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クマを呼ぶ農村の衰退 小視曽四郎 農政ジャーナリスト 連載「グリーン&ブルー」

 米騒動は消費者には苦々しいが、米農家には経験したことのない収入をもたらし、農機具など長く抑えていた購買意欲を大いに刺激しているようだ。農水省によると主食用米10アール当たりの所得は2023年までの5年間の平均が2.1万円。24年産は9.3万円。これが25年産は約20万円になるというから、思わぬ「天祐(てんゆう)」だ。おかげで関東などでの農機具展示会は大盛況。最新の草刈り機や米の被

 害粒を見つける色彩選別機などが人気で、農薬メーカーなどもえびす顔だという。

 一方、収穫後のホッとする気分も懐の温かさで賑(にぎ)わうはずの盛り場の喧(けん)騒も全く無縁の地域がある。クマが人家や街の銀行、スーパーなどに堂々と現れ大騒ぎの東北などの地方だ。

 大騒ぎは当然だろう。クマの出没は昼夜も何も関係なく、人間の生活圏に入り込む。最も出没の多い秋田県では昼間でも繁華街から人影が消え、酔客で賑わうはずの有名な盛り場でも人出が減った。「コロナ禍の時よりひどい」。温泉場や観光地ではキャンセルが続出。お年寄りは「病院にも行けず、買い物にも怖くて外に出られない」と嘆く。環境省の調べでは今年4〜10月のクマによる全国の人身被害者数は196人と過去最多。死者は過去最多だった23年度の6人を超え13人に上る。猛暑で主な餌となる木の実が大凶作となり、過疎化、高齢化で耕作放棄地は増えるばかりで人家に近い荒地などに生息域が広がる。その人家近くに棲(す)み、人間にさほど恐怖感を持たない「アーバンベア」が「人間や人間社会」を獲物や餌場とみているとの指摘がある。専門紙によると人身被害のうち3割は農作業中だという。農家にとっては「外で仕事ができないなら死活問題」。収穫の秋は喜びどころか恐怖の日々だ。

 国会では共産党の岩渕友議員が11月20日の参議院農林水産委で「中山間地で耕作放棄地が増え、農村に人がいなくなったことで人間社会とクマを隔ててきた緩衝地帯が失われてきた」と政府を追及。

 鈴木憲和農相は「これまでの政策では中山間地域の衰退を止めることができなかった。反省している」と述べた。

 25年農林業センサスでは20年調査と比べ、「基幹的農業従事者」の数が34・2万人減で、過去最大の減少率25%超を記録した。農業経営体も100万割れした。衝撃の数字である。今後の減少の加速が怖い。

 農林業の衰退と村人たちの離村をこのまま座して待つなら、さらにどれだけの災厄を呼ぶことになるのか。

【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No.48からの転載】

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