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各職種が専門性生かして貢献 看護師、薬剤師やソーシャルワーカーも

木澤義之・日本緩和医療学会副理事長 パネルディスカッションではまず、緩和ケアが実際にどんなふうに実施されているかをパネラーの皆さんに紹介してもらい、続いて事前に参加者から寄せられた質問にパネラーが各職種に合わせて答えていくこととしたい。その後に会場からの質問にパネラー全員で答えていくという形で進行させていきたいと思う。なお大変申し訳ないが、個別の病状とか家族の状態についての質問に答えるには限界があるので、代表的なことを討論し、個別の病状等については拠点病院の相談支援センターに相談していただきたい。ではパネラーの方々に簡単な自己紹介をしながら、各施設でどんな緩和ケアの取り組みをしているかを話してもらうことからスタートしたい。

濵卓至・大阪府立病院機構大阪府立成人病センター心療・緩和科副部長 私は今、病院で緩和ケアチームというところに所属している。基調講演でもあったが、痛みであったり、それ以外の吐き気であったり、治療の副作用とか、そういった主に身体症状を緩和できるような担当医師としてやっている。緩和ケアチームというのは医師だけでなく、看護師や薬剤師、あるいはカウンセラー、栄養士、ソーシャルワーカーも入っている。そういう多職種で、それぞれ専門性を持ち寄って、患者の痛みだけじゃなくて辛さ、それから気持ちの面とか、そういったものを緩和するというチームだ。私はその中で、特に痛みとか身体症状を担当している。もちろん外来もやっている。痛みを持っている患者が非常に多い状況なので、まずは痛みをとるということをやるが、それ以外にも診断時からということで、抗がん剤の治療中の副作用とか、手術の後の傷の痛みとか、そういったあらゆる患者にとっての辛さをとるようなことを、医師として担当している。また個人的にがん患者の栄養管理ということにも興味を持っており、例えば食欲不振で食べられないような方に少しでも食べられるよう、あるいは医療状態をよくして少しでも抗がん治療を受けられるように支援している。

上村恵一・市立札幌病院精神科医師 札幌市は人口200万人の政令指令都市だが、その総合病院の中で、がんの患者の診察をしている。総合病院なので、ほかにも糖尿病や高血圧、リウマチ、脳梗塞といったような体の病気を抱える方たちのこころのケアも行う精神科医だ。がんの患者に対応しているので、サイコオンコロジスト、精神治療医と名乗っているが、同じようにほかの病気、体の病気とこころのケアというのを同時にするような立場でやっている。また市立札幌病院は精神科の病棟もあるので、もともと精神科の病気、例えば躁うつ病とか統合失調症というのを持っていて、高齢になってがんになるケースがある。こういう場合、抗がん剤治療とか放射線治療をしようとしても、なかなか対応できる病院がない。そういうときはうちの病院で、もともと持っている精神科の病気の対応をしながら、がんの治療もしてもらうことになる。私は精神科医だが、病棟で担当している患者の中には、放射線の治療をしていたり、抗がん剤の治療をしていたりと、痛みの緩和のために入院している患者もいる。緩和ケアチームというのは全国のがん診療連携拠点病院全てにあり、そこには必ずこころのケアを担当する医師がいる。私もそこのメンバーとして入っていて、濵さんのような身体の痛みを担当している医師と協力しながら、ケアに当たっている。がんになられた方の家族の支援も行う。あと私どもには救命救急センターというところがあり、大事な家族を失った方と毎日のように接する。がんで大切な方を亡くされた方にも同じようにケアをする。


◇みんなで話し合って解決◇

大野由美子・大阪大学医学部付属病院オンコロジーセンターがん看護専門看護師 私は緩和ケアチームに所属し、10年近くチームの活動をしている。例えば痛みに対する麻薬性の鎮痛薬とか、眠れない辛さで睡眠薬を飲んでもらうとか、病気に対する説明を聞いてもらうなどの際に、担当の看護師がしっかりと話を聞き、主治医の先生と看護師で緩和ケアを担う。ただそういった中でもやっぱりまだ辛さがとれない、通常のケアを受けていても辛さがとれない、痛みがとれない、痛み止めをどんどん増やしても眠くならないなどの問題が起きてきたときに、病棟の主治医もしくは看護師から相談を受けて、みんなで話し合って解決しこうという役割を担っている。病院の診療というのは時間刻みで、あわただしい状況だけれども、そういった中で立ち止まって、辛い患者にも何とか自分らしく療養を受けてもらえるように、少し時間を止めてゆっくりと専門家同士で検討して、何より患者や家族の話をしっかりと聞いて、その人でないと何が辛いか何に困っているか、そしてどう生きたいか、何を大事と思っているかということはその人にしかわからないので、そういった話を聞きながら、スタッフと一緒にケアを考えていくというような仕事をしいる。

塩川満・総合病院聖隷浜松病院薬剤部長 緩和ケアチームで薬剤師の活動をしている。17年前に聖路加国際病院の緩和ケア病棟が立ち上がったときに病棟薬剤師で入り、そのあと緩和ケアチームができてからは、その専属薬剤師としてずっと活動してきた。その時に化学療法の抗がん剤の服薬指導とか、そういうことにも携わったので、今日はいろんな薬について薬剤師がどのように関わっているのか、どんなケースで薬剤師のところに声がかかるのかといったことを話せればと思う。

橘直子・総合病院山口赤十字病院医療社会事業部医療社会事業係長 私の病院には今、ソーシャルワーカーという名のつく仕事をしている人間が三人いる。実は赤十字という団体がそもそも、病気になられた方だけではなく、病気になった原因の困りごとも救っていこうというところで、私どもの病院では昭和24年からソーシャルワーカーという職員がいた。先輩から代々受け継がれて私達の仕事が今あるわけだが、ソーシャルワーカーの仕事というのは、その時代の社会を反映する。昭和24年当時は戦後間もない時代で、日本がまだまだこれから復興していくぞという時代。そして時代が流れて昭和、平成と移りゆく中で今現在私たちの目に移る社会問題はかなり異なる。そういった様々な社会的な問題と、それが病気になってしまったことで自分にこんなふうに降りかかってきた、そういうことに対して社会的支援、気持ちと暮らしの部分をどうやってもう一度見直していくか、立て直していくかというような仕事をさせてもらっている。ソーシャルワーカーというのは、社会福祉というのが専門の基盤になる。私たちは病院の中でたくさんの国家資格を持つ医療職の先生たちに混じって、社会福祉という立場から仲間として仕事をさせていただいている。患者は日頃お世話になっている医師だからこそ、日ごろお世話になっている看護師だからこそ、こんなこと聞いていいのかなとか、こんな相談していいのかなとか悩んでいる。お金のことで困っているが、お金がないと言ったらもう治療を続けられなくなっちゃうんじゃないかとか、家に帰ったら主人の介護をしなくちゃいけないからこういう治療は受けられないといった相談を受けることも多々ある。看護師や医師に聞いていいのか迷うような気がかりごとの相談の窓口を、私たちソーシャルワーカーが務めるのかなと思っている。私の病院はがん診療連携拠点病院も兼務しており、その中の相談支援センターの相談員の一員でもあるので、そういった立場からも皆さんに、私たちソーシャルワーカーの存在をわかっていただいて、少しでもお役に立てたらなと思っている。


◇患者と何でも言える関係に◇

木澤氏 次に普段どんなことをやっているかを話していただきたい。またパネラー同士でお互いの説明にわからないことがあったら、あるいは確認したいことがあったら、質問してもらいたい。

濵氏 私はもともと外科医をやっており、昔はこころのケアというと、精神科の医師や心理士がやるようなものというイメージがあった。しかし緩和ケアチームに数年携わってみて、どうもそうじゃなくて、私も身体の痛みをとるのが専門だが、こころのケアも大事だなということに何となく気づき始めた。チームでこころのケアを支えるというのが非常に大事だなと今は考えている。そういった中で看護師や薬剤師、ソーシャルワーカーの方々が具体的にこころのケアにどうかかわっているのか知りたい。

橘氏 がん相談支援センターには、がん専門相談員という相談員が常駐している。それは私たちのようなソーシャルワーカーであったり、看護師であったりするが、どんなことを大事にして家族に向き合おうかと、日々お互いに学び合っている。その中で感じているのが、身体とこころと暮らしが切っても切り離せないことを意識することと、「家族は第二の患者である」という立場を大事にすることだ。まず今上手くいっていないことをしっかりと聞く。例えば先ほど話したお金のことであったり、仕事のことであったり、家族関係のことであったり、医師との関係のことであったり、色々うまくいってないことを聞く。その上で、そんな中でもあなたが頑張ってきたことは何なのか、乗り越えてきたことなど過去の経験を、患者や家族から教わるというところから始めるよう意識している。患者や家族のこころを、私のこころの物差しで測ることはできないから、そこのところをしっかり聞くよう気をつけている。

塩川氏 薬剤師というと、薬のことばっかりになると思うかもしれないが、私が心がけていることは、その前に患者の背景であるとか、そういったことを我々が知って、患者と一緒にコミュニケーションをとって、何でも言える関係性を作りたいということ。自分の置かれている立場とかいろんな話をしつつ、最終的に何か心配事がありますかということで、薬のことも含めて何でも相談してもらえる関係性をつくるように心掛けている。

大野氏 私は看護師の立場として、まず患者さんと関係を築く。何でも本音で言ってもらえるような場を持てるようにする。患者が言葉に出して苦痛を言えたらいいのだが、言えない辛さもいっぱいあるという状況は多い。そういったときにマッサージとかタッチとかというような身体へのアプローチを通して、看護師ならではの心をいやす方法を考える。


◇緩和ケアは特別なものでない◇

木澤氏 緩和ケアはどこで受けることができるかという質問をいただいている。緩和ケアはどこで受けられるか、少しかみくだいて皆さんに伝えていただけますか。

濵氏 緩和ケアといっても特別なものでないと私は思っている。がん治療が行う基本的な緩和ケアと専門的な緩和ケアとの違いはあるが、基本的には医療従事者がやっていること自体が緩和ケアだと思ってもらえばいいのではないか。痛みを和らげるのはもちろんそうだけれども、例えば抗がん剤をやっていて胸焼けがする、吐き気がするということがある。そういうものに対して吐き気止めを考えたり、看護師がケア的に背中をさするとか、そういったごく当たり前のことが緩和ケアだというふうに考えればいいかなと思う。特別大きな病院であったり、緩和ケア病棟であったり、ホスピスということではなくて、一般的にどこでも受けられるというのが、本当の意味での緩和ケアだと私は思っている。

木澤氏 本当に辛い症状があったり、困ったことがあったときに、誰に相談しに行ったらいいのか。

濵氏 例えば拠点病院という病院が全国に400カ所あるが、そこには緩和ケアチームというのが必ずある。チーム員であることを示すバッチを我々はつけており、各医療機関の先生方にも配布してつけてもらったりしている。このバッチをつけている方というのは緩和ケアに関して詳しい人というか、担当している人ということなので、バッチをつけている人がいたら気軽に声かけてもらえば、必ず相談に乗ってくれるはずだ。

大野氏 窓口としては主治医、担当看護師だと思うが、現実的には主治医によって緩和ケアのスキルが微妙に違う。痛みが悪循環になってしまったような状態とか、気持ちがずっと晴れなくて主治医じゃ手に負えないときに、バッチをつけている人に「もっと緩和ケアを受けたい」と言ってもらえばいいのではないか。一般的な医療者は当たり前に緩和ケアをしている。自分のしているケアを緩和ケアと思っていないと思うので、もっと緩和ケアを受けたいと言ってもらえば、専門的なところにつながっていくと思う。

塩川氏 我慢しないで、医療者に誰でもいいから相談してほしいなと思う。近くに薬剤師がいれば薬剤師であっても看護師であってもいいと僕は考えている。

橘氏 私のところの病院は、もともと緩和ケアを提供するのは緩和ケア病棟から始まった。緩和ケア病棟の中では医療職のスタッフばかりでなく、ボランティアもケアの提供者のメンバーになったりする。緩和ケア病棟という一つの建物、ユニット、病棟というところもあれば、一般の病棟の中に緩和ケアチームがお伺いして、そこで療養しておられる方のいろんなケアに携わることもある。もう一つ大事なのは、在宅で受けられる緩和ケアだと思う。さらに住み慣れた我が家だけではなく、緩和ケアを受けられるたくさんの施設ができてきた。私どものところに相談にきた方が「もっと緩和ケアを受けたい」と言ったら、私たちは「この方に提供して差し上げられる最上の緩和ケアってなんなんだろう」と考え、今話ししたようなバリエーションの中から示すことができるのかなと思う。


◇痛みの状態に応じて薬物選ぶ◇

木澤氏 これまでの議論をまとめると、緩和ケアを受けるには身近な医療者に訴えてもらうのが重要というのが共通した意見のようだ。主治医、看護師、あと分かってもらえない場合もあるので、もしくは問題が解決しない場合があるので、その時は緩和ケアとついた部署、緩和ケア病棟でも緩和ケアチームでもそういうのがないか探してもらって、あればそこに、もしなければバッチをつけている人、それでもだめだったら声高に叫ぶ。とにかく身近で相談できそうな人に「緩和ケアをもっと受けたい」というふうに相談するのがいいというのが、皆さんの一致した意見だ。では続いて、事前に会場からいただいている質問の中から、幾つか聞いていきたい。一つ目は痛みの治療について。緩和ケアは痛みを和らげる治療だと思うが、具体的にどんな治療なのか。終末期治療との違いは何か。

濵氏 身体症状の中で一番多いのが痛みということだと思う。緩和ケアとしてはまず薬物的治療を行う。その中で医療用の麻薬というものを使うことがある。それは決してがんが進行したから使うということではなくて、痛みの状態、状況に応じて、痛み止めを選んでいく。薬以外でも、放射線の治療であったり、あるいは神経ブロックであったり、そういった非薬物療法もあるかと思う。

木澤氏 痛み止めとしてモルヒネを必要以上に使用すると寿命を縮めてしまうことがあるのか。その場合、本人や家族にどのように説明したらいいのか。また副作用とかにはどのように対応したらいいのか。

塩川氏 寿命を縮めるという話には誤解がある。一つには、いったん使い始めると中毒とか依存になるのではと懸念する人が多い。全くそんなことはない。動物実験で、痛みをつけたネズミに投与しても依存は起こらないということがわかっている。人間でも全く同じことが言える。痛みがないような人に使ってしまうと依存があると言われているが、急に大きな量を使ってしまうような場合を除き、痛み止めに適正な量を使用する限り、安全な薬といえるだろう。

大野氏 モルヒネは寿命を縮めるものではない。ただ末期の人の家族に、そういう説明をしても、目の前で苦しんでいて最期を迎えそうな場合には、説明が理解できないかもしれない。そういったことを懸念しているのかとも思ったりするので、早目からきちっと知らせておくことだと思う。モルヒネという言葉にこだわらず、痛みをとる薬を始めるよということで説明すればいいのではないか。


◇介護保険サービスの対象に◇

木澤氏 転院以外の方法で緩和サポートを受ける方法があるのか。病院やホスピスと在宅の訪問看護などとの緩和ケアで、内容の違いはあるのか。

橘氏 転院以外ということになると、今療養されている病院から他の病院に代わるという選択肢があって、それ以外に緩和サポートを受ける方法があるかということだと思う。私どもが相談窓口でもそのような相談を受けることもあるが、痛み止め薬の使い方が上手にできていれば、がん患者はいわゆる高齢者の方、40歳以上の方でも介護保険の対象になる。実際に介護保険の施設を利用するも多くなった。あとは介護保険のサービスを利用しながら、在宅でサポートを受けるという方もいる。どちらかというと転院よりも、そういう施設なんかを使うケースが増えてきたという印象だ。具体的には特別養護老人ホーム、それから老人保健施設というのもある。医療施設でも大きくわけて三つの種類の施設が介護保険で入れる。三つの施設に加えて、そういった世話の受けられる有料老人ホームというのもできてきた。介護保険で使える施設というのは、どうしても定床に限りがあったりするので、自分で自由な生活をしていきたいという方には、そういった有料の老人ホームや、それに近いような施設を紹介している。もう一つ、在宅訪問看護等との緩和ケアの内容の違いがあるかという点だが、一言では説明するのは難しい面もある。病院で受けられる医療的なケアは、基本的に自宅でも提供できるようなコミットを今までしてきた。例えば食事のとれなくなった方にも、自宅で栄養管理ができるようないろんな工夫の仕方がある。痛みのコントロールの仕方についても、飲み薬であったり貼り薬であったり、工夫の仕方次第で病院で受けているのと同じような医療を受けることが可能になってきている。そのへんのところを話すと、みなさん退院とか転院とかいう方法以外の選択肢を選んだときにも、安心して過ごせる気がする。

木澤氏 ありがとうございます。ここで淀川キリスト教病院から池永さんが来ています。ホスピスでも病院でも在宅でもお仕事されているので、病院ホスピスと在宅の訪問診療、訪問看護の看護ケアでその診療内容に影響あるような差があれば教えてくださいという質問です。

池永氏 大阪ではいろんな施設がある。それぞれの施設において、診療所で緩和ケアができるところがあるところと十分でない地域、ホスピスにしてもすぐに入れるところと入れない地域がある。それぞれの地域によって受けられるケア多少違うが、基本的にはまず患者さんがどこで過ごしたいかということを考えてほしい。その上で、緩和ケアチームや相談支援センターに聞いて、どういうことが地域できるかをご相談するのが一番いい。緩和ケア病棟の特徴、また在宅の緩和ケアの特徴、また病院や先生の特徴を聞いた上で、判断してもらうのかなと思っている。 

木澤氏 これで事前にいただいた質問は最後にしようかと思う。家族ががんになり、本人は緩和ケアについて全く知らない状況で、生きる希望を支えながら療養するというときに、周りのもののこころの持ちようはどうしたらいいか。具体的なアドバイスをいただきたい。

上村氏 何よりも大事なのは、その方がその方らしく人生を終えられるというのはどういうことか、一緒に話し合う姿勢だと思う。これは、がんになってからいきなり話し始めても難しいかもしれない。できれば、そういう状況になる前から、その人らしさというのがどういうことなのかを話し合っておく必要があると思う。われわれは仲立ち役としては「本人がその人らしいと思えることというのはどんな暮らし方だと思いますか」というように、家族に実際に具体的に質問したりする。痛いことは本当にいやな人だとか、こういうことになったら世界一周旅行に行きたいと言っていたとか、そういうようなちょっと冗談めいた話があるかと思うので、本人が喜ばれる方法を選んでもらうことだ。

大野氏 家族としてどういう心構えでいたらいいかというと、無理しすぎないというか、家族自身も自分らしくあることが重要なんだと思う。よく絶対明るくふるまうとか、絶対泣かないようにしているとか聞く。それは本人のためにと思いながら、一方で自分らしくないというか、本当は泣きたい悲しいときがあると思うのに、それを全部抑え込んで励まそうとする家族をみると、そういうときは「一緒に泣いたからといって本人は死んだりしないよ」「気持ちをある程度本人に話しても大丈夫ですよ」とアドバイスする。それができたときに初めて、これまで話せなかったことが本当に話せた、という患者や家族によく出会う。


◇家族はどうサポートとするか◇

木澤氏 ここから先は、会場の皆さんから質問をもらい、パネラーみんなで答えていきたい。質問のある方はいますか。

質問者 私の妹が昨年の7月に直腸がんで摘出手術した。その後遺症かわからないが、血栓とリンパ浮腫があるということで、非常に歩行が困難な状況になっている。ほかにも転移している可能性があるということで、かかりつけの医者の判断でCTとって、一週間前にはPET検査も受けた。診断を待って、治療方法を検討するということになっているが、本人は延命治療をしたくないと言っている。残された時間を意義あることで過ごしたいというのが本人の希望だ。そういう状況で緩和ケアを家族としてどうサポートしたらいいのか。

木澤氏 一般的に直腸の転移があって、かつリンパ浮腫がある方に対して、どんな治療ができるか、というご質問に代えさせていただいて応えてください。

濵氏 リンパ浮腫に関しては、当センターでもリハビリの先生とかでリンパドレナージュの専門の先生がいるので、そういった先生にリンパを流すような治療というか、ケア的なところをお願いしている。血栓がある場合は、血栓を飛ばしてしまうリスクもあるが、一般的にはリンパ浮腫に対しては血栓がなければ、リハビリの先生がケアの一環でやったりということで、症状緩和というところでは積極的にやっている。

大野氏 確かにリンパ浮腫が起きてくると、なかなかひかないので難しいと思う。活動量を減らすとか、調整するのは一つの対応。リンパドレナージュができないときは特効薬はなくて、足を上げてしっかり夜は寝ていただくということで、リンパの戻りを少しでもマシにするとかというような方法はとれるかなと思う。

木澤氏 直腸がんをはじめ骨盤の手術であるとか、放射線とかは、リンパ浮腫というのが起こりやすい状態で、複合的リハビリテーションが有効であるとは言われている。しかしできないときがあるので、そのときは今の話のような対応になるのが現状かなと思う。


◇医師向けの緩和ケア研修会も◇

質問者 その人らしさという言葉が出たと思うが、病気の進行とともに本来持っていたものが変わっていく。それをみている中で感じるのは、主治医、いわゆる医師の方々のケア、言葉だ。こういうところで話を聞くと、医師はみんな優しいのかと思うが、現実は違う。患者にすれば、一番の救いは医師の言葉だと思うが、なにも言ってくれない。医師の方々は緩和ケアについてどれだけの勉強をしているのか。最新の治療のことばかり考えて、ケアに対してはまだまだ遅れているような気がする。医師が勉強する会といったものはあるのか。

上村氏 コミュニケーションを患者と良好にとれずにがんの治療をしている医師は、緩和ケアができていない医師だと思う。指摘は非常に耳が痛いところ。今、がん医療学会でも協力して、がんを治療する医師には必ず受けもらう「緩和ケア研修会」というのを、各がん診療連携拠点病院でやっている。そこではコミュニケーションという座学、講義だけでなくて、実際にがんを治療する医師が患者役になったり、医師役になったりして、患者が言う言葉を体験してみるといったことをやる。目標としている受講者の医師の人数には足りていないが、コミュニケーションについて学べる機会を私たちは提供している。ケアというのはイコール、コミュニケーションだということを肝に銘じて、これからがん治療の医師たちに勉強するよう勧めていこうと思っている。

質問者 レクチャーだけで患者の気持ちをわかれというのは無理だと思うが…。

上村氏 がんという病気になった医師もたくさんいる。その先生たちを研修会に呼んで話をしてもらうこともある。実際のがん患者や家族が、どういうコミュニケーションを医師に要求していたかという調査もした。それをもとに、こういうコミュニケーションをしていこうということで、実際にそのコミュニケーションをやってみて体験してもらうというようなことをやっている。確かに疑似体験にしかすぎないが、現状やれる範囲でがん患者や家族の意見をくみ取って、何とかやっていこうというのが現状だ。


◇なんでも気軽に相談を◇

質問者 がんの治療を受けていて、病状が厳しくなったときに、緩和ケアを受けることを勧めることになった、最初からやればいいんだが、その状況から緩和ケアを進めるとなったときに、患者はそれを受けたくないといった場合、どういうふうに対応するのか。

濵氏 痛みがひどい場合などでは、医療麻薬とかを使う。飲めなくなっても、注射であったりとか、そういうものを使って痛みがないような状況になるように努力している。息苦しいとかいう症状でも、痛み止めを使うことによって呼吸が楽になったりということがあるので、そういった症状にも薬で対応したりするようにしている。それでもとれないような苦痛なら、緩和ケアチームみたいな第三者的なところと相談して、やはりほかに治療がないという場合は、眠れるような薬を多少使ったりとか、そういったことをやっている。

木澤氏 辛い症状を本人が訴えることが難しい場合は、家族が訴えれば、十分に対処することができると思う。

質問者 テレビの医療番組を見ていて疑問に思ったことを、医師にどう尋ねればよいのか。


大野氏 なんでも相談してもらえばよいと思う。実際にも病棟で仕事していて「テレビでこんなんやっていたけど、自分にもそんなことがあるのか」と相談をしてくる患者がいる。私たちは、そんな相談をしてくるなんてバカだなんて絶対思わない。ただテレビ番組は、ある部分だけが強調されていたりして、わかりにくい部分があると思う。身近にいる医師に気軽に相談しほしい。

木澤氏 拠点病院には必ず相談室があるので、そちらに相談してもらえばよい。対面だけでなく電話でもいいので、気軽に相談していただきたい。まだ質問したい方もいるだろうが、時間になってしまったので、この辺でパネルディスカッションを終了したい。繰り返しになるが、もし辛い症状があったり、困りごとがあったら、身近な医療従事者に辛いですと訴えていただきたいと思う。そのつらさに対応することこそ、緩和ケアの一番重要なことだ。我慢しないで、一言声をかけてほしいということを、この機会に是非皆様にお伝えしたいと思う。

 


◇情報を周りに広げてほしい◇

細川氏 閉会にあたり主催者を代表して一言ご挨拶を申し上げる。今日は忙しい中、こんなにたくさんの方にお越しいただき、ありがとうございました。私が医師になりたてのころは、薬では二つの軽い鎮静と痛み止めしかなく、効いている時間も短くて、患者は痛みに苦しんでいた。医者はいばっていたから、全然面倒をみない。今でも決して全部が優しい医者ばかりではないが、ここ10年、20年の間に状況はずいぶんよくなってきた。20年前にこんな会もなかった。今日の市民公開講座には医者だけでなく、看護師、薬剤師、ソーシャルワーカー、そしてボランティアの方もたくさん参加している。ただ医者もいろいろいる。変な言い方だが、口はうまくて優しく見える医者だが、手術したらへたくそというものいる。一方で「こいつ腹立つ、こいつとはしゃべりたくない」という医師が、手術させたらすごくうまいというケースもある。医者もテクニックで勝負する人と優しさで勝負する人がいると思うので、賢くうまく対応していただきたいと思う。それから今日はどんな死に方をするかという話があった。私も医者になって、たくさん亡くなる方を見てきた。たぶん1400人を超えていると思うが、一言でいうと、人というのは生きてきたように亡くなる。わがままでどうしようもない人は、亡くなるときもそんな感じだ。穏やかに笑ってこられた方は、亡くなるときも笑っている。だから自分はどうなるのか心配な方は、自分の生き方を振り返ってみればだいたい予想がつくと思う。ただ痛みを含めて辛さだけは、何とかしていくことが大事だ。私は全ての医者が、全部緩和ケアができるようになるべきだと思っているわけではない。緩和ケアを患者や家族が必要としていることを理解し、自分ができないならできる人を紹介するのでもいいと思う。医療技術は複雑高度になって、必死に勉強しても自分の専門分野をカバーするだけで精一杯という時代になっている。周りに緩和ケアを専門的にできる医師、薬剤師、看護師を持つということは、自分がそれと同じことをできるのと等しいといえる。皆さんも一人で悩まずに、周りにいろいろ聞いてみるのも一つのやり方だ。医者の紹介もあるが、痛みを和らげるならここがいいと患者仲間に教えてもらった方が少なくない。いろいろな機会を利用していろんな情報を仕入れてもらいたい。もちろん身近にいる医師も相談に乗ってくれるはずだ。まだまだ不十分だとは思うが、これから日本緩和医療学会としても努力を重ねていこうと思っているので、帰ったら「こういうことがあった」と周りに話を広めていただきたいと思う。

 

登壇者略歴

座長 木澤 義之
特定非営利活動法人日本緩和医療学会 副理事長
神戸大学大学院 医学研究科 内科系講座
先端緩和医療学分野 特命教授

1991年筑波大学医学専門学群卒業後、94年筑波大学総合医コースレジデント、97年国立がんセンター東病院研修医(緩和ケア病棟)などを経て 2000年筑波メディカルセンター病院診療科長( 総合診療科)、緩和ケア病棟担当。03年筑波大学臨床医学系講師、筑波大学附属病院医療福祉支援 センター副センター長、05年同大学附属病院緩和ケアセンター副セン ター長、13年3月より現職。日本緩和医療学会委託事業委員会緩和ケア研修 WPG員長、厚生労働省緩和ケア推進検討委員会委員など歴任。12年特定非営利活動法人日本緩和医療学会副理事長。

 

濵 卓至
大阪府立病院機構大阪府立成人病センター 
心療・緩和科副部長

1996年和歌山県立医科大学卒業、2001年和歌山県立医科大学大学院医学研究科(外科系)修了。国立大阪南病院外科医員、和歌山県立医科大学附属病院第2外科および救急・集中治療部助手を経て、07年国立病院機構大阪南医療センター外科・緩和ケアチームリーダー、08年同外科(緩和医療)医長兼緩和ケア推進室長。11年大阪府立病院機構大阪府立成人病センター心療・緩和科医長兼緩和ケアチーム専従医、12年より現職。専門は緩和医療、がん患者の栄養管理。12年より日本緩和医療学会理事。緩和ケア普及啓発WPG員長。大阪府がん診療連携協議会緩和ケア部会長。

上村 恵一
市立札幌病院 精神医療センター 副医長

2001年旭川医科大学医学部医学科卒業後、北海道大学医学部附属病院 精神神経科、02年 独立行政法人国立病院機構札幌病院 北海道がんセンターを経て、03年 市立札幌病院 精神神経科。06年 KKR札幌医療セン
ター緩和ケア病棟 非常勤医師を歴任。11年より現職。日本サイコオンコロジー学会(理事、代議員、あり方委員会委員)、日本緩和医療学会(委託事業委員会緩和ケア研修WPG)、日本精神神経学会(指導医・専門医)、日本総合病院精神医学会(がん対策委員)、日本臨床精神神経薬理学会(専門医)。

大野 由美子
大阪大学医学部附属病院 オンコロジーセンター
がん看護専門看護師

1989年大阪大学医療技術短期大学を卒業後、大阪大学医学附属病院勤務。一旦臨床を離れ、2001年に大阪府立大学大学院看護学研究科修士課程を修了、03年がん看護専門看護師の認定を受け、再び同大学病院へ。04年よりオンコロジーセンター緩和ケアチームで専従看護師として勤務。がん患者さん・ご家族がその人らしい生き方を実現できるよう、医療チームの調整やスタッフの相談に主に携わっている。

塩川 満
綜合病院聖隷浜松病院 薬剤部長

1989年東邦大学薬学部卒業後、東邦大学医学部付属大森病院薬剤部に勤務。1996年聖路加国際病院薬剤部を経て、2011年より聖隷浜松病院薬剤部部長、聖隷クリストファー大学臨床教授。聖路加国際病院では緩和ケア病棟立ち上げから関与し、緩和ケアチーム薬剤師として活動。日本緩和医療薬学会理事、将来計画委員会委員長として薬剤師教育プログラム(people)を運営。日本緩和医療学会理事、総務財務委員会副委員長、緩和ケア普及啓発委員。

橘 直子
綜合病院山口赤十字病院
医療社会事業部 医療社会事業係長

1995年 川崎医療福祉大学 医療福祉学部医療福祉学科卒業後、 医療法人仁保病院 精神科ソーシャルワーカーを経て、96年 綜合病院山口赤十字病院医療ソーシャルワーカー、現在に至る。国立がん研究センターがん対策情報センター 相談支援センターがん専門相談員研修専門家パネル委員、日本緩和医療学会 緩和ケア普及啓発WPG 、日本ホスピス・緩和ケア協会 教育支援委員、日本医療社会福祉協会 調査研究部会 がん・緩和ケアチームなど。

 

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