミドロの仲間、タマハハキモク、ハイオオオギの仲間が優占する3ヶ所と推定されました。また、南下途上で大型海藻が摂食できないときの餌として流れ藻やクラゲやサルパなどゼラチン質のプランクトンを摂食していることが示唆されました。これらのことから、アオウミガメは藻場の大型海藻や流れ藻に存在するメソ、マクロプラスチックを摂取すること、ゼラチン質のプランクトンと誤認してそれらを摂食すると考えられます。

  ゼラチン質のプランクトンと誤認することは、プラスチックが大きいほどシート状のものが多くなること(図3)、また透明・半透明・白のものが多くなること(図4)から示唆されました。

4)アオウミガメが摂食したプラスチックにはひらがな、簡体字、繁体字、ハングルが表記されているものがありました(図2)。そのため、摂食されたプラスチックはアオウミガメの回遊域よりも広い範囲に起源を持つと推定され、プラスチックの摂食は越境汚染であることが明らかになりました。

5)アオウミガメのつがいを構成する雌雄は摂食していた海藻の種類が異なり、筋組織の炭素・窒素安定同位体比も異なっていました。これらのことから、つがいを構成する雌雄は出合うまでの行動の履歴が異なり、つがいとなってから一緒に行動する時間は短いと考えられます。

 

今後の展開と展望

 プラスチックの摂食がアオウミガメに及ぼす影響については、消化管組織の損傷、摂食量の減少、排泄への影響などが考えられます。また、プラスチックに含まれる PCB や PAH などの毒性化合物が生体に影響する可能性があります。大きなプラスチックを摂食するアオウミガメにとっては、より深刻な影響を受けることが予想されます。今後、プラスチック摂食の生体への影響についての研究が求められます。 

 また、本研究はプラスチック汚染が国境を越える問題であることを示しました。プラスチック製品の生産量、使用量、廃棄量の削減などプラスチック汚染の軽減を国際協力の下で研究と並行して実施する必要があります。

図3.アオウミガメに摂食されたプラスチックの形状の割合(プラスチックの大きさ毎)。PeerJ Life and Environment誌に掲載された図を改変

 

 

図4.アオウミガメに摂食されたプラスチックの色の割合(プラスチックの大きさ毎)。PeerJ Life and Environment誌に掲載された図を改変

 

用語解説

(1)プラスチックの大きさ:プラスチックの大きさは、1000nm以下のナノプラスチック、5mm以下のマイクロプラスチック、2.5cm以下のメソプラスチック、1m以下のマクロプラスチック、1m以上のメガプラスチックに区分される(GESAMP, 2015, Reports and Studies 96)。本研究ではプラスチックの形が不定型のものが多かったため、大きさの指標として面積を用いた。

(2)越境汚染:汚染物質が発生源から風、川、海流などで運ばれ、国境を越え拡がること。

(3)炭素・窒素安定同位体比:動物組織の炭素安定同位体比(δ13C:分析試料と標準試料に含まれる12Cと13Cの存在比を比較した値)は餌とほぼ同じか若干高い値(0〜1.5‰)を示し、窒素安定同位体比(δ15N:分析試料と標準試料に含まれる14Nと15Nの存在比を比較した値)は餌よりも高い値(3.4‰)を示すことが知られている。そのため、動物の餌と栄養段階の指標になる。

 

論文情報

・掲載誌:PeerJ Life and Environment 13:e20425

・論文名:Multiple approaches to meso- and macroplastics and the food habitat of the green turtle, Chelonia mydas, in the Ogasawara Islands, Japan

・著者:

藤谷天蔵  立正大学 地球環境科学部 卒業生

衣奈駿治  立正大学 地球環境科学部 卒業生

細谷藤真  立正大学 地球環境科学部 卒業生

李 盛源   立正大学 地球環境科学部 教授

西島美由紀 産業技術総合研究所 地質調査総合センター テクニカルスタッフ

井口 亮   産業技術総合研究所 地質調査総合センター 研究グループ付

中野知香  九州大学 応用力学研究所附属海洋プラスチック研究センター 助教

岩崎 望  立正大学 名誉教授

・DOI:10.7717/peerj.20425

・掲載日:2026年1月2日(日本時間1月3日)

 

 

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