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パラスポーツの心地よさ 平井理央【コラム NEWS箸休め】

 先月、国民栄誉賞を受賞された車いすテニスの国枝慎吾さんは、生涯ゴールデンスラムを達成し、「俺は最強」という言葉通り、最強のまま引退された日本が世界に誇るアスリートです。リオデジャネイロパラリンピックで、初めて国枝さんの試合を見たとき、世界一のチェアワークと同じくらい印象深かったことがあります。

 本来、障がいの度合いによって戦うクラスが分かれているパラスポーツの中で、車いすテニスは、特に重い障がいの選手がエントリーするクアードというカテゴリー以外は、クラスが分かれていません。つまり、例えば腹筋などのパワーに違いが出る下腿切断と脊髄損傷の選手も車いすテニスという同じカテゴリーで戦うことになります。どうしてもボールの速さやパワーには差がある中で、勝ち続けている国枝さんのすごさを、試合を取材して強く感じました。

 いつかお会いしたいと願っていた国枝さんと先日「ノーバリアゲームズ」というユニバーサルスポーツのイベントでご一緒しました。障がい、年齢や性別にかかわらず、みんなで楽しめる身体を動かすゲームを、チームに分かれて戦うのですが、なんと同じチームになりました。

 他人をカテゴリーに分けて、壁を作るのではなく、壁を取り払って心をオープンにする心地よさの中で、なぜ私たちは「ダイバーシティー」を目指すのかを、理屈ではなく感情で理解できたように感じました。こうした空間が日本中で体験できれば、もっともっとみんなが居心地のいい世界を実現できるんじゃないかな。

 そんなイベントの最後に、わがチームメイトでもある車いすユーザーの6歳の女の子が、国枝さんからMVPに選ばれました。彼女は二つ目のゲームで思うようにできず、泣いてしまったのですが、すぐに笑顔を取り戻して、最後のリレーではアンカーとして1位に輝きました。彼女が「なんで私を選んでくれたの?」と無邪気に聞くと、国枝さんは「泣いていたのにすぐに気持ちを切り替えられて、すごいなって思ったんだよ。僕は一度泣くと、ずっと泣き続けちゃうから」とお茶目に答えました。世界的なアスリートはびっくりするぐらいフラットで、6歳の女の子にも、そして誰に対しても同じ目線で相対していました。

 パラスポーツを取材し始めて、その魅力をもっと伝えるためラジオ番組を立ち上げたり、クラウドファンディングをしたり、気づけば7年がたちました。誰かや何かのファンになったことは、振り返ると中学2年の時の小沢健二さん以来で、人生2度目の推し活を存分に楽しんでいます。


平井理央(ひらい・りお)/1982年東京生まれ。2005年、慶應義塾大学法学部卒業後、フジテレビ入社。スポーツニュース番組「すぽると!」のキャスターを務め、オリンピックをはじめ国際大会の現地中継などに携わる。13年フリーに転身。ニュースキャスター、スポーツジャーナリスト、女優、ラジオパーソナリティー、司会者、エッセイスト、フォトグラファーとして活動中。

(KyodoWeekly 2023年4月24日号より転載)

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