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L/Right For Arts 【カニササレアヤコ コラムNEWS箸休め】

 藝大の電気代がヤバいらしい。国内唯一の国立総合芸術大学、芸術の最高学府とも呼ばれる東京藝術大学だが、その内情はなかなかショッパい。2022年度の電気代は、当初の見込みが1億2700万円。しかしこれが実際は3億6400万円にまで膨れ上がったということで、われわれ学生のメールアドレスには「予算減により図書購入を削減します」「練習室のピアノを売却します」などと悲痛な連絡が届いた。

 藝大の財政逼迫(ひっぱく)を受け、さだまさし氏らが開催したのが「電気代を稼ぐコンサート」。9千円のチケットが完売したというから客員教授のさだまさし先生さまさまである。私も学生枠で忍び込むことができたが、当日までに寄付金を募ったところ700万円余りが集まったとのことで「残り2億3千万!」と笑いを誘っていた。

 さすがに20代で30億円近い借金を背負った過去のあるさだ氏は落ち着いたものだったが、しかし笑ってもいられないのが現実だ。大学の廊下は雨漏りしているし、トイレには「大と紙を一緒に流すと詰まります」と張り紙がしてあるし(トイレの在り方としてどうなのか)、水道水がなんかすごくまずい(私も授業料の支払いで金欠なので水道水を飲んでいる)。学費が年々大幅に上がっているのにこんな具合である。

 私の所属する雅楽専攻は毎年新入生が1人か2人。藝大の中でも弱小な専攻だ。生徒が少なすぎて先生の方が多いという大変恵まれた環境だが、度重なる経費削減の嵐で「次に削られるのは雅楽専攻なのでは」とおののかないでもない。「稼げる大学」を国が推進する流れの中、われわれの足元は常に不確かで危うい。雅楽を志す若者に、手放しで藝大受験や雅楽奏者への道を勧められる状況ではないのがなんとも悲しい。

 これほどまでに電気代が上がってしまった理由は言うまでもなくウクライナ戦争だ。遠くヨーロッパの地で起こった戦争が、アジアの果ての国の芸術活動にまで大きな影響を及ぼしている。今もどこかで人間同士が殺し合っているのに空調の効いた部屋で楽器を吹いているというのも呑気(のんき)な話だが、しかしいつだって芸術と政治は不可分だ。長い歴史の中、芸術家たちはその活動をもって声を上げ意志を示してきた。ペンや絵筆や楽器たちに、剣よりも強い力があると信じて日々われわれのやるべきことを重ねていくしかない。美しい音楽を奏でる同窓生たちの手が、いつか銃を持つことのないように願うばかりである。

かにさされ・あやこ/お笑い芸人・ロボットエンジニア。1994年神奈川県出身。早稲田大学文化構想学部卒業。人型ロボット「Pepper(ペッパー)」のアプリ開発などに携わる一方で、日本の伝統音楽「雅楽」を演奏し雅楽器の笙(しょう)を使ったネタで芸人として活動している。「R-1ぐらんぷり2018」決勝、「笑点特大号」などの番組に出演。2022年東京藝術大学邦楽科に進学。

(Kyodo Weekly・政経週報 2023年7月17日号掲載)

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