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「普通の生活」をガザに 【馬場典子 コラムNEWS箸休め】

 ガザ地区の日常を、ガザ在住のカメラマンが収めた「ガザ 素顔の日常」という映画があります。何もできないけれど、かと言ってじっとしていられなくて、上映会に行きました。

 東京23区の6割くらいの面積に約200万人のパレスチナ人が暮らすガザ地区。イスラエルに封鎖されたため貧困にあえぎ、移動の自由すらないという。タクシー運転手は真面目に働いていても滞納せざるをえない状況。漁師になる夢を持つ少年は、漁師から「そのためには勉強することと、体を大きくすることだ」と言われるが、食べるものも限られているので痩せている・・・。軍事衝突以前から何度も砲撃に遭っていて、その少年の兄弟も亡くなってしまう。それが「日常」という衝撃。

 「天井のない監獄」と呼ばれる壁の内側で若者たちはフラストレーションを抱え、イスラエル兵に向かって石を投げる。その結果、反撃を受けて担架で運ばれるほどの大けがをする。下半身不随になった青年もいて、投石vs砲撃という力の差もまた衝撃でした。

 上映会には日本に長く住んでいるイスラエル人や、イスラエルからの若い留学生も参加していて、どうすればこの悲劇を止めることができるのか話し合いました。その中で「抑圧への抵抗という見方をすれば、ハマスをテロリストと言い切ることはできないと思う」という発言があり、始まりは10月のテロよりももっとずっと前という現実、問題の根深さを痛感しました。上映会主催者の話では、子どもですら、いや、子どもだからこそ、日々砲撃に遭い目の前で家族を失うといった経験から、兵士になるのが夢だと話すそうです。

 それでも深く印象に残ったのは、子どもはもちろん大人もみんな澄んだ瞳をしていること。食べるものに困り、いつ自分の家や家族を失うかもしれない過酷な環境でも、日々を慈しみ、笑顔で過ごし、冗談を言い、歌を歌い、サーフィンを楽しみ、困難に遭えば分け隔てなく助け合う、そんな温かな「日常」でした。タクシー運転手は「ハマスさえいなければ」「ただ平和に、普通の生活をしたいだけだ」と訴え、ある50代くらいの女性は「若いころは報復こそ正義だと思っていたけれど、今は、憎しみの連鎖では解決しないと考えている」と語ります。

 もともと住民の7割が難民で、おそらく今はほぼ全ての人が難民となっていることでしょう。この映画を撮影したカメラマンも北部の家を破壊され、南部に避難しているそうです。幾度となく映し出された美しいビーチは、今どうなっているのでしょうか。

 映画は年末年始も緊急上映されている地域があり、DVDもあるので、何かのきっかけにしてもらえたらと思います。私にできることは、1日も早い停戦を願うことくらい。でも、そうした「願い」という名の強い「意思」が世界中に広がることは、決して無駄なことではないと信じたいです。

新語・流行語アレ模様 【馬場典子  コラムNEWS箸休め】 画像2

馬場典子(ばば・のりこ)/東京都出身。早稲田大学商学部卒業。1997年日本テレビに入社し、情報・バラエティー・スポーツ・料理まで局を代表する数々の番組を担当。2014年7月からフリーアナウンサーとして、テレビ・インターネット番組・執筆・イベント司会・ナレーションなど幅広く活動中。大阪芸術大学放送学科教授も務める。

(KyodoWeekly 2023年12月25日・24年1月1日合併号より転載)

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