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こどもホスピス「地域の誇り」に 理解、支援求め横浜で全国集会

横浜市で開かれた全国こどもホスピスサミット

 命に関わる病気や重い障がいのあるこども、家族が安心して楽しい時間を過ごせる「こどもホスピス」への理解と支援を求め、全国から関係団体が集まったサミットが2月23日、横浜市で開かれた。会場、リモート合わせて120人余りが参加し、各団体が施設建設に向けた動きや課題などについて報告。孤立しがちなこどもと家族が大切にされ、こどもホスピスを「地域の誇り」とする社会を目指し議論が交わされた。

▽友として寄り添う

 最期をみとる大人のホスピスと違い、こどもホスピスは小児がんや先天性心疾患、神経筋疾患などの重い病気や障がいのこども、そのきょうだいや家族が、快適、安全な環境で、遊んだり学んだりできることを目指している。英国発祥で欧米では増えているが、日本では病院併設ではない地域コミュニティー型は「TSURUMIこどもホスピス」(大阪市鶴見区)と「うみとそらのおうち」(横浜市金沢区)の2カ所止まり。生命を脅かす病気のこどもは全国に約2万人いるといわれ、北海道、岩手、宮城、千葉、東京、長野、愛知、福井、奈良、兵庫、福岡、沖縄などで施設設置を目指す活動が進んでいる。

 基調講演で、TSURUMIこどもホスピスを運営する「こどものホスピスプロジェクト」の原純一副理事長は「社会的苦痛(経済、教育、家庭)、精神的苦痛(生きる意味、死の恐怖、自責の念)、スピリチュアルな苦痛(不安、いらだち、うつ状態)に対処するのが、われわれのミッション」と述べ、痛みや日常生活動作の支障といった身体症状に対応する医療機関との違いに言及。大切にしていることとして「こどもの声を聴き、こどもの不安に友として寄り添うこと」を挙げ「それには死と向き合う覚悟が必要になる」と指摘した。施設の建設には億単位、運営には年間数千万円の費用がかかるとされ、こどもホスピス普及のネックになっている。原さんは「一定の実績がないとお金は集まらない。寄付金がないと運営は厳しくなる」とした上で「こどもホスピスの理念は、建物がなくても実現できる。まずは病院や家に出かけていくことから始めよう」と呼びかけた。

各地のこどもホスピスの取り組みを紹介したポスター

 

▽生き生きと過ごせる場所

 続いて各地の団体が活動の内容を報告した。「2022年10月に仮施設『くまさんのおうち』を設置し、キャンプや室内イベントを開催。北海道の24年度予算に『こどもホスピス等支援事業』が盛り込まれた」(北海道)、「学習支援やグリーフケアの人材育成に力を入れている。施設を持っていないのでクリニックや保育園など4施設に場所を提供してもらって活動している」(東京)、「こどもと家族が一息つける『レスパイトハウス』を運営している。まちおこし活動と連携し、車いすや重度のこどもを歓迎し散歩を楽しんでもらえる『レスパイトタウン』にする試みを始めた」(奈良)、「こどもホスピスは闘病中から天国に行った後も、医療スタッフやボランティアとつながれる場所と思う。こどもの育ちを一緒に押してサポーターとして歩みたい」(福岡)など、さまざまな取り組みが紹介された。

 横浜市に21年11月に開設した「うみとそらのおうち」は、22年に162家族557人、23年は256家族966人が利用した。運営する「横浜こどもホスピスプロジェクト」の田川尚登代表理事は「私たちが目指すのは、命を脅かされた病気のこどもと家族が地域の中で生き生きと過ごせる場所、こどもたちの『やりたい』をかなえる場所、そしてこどもと家族につながる新しい地域のコミュニティー。こどもと家族が地域や社会から支援を受けられることで、心理的、社会的に孤立しなくなる、という目標を立てて活動を進めてきた」と振り返り、地元の小学生との交流や団体、企業とともに開催するイベントなど、こどもホスピスへの理解を深めてもらう啓発活動について説明した。

横浜市金沢区の海に近い市有地に開設された「うみとそらのおうち」(横浜こどもホスピスプロジェクト提供)

 

▽地域や企業、行政と協働、連携

 地域や企業との協働をテーマにしたパネルディスカッションでは、愛知こどもホスピスプロジェクトの畑中めぐみ代表理事が「企業の人は最初、病気や障がいのあるこどもにどう関わればいいのかと萎縮していたが、こどもたちの笑顔を見て楽しい時間が共有できた」「地域の人と一緒にこどもホスピスをつくり、地域にこどもホスピスがあることが誇りとなるようにしたい。説明を重ねて理解してくれる人を増やしてきた」と、協働の成果や期待を述べた。

 横浜市医療局の本間明副局長は、市が土地を無償貸与して建設された「うみとそらのおうち」について「まず現在の政策体系のどれに近いのか整理した上で、一番実現したいことは何かを確認、入所型ではなく通所型施設と位置づけ、スタートアップの支援は看護師の人件費補助とした」と、横浜こどもホスピスプロジェクトと議論しながら段階を経て進んだ経過を説明。市は地元町内会への説明や医師会、医療機関への根回しなどにも当たったことなど、連携の実例を紹介した。

 また、10年以上、入出金のない休眠預金を活用して支援している日本民間公益活動連携機構(JANPIA)の鈴木均シニア・プロジェクトコーディネーターは、こどもホスピスの事業を進めるに当たり「どういうステークホルダー(利害関係者)がその地域や分野にいて、どうつながってサポートしてもらうのか、クリアにすることが大事」「企業との協働は、いかに共感を得るかがポイント」とアドバイスした。

 最後に田川さんが「全国25団体以上のプロジェクトが立ち上がろうとしている。こどもホスピスが日本のあちこちにでき、地域課題の解決につながれば、きっと優しい国、地域になると思う」とあいさつ、3時間半余りにわたったサミットを締めくくった。

ブランコのあるホールや、家族一緒に入れる風呂などを備えた「うみとそらのおうち」案内図(横浜こどもホスピスプロジェクト提供)

 

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