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「価格転嫁」「賃上げ」「人手不足」「設備投資」… コロナ禍からの回復途上の中小企業の課題が浮き彫りに

調査9

 大同生命保険(大阪市)は、全国の中小企業経営者を対象としたアンケート調査「大同生命サーベイ」を、2015年10月から毎月実施している。2023年も、経営そのものに直結するテーマに加え、「中小企業の健康経営」「従業員のリスキリング」「サステナビリティー経営の取組み状況」「中小企業のがん対策」など多様な切り口で中小企業経営者にアンケートを行い、中小企業経営の課題を提起してきた。2023年最終となる12月のアンケートでは、中小企業経営者たちに「2023年の振り返り」を聞いた。

■2023年の経営環境、「良かった」は3割弱

調査1

 今回のアンケートは、2023年12月1日から25日にかけて、全国の中小企業7073社の経営者を対象に、訪問またはZoom面談で行った。

 それによると、2023年の経営環境が「良かった」と回答した企業は、28%(前年差7pt増)。コロナ禍前の2019年12月調査で「良かった」が31%、「悪かった」が21%だったことを見ると、経営環境は改善傾向にあるものの、コロナ禍前の水準までは回復していないことがうかがえた。業種別では、「製造業」「運輸業」などが特に厳しい結果となった。

 黒字企業は66%だった。黒字になった要因(複数回答)は、「新規販路の拡大、新規顧客の開拓」が27%と最多。業種別に見ると、「製造業」「卸・小売業」では「十分な価格転嫁の実施」との回答が他業種に比べて多かった。

調査2

 コスト上昇分を製品・サービス価格に上乗せする「価格転嫁」については、57%(2023年2月調査比2pt減)の企業が2023年に「価格転嫁した」と回答。黒字企業で61%、赤字企業で52%が価格転嫁をしていた。価格転嫁について経営者からは、「価格転嫁しても、また他の物が値上がりするので、追いつかない」(運輸業/北海道)、「原材料高騰を理由とする価格転嫁は応じてもらいやすいが、人件費高騰による価格引き上げは交渉が難航した」(運輸業/南関東)などの声が寄せられた。

調査3

■賃上げ率は過半数が3%未満

 2023年に「賃上げした」企業は55%(2022年12月調査比21pt増)で、従業員数の規模が大きい企業ほど賃上げを実施。業種別で見ると、「製造業」が67%と他業種よりも賃上げした割合が大きくなっていた。具体的な賃上げ率は、「3%未満」が55%と過半数を超えた。賃上げについて経営者からは、「物価高の影響で価格転嫁しても利益が伸びないため、賃上げした分、苦しい」(宿泊・飲食サービス業/北海道)、「国の施策は基本的に大企業が対象なので、もっと中小企業に目を向けた対策がほしい」(製造業/北関東)などの声が挙がった。

調査4

調査5

 2023年の採用状況について、「採用でき、充足している」と回答した企業は27%。採用できた要因(複数回答)は、「柔軟な働き方が可能」(勤務形態等)が30%と最も多く、「社風や従業員の人柄が良い」が29%だった。

調査6

■設備投資や資金繰りに課題

 2023年に「設備投資をした」と回答した企業は28%。2023年の資金繰りについて68%の企業が「支障はない」と回答した。一方、過去の調査と比較すると「今後、支障が出てくる」との回答が増加していた(2023年5月調査比4pt増)。経営者からは「現状のままであれば特に問題はない。ただし、新規に事業をすることは難しい」(不動産・物品賃貸業/北海道)、「物価高により経営がひっ迫しており、ゼロゼロ融資の返済額などを見直したい」(運輸業/東北)などの声が挙がった。コロナ禍で始まった実質無利子・無担保の「ゼロゼロ融資」の返済が本格化する中で、将来の資金繰りに不安を感じている企業が増えていることが浮かび上がった。

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調査8

■インフレ転換期の今、「攻めの経営」「長期的な財務力強化」を

 アンケート結果を受けて大同生命では、中小企業が直面するさまざまな課題に対する取り組みは進展しているものの、まだ不十分な点もあるとし、人手不足感の高まりなども指摘している

  神戸大学経済経営研究所の柴本昌彦教授は、「価格転嫁できていない企業が多い」「賃上げの上昇率が多くは3%未満にとどまっている」「人手不足が続いている」「低金利環境下で資金調達しやすいにもかかわらず設備投資を行う企業が少ない」という中小企業経営の現状が浮き彫りとなったと解説。「2023年は、原材料価格の高騰とコロナ禍からの緩やかな需要回復を背景に、物価高に直面する1年となった。今後も中小企業が持続的な経営を実現していくためには、インフレ環境への対応が不可欠」としている。柴本教授は、インフレ転換期の今だからこそ提言したいこととして「価格転嫁を伴う『攻めの経営』」と、急務として「長期的な視野での財務力の強化」の2つを提言している。

 具体的には、デフレ環境下では値上げを拒まれることが常態化していたが、今後は“価格転嫁ができるように競争力を高める”経営の必要性を指摘。十分な賃上げにより従業員の満足度を高めることや、人材確保・育成のための取り組みを進めることが必要としている。さらに、低金利環境がしばらく続く中、競争力を高めるためには新たな設備投資が必要とし、コストカットや現預金の確保といった資金繰り対策など、長期的視点での財務管理の見直しを提言している。

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