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【スズキナオが聞く“発酵する人々”】第4回 お酒の神様「松尾大社」神職・西村伴雄さんに「神社とお酒のこと」を聞く

――そういう経緯だったんですね。もともとは、西村さんの日本酒好きから始まったことだったと。

 もともと僕は大阪の住吉大社に21年ほどいて、その当時は洋酒ばっかり飲んでいたんですよ。バーにばっかり行ってました。日本酒は好きでしたけど、家で晩酌にちょっと飲んだりするぐらい。それがある時、「大阪にいいお酒を出す店がある」っていうのを教わって飲みに行ったんです。難波の「酒楽座 山三」というお店なんですけど、そこには50種類ぐらいの日本酒が置かれていて、それを飲んだ時に「こんなおいしいお酒があるのか」と思って、僕はいっぺんそう思うと全部試さないと気が済まないタイプなんです(笑)。それからその50種類ほどを全部飲むまでそのお店に通って、大将がすごくお酒にお詳しい方なので、お酒の種類、米の違い、麹の違いなどをいろいろと教えてもらったんです。そこから日本酒の奥深さに興味を持って、それが30年ほど前でしたね。

――いいお店に出合って、それがきっかけになったんですね。

 日本酒のいろははそこで教わりました。大将と一緒にホテルで開催されるような日本酒の会に連れていってもらって、そういう場のことも学んで、自分なりに勉強したり、料理とお酒をこういう風に一緒に楽しむのかということも知りましたし、それを参考にするようにして自分で酒の会を始めてみたのが最初なんです。

――「酒-1グランプリ」にはまだ私は参加したことがないんですが、たまにお酒の席をご一緒させてもらう漫画家のラズウェル細木さんもゲストで毎回参加されているんですよね。

 あの人の漫画には何回も出させてもらいました(笑)。もともとは京都リビング新聞社の粕野さんという、今も「酒-1グランプリ」を支えてくれている方の紹介でした。ラズウェル細木さんが参加してくれることで、より広く知ってもらうようになりました。

「酒-1グランプリ」には『酒のほそ道』で知られる画家・ラズウェル細木さんもゲストで参加している

――今回、食祭テラスでの「発酵マーケット KOJI/麹」にも西村さんがトークゲストとして参加されると伺いました。イベントのサブテーマが「本と発酵と“直会”飲み会」ということなんですが、直会というものについてもお聞きしたいです。

 その根底に、まず日本人独特のものの考え方があるんです。それが「稲霊(いなだま)信仰」というものです。日本人は稲作を続けてきた民族ですよね。だから、さまざまな植物がある中でも最高のものは稲だと。日本人というのは、稲を作るためにずっと苦労してきた民族なんですよね。水田を作って、それをいかに広げるか、稲の品種をどんどん改良して、いかに安定して育てられるかということをずっとやってきたわけです。ですから日本人にとっては稲はただの植物ではなく稲霊という、御霊なんです。お祭りの時にはお米をお供えする。そしてお餅をお供えする。そしてお酒をお供えする。すべて米から取れたものですよね。そしてこれを食べて飲むことによって神様の力をいただくことができる。だから、お餅のことを「力」って言うんですね。もともとはお米のことを力と言ったんです。

――「力うどん」と言ったら餅の入ったうどんのことですもんね。

 はい。お米の御霊をいただくことがわれわれの生きる力になっているんだという考えです。そうなると当然、お酒というのも重要なものになるわけですよね。それをいただくというのは、神様の力をいただくということなんです。だからお酒をいただく場にはタブーがないんですよ。お酒は力の源なので、日本人はそれをいただくことに罪悪感がないんですよ。反対に酔っぱらわないと失礼だと、せっかくこんなおいしいものをいただいているのに、それで酔わないのは失礼だというぐらいで。

――そうか、そういう発想になっていくわけですね。

 ですから直会というものも、お酒をどんどん飲んで、誰かが潰れてしまうまで続くんですね。それを飲んで酔っ払うということは神様に愛でられているのと同じなんだという考え方になるわけですよ。

――酔っぱらうことは神様に愛でられているのと同じ……今後はこのフレーズを抱えて生きていきたいです(笑)。

 直会では、まず、順番にずらっと並んで、下ろしてきたお米を一粒いただく。そしてお神酒を一口いただくという、それで「礼講」が終わります。そこから先は「無礼講」となって、食べ物をいただいて一緒にお酒を飲むんです。「無礼講」の時には、お酒を注ぎに移動してもいいし、そこではさっき言ったように潰れるまで飲んでもそれは力をいただいたことになりますから。今、一般的にはその「無礼講」の方を直会と呼ぶことが多いですね。

――いろいろと教えていただきありがとうございます! この後、松尾大社の方にもお参りに行ってみたいと思います。

 と、こんなふうに、松尾大社のことだけでなく、日本にとってのお酒というものの重要性についてたっぷり教わった。嵐山を少し散策した後、阪急電車に再び乗って、松尾大社まで行くことにした。

松尾大社の大きな鳥居を見上げた

 境内の湧き水で、「よみがえりの水」と呼ばれて信仰されている「亀の井」を飲むと、驚くほどにまろやかな口当たりだった。

境内の湧き水「亀の井」を多くの人が汲みにくる

 このようなおいしい湧き水があったからこそ、酒造りがさかんに進められ、そのお酒のおいしさが広く知られるようになっていったのだろうと思った。日本においしいお酒がたくさん存在することに感謝する気持ちで、社殿に手を合わせた。

※本記事は、ことさら出版との連携企画です。


スズキナオ(X/tumblr)
 1979年生まれ水瓶座・A型。酒と徘徊が趣味の東京生まれ大阪在住のフリーライター。WEBサイト「デイリーポータルZ」「集英社新書プラス」「メシ通」などで執筆中。テクノラップバンド「チミドロ」のリーダーで、ことさら出版からはbutajiとのユニット「遠い街」のCDをリリース。大阪・西九条のミニコミ書店「シカク」の広報担当も務める。著書に『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』『遅く起きた日曜日にいつもの自分じゃないほうを選ぶ』『家から5分の旅館に泊まる』(スタンド・ブックス/太田出版)、『「それから」の大阪』(集英社)、『酒ともやしと横になる私』(シカク出版)、『思い出せない思い出たちが僕らを家族にしてくれる』(新潮社)、『大阪環状線 降りて歩いて飲んでみる』(インセクツ)。パリッコとの共著に『酒の穴』『酒の穴エクストラプレーン』(シカク出版)、『椅子さえあればどこでも酒場 チェアリング入門』(ele-king books)、『“よむ”お酒』(イースト・プレス)、『ご自由にお持ちくださいを見つけるまで家に帰れない一日』(スタンド・ブックス/太田出版)。

  • 「松尾大社」広報担当の西村伴雄さん

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