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【スズキナオが聞く“発酵する人々”】第2回 クラフトサケブランド「LINNÉ」の今井翔也さんに「醸造と今のこれから」について詳しく聞く

――数年ごとに環境を変えながら仕事をしてきた今井さんだからこそ、そう考えるに至ったんでしょうね。

 京都の宮大工さんに実際に出会ってお話を聞く中ですごいなと思ったのが、仕事をする上でのユーザーエクスペリエンス(顧客が得る体験的価値)を考えたときに、宮大工さんは神様のユーザーエクスペリエンスを考えているんです。顧客である神様のことを第一に考えて仕事をしている。自分もお酒造りをする上でそこに近づきたいなというのが一つあって、もう一つあるのが、自分が造っているのはお米のお酒ではないわけです。お米は日本の信仰の中心にあって、すごく大事なものですよね。なので、神様から授かったお米でお酒を造ってそれを捧げるという結びつきがあるんですけど、自分は雑穀や芋からお酒を造っている。たとえばそれを神様に捧げることは、どういう意味を持つんだろうと。

――なるほど、それは考えたこともなかったです。

 そういう素材から造ったお酒を神様に捧げようとした時に、誰にそれをお願いするかというと神職の方になりますよね。でも、もしお米以外の素材で造るお酒が信仰の対象外だったとしたら、自分で捧げるしかないのかもしれないって。自分で造って、自分で捧げるということができるのが一番いいとしたら、神職について勉強して、それができるぐらいにはなりたいと思ったんです。

――おお、それで神職の勉強を?

 もちろん、おこがましいので一人前になろうとは思わないんですけど、その第一歩ぐらいまではちゃんと勉強して身につけたいなっていうイメージですね。実家のルーツをたどると、「木曽三社神社」という神社にたどり着くんですが、その境内に湧き水があって、その水の流れがあって、そこに住んで、江戸時代に酒蔵を建てて酒造りを始めたという、神社と家と酒蔵という三つが連動していたんです。自分の中でもその三つは密接につながっていると考えています。もともとはその関係性の中で酒造りが行われていたのに、今はそれがバラバラになってしまっていますよね。この三つが重なり合った上に酒が生まれるという世界観をもう一度構築できないかという思いがあるんです。

歴史的に貴重な「登り窯」のそばで今井さんは酒造りを始める予定だ

――壮大なスケールですね。

 ちなみに群馬の実家が酒蔵を始めたのは江戸時代なんですけど、それは分家の初代で、本家は木曽義仲の四天王の一人の今井兼平なんです。最後は源義経に追討されて、大津のあたりで討ち死にしたと。しかもそれが壮絶な最期で、『平家物語』にも描かれているんですが、先祖が京都から近い場所で、そういう生きざまを見せたという、それが33歳ぐらいなんですけど、自分が今38歳なので、もうなんか、ボーナスタイムみたいな(笑)。でも実際、もう戻らないつもりでフランスに行って、そこから日本に戻ることになってからは、もう儲けもんというか、それまでの仕事は形になったので、ここからは何をしようかと、気持ちが切り替わるタイミングではあったんです。

――ここまでは酒造りの背景的な部分のお話を伺ってきましたけど、今井さんの酒造りそのものも刻々とアップデートされているものなんですか?

 そうですね。米以外の万物を醸したいという意味合いで八百万から「800」というブランドが生まれて、原理的には素材のバリエーションを無限に増やしていけるものではあるんです。ただ、そこも千本ノックのようにたくさん造っていくっていう価値観からちょっと一線を引いて、これまでに5種類の定番となる素材が出そろったんで、それをもっと深めていくっていうモードに入っています。蕎麦が自分たちのフラッグシップで、栗は京都の素材ということで推していきたいですし、この二つを軸にして、その他が準定番の素材という感覚で造っているところです。

クラフトサケシリーズ「800」には現在5種類の定番商品がある

――やっていく中で素材が厳選されていったということですね。

 自分一人で全部をやろうとも思っていなくて、やれる人がどんどん広げていってくれるといいかなと思います。米の日本酒が完成するまでにだいたい2000年ぐらいかかっているので、真っ当にやろうとしたら2000年×素材数だけかかるわけです(笑)。数万年の話になってくる。ただ、まずは2000年かけて培われた米の日本酒の製法を応用するということと、一人で全部やろうとせずにみんなで同時に進めていけばゴールまでの時間を速めることができるんじゃないかと。

――今井さんのそういう考えがどんなふうに作られていったのかと、興味があります。もちろん経験が大きいのだと思うのですが、今回、食祭テラスの方では青山ブックセンターのサポートの上で書籍を多く取り扱う予定で、その中には今井さんの選書した本も並ぶと聞きました。これまで読んできた本というのも今井さんに影響を与えていますか?

 それは大きいです。たとえば、江戸時代に、当時の最高の酒造りの技能に関する書籍が刊行されていて、それが『童蒙酒造記』というものなんですけど、誰が書いたものかは不詳なんです。酒造りの記録が何巻にもわたってつづられているんですけど、その第4巻がすごく好きで、そこにはいろいろな酒造りの流派のことが調べられていて、序文になぜそんな情報を集めているのかという理由が書かれているんですけど、「まずやってみて、いいものは取り入れて、悪いものは捨てればいい」と、だからこうしていろいろな流派のことを調べているんだというふうに書いてあって、その姿勢はめちゃくちゃ、謙虚だし、柔軟だし、それが江戸時代に日本酒が一気に完成に近づいた理由なんだろうなと思ったんです。

――面白いですね。今の時代っぽい考え方に思えます。

 そうですよね。それを現代に置き換えた時、日本酒だけじゃなく、フランスに行ってワインの国の醸造を学ぶとか、いろいろな素材を学んで取捨選択していく中で究極の何かが見えてくるみたいなイメージを持てて、本から学ぶことは多いですね。

――選書リストは、基本的には醸造に関する本になるんですか?

 いや、それだけでもないです。技術的なものもあるんですけど、人文的な興味の中で出会った本ですとか、実務的な経営とかプロデュース的な分野のこと、コミュニケーションのこととか、2度の起業で蔵元や杜氏としてたくさんの役回りを経験したこともあって、いろいろなことに興味があるんです。

――普段からすごくいろいろな本を読まれるんですね。

 電子書籍を端末で読むことも多いんですけど、やっぱり大事な本を絶対に紙で持っておきたいんですよね。自分の中の重要なテーマに関するど真ん中の本というのは絶対に紙で常に持ち歩くようにしていて、いつでもアクセスできるというのがいいし、直接いろいろと書き込みますし。

――今はどんな本を持ち歩いていますか?

 それこそ、小倉ヒラクさんの『僕たちは伝統とどう生きるか』(講談社現代新書)を読んでいます。

――期間中に会場で選書を見ることができるのも楽しみになりました。あとそうだ、「LINNÉ」のお酒はどこかのお店で飲むこともできるんですか?

 この五条坂でも、来春からはレストランをオープンしてそこで飲んでいただけるようになりますし、今でもたとえば京都・四条河原町の「小林酒店」ですとか、元田中にある「発酵室 よはく」とか、サイトの方でもリストを公開しています。

――ありがとうございます。ぜひ飲みに行ってみたいと思います! 今日はありがとうございました!

 豊富な経験を積み、さまざまな分野を横断して学んでこられた今井さんの話は、時間も距離も飛び越えて自由に飛んでいくかのようで圧倒されるものがあった。

 五条坂の地にこれから生まれる醸造所+レストランのオープンを待ちつつ、まずは食祭テラスで再会できるのを楽しみにしたいと思う。

※本記事は、ことさら出版との連携企画です。


スズキナオ(X/tumblr)
 1979年生まれ水瓶座・A型。酒と徘徊が趣味の東京生まれ大阪在住のフリーライター。WEBサイト「デイリーポータルZ」「集英社新書プラス」「メシ通」などで執筆中。テクノラップバンド「チミドロ」のリーダーで、ことさら出版からはbutajiとのユニット「遠い街」のCDをリリース。大阪・西九条のミニコミ書店「シカク」の広報担当も務める。著書に『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』『遅く起きた日曜日にいつもの自分じゃないほうを選ぶ』『家から5分の旅館に泊まる』(スタンド・ブックス/太田出版)、『「それから」の大阪』(集英社)、『酒ともやしと横になる私』(シカク出版)、『思い出せない思い出たちが僕らを家族にしてくれる』(新潮社)、『大阪環状線 降りて歩いて飲んでみる』(インセクツ)。パリッコとの共著に『酒の穴』『酒の穴エクストラプレーン』(シカク出版)、『椅子さえあればどこでも酒場 チェアリング入門』(ele-king books)、『“よむ”お酒』(イースト・プレス)、『ご自由にお持ちくださいを見つけるまで家に帰れない一日』(スタンド・ブックス/太田出版)。

  • 「LINNÉ」の今井翔也さん

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