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【連載 “人”が伝える高知の魅力】 カツオと生きる、高知県中土佐町の人たち

 

 太平洋の大海原を望む高知県。背後には豊かな山と川が広がる。その魅力を、そこにいる“人”を通じてじっくり伝える連載インタビュー。第1弾は県中西部の太平洋に面した中土佐町久礼(くれ)から。カツオの一本釣りで知られる漁師町に暮らす人たちに「カツオ」について聞いた。

 ■一緒に暮らしてる

 町の中心部にある商店街・久礼大正町市場で田中隆博(たなか・たかひろ)さんは鮮魚店を営んでいる。「高知は経済的に豊かなところじゃないんだけど、見ての通り自然が豊かで、海に行けば何か転がってる。それの代名詞がカツオ」
 この町の漁は「400年ぐらい前から始まった」というカツオの一本釣り。釣竿で1匹ずつ釣る。巻き網と違って群れを一網打尽にしないため、乱獲を抑えた自然に優しい釣り方だ。「自分たちの生活を豊かにする道具としてカツオと付き合ってきた」。漁獲量では全国トップ3に入らないのに、高知県は1世帯当たりのカツオ消費量が突出して多い。まさに「カツオで稼ぐ」より、「カツオと暮らしてきた」というのがふさわしい場所だ。
 「季節によっては毎日取れるので、それをいかにおいしく食べるかが、ここに住む人の幸福感にとってすごく大事」。カツオを切ったときの身を見て、おいしいカツオを見極める目も育った。「一般の人でもだから、魚屋にはさらに高いレベルを要求される。それが研さんして、今のハイレベルなカツオの文化が形成されている」

田中鮮魚店の田中隆博さん
田中鮮魚店の田中隆博さん(写真提供:久礼大正町市場)

 ■息を吸うように

 中土佐町生まれの小川心平(おがわ・しんぺい)さんにとっても、カツオは「息を吸うように」当たり前にあるものだった。「山か海を使った仕事」がしたかったという小川さん。高知の特産といえば「ウバメガシ」を原木とした土佐備長炭が知られるが、「山の炭は有限な資源。だけど、海水は無限にある」。くみ上げた海水から「太陽の力と職人の手」のみで「2カ月以上」かけて作る「完全天日塩」に目をつけた。
 完全天日塩の発祥の地が、中土佐町から南に20キロほど離れたところにある。黒潮町の職人のもとに22歳で弟子入りし、2年間の修業を経て中土佐で独立した。中土佐町の後押しを受け、町から借りた施設をリノベーションして製塩所を操業している。

小川製塩所の小川心平さん
小川製塩所の小川心平さん

 ■自慢のもの

 久礼にある天明元年(1781年)創業の西岡酒造店は、地下湧水や四万十川源流名水を仕込み水として使用し、山田錦や四万十川源流の里で自然栽培した米でこだわりの酒造りを行っている。その10代目が西岡大介(にしおか・だいすけ)さんだ。地元の蔵元にとっても、カツオは特別な食べ物。「県外の人が来たら必ずカツオを食べに連れて行きますからね。自慢のものとは思っているんでしょう」。お酒の味も、自然とカツオと合うものになった。「カツオのたたきとか赤身」によく合うという。

西岡酒造店の西岡大介さん
西岡酒造店の西岡大介さん

 ■カツオをおいしく食べるために

 カツオとともに生きる久礼では、水揚げされたばかりの新鮮なうちに「刺身」で食べるのが一番人気だ。たたきにするときは、表面をワラでさっと焼く。この「ワラ焼き」は、半農半漁の町ならではの習慣がもとになっている。農家にカツオを持っていってコメや野菜をもらう「物々交換」の際に、ワラも一緒に入手した。火力の強いワラは、1分ほど炙るだけで「周りだけ焦げて、中のお刺身はそのまま」残るので、「魚屋としてはありがたい道具」だという。
 全国的にはカツオのたたきといえばタレが知られているが、塩たたきも人気だ。塩自体にもこだわっている。「田中鮮魚店の社長にはずっと使ってもらっていて、一緒に作ってきた感じ。全国的にもまずないと思う、ここまでカツオにフォーカスした塩は」
 たたきに合う塩にするために毎日ハウスに入って結晶を触り、食感の残る「粗塩」と、食べるときにカツオに引っ付く「パウダー塩」のバランスを整えている。「久礼のカツオは味が強い」ので、粗塩多めが合うという。
 季節で変わるカツオの味にも合わせる。「戻りカツオは脂が多くて味が濃いので、粒子サイズを上げる。初カツオはあっさりめなので、塩も細かめに。1年間を通して繊細に塩をチューニングしている」

 ■不安定さ・不自由さを楽しむ

 カツオと生きる町の暮らしとは。「明日カツオが取れなかったら魚屋も休み。“不安定”なんだけど、400年間それで幸福に生きてきた自信が僕たちにはあって。高知の人間には“自信”と“冒険心”が混在してるんじゃないかな」。田中さんは東京の名門大学を卒業し、サラリーマン生活を経験後、実家の鮮魚店に戻ってきた。「僕も、サラリーマンの“30年後が見える生活”よりも、“3日後が見えない生活”の方がワクワクしてしまう」
 30代の小川さんの場合、「不自由もたくさんあるんですけど、むしろ僕らはそれを楽しむ生き方。キャンプとかもそう。みんな“不自由”をお金払ってでも楽しみに行く。中土佐だから楽しめる生き方を伝えていきたい」。産業を興したい気持ちを支えてくれた町への感謝の思いもある。「スタートアップの町にしたいですね。トライする人がいっぱい来てくれる町になってほしい」

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