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学業と両立、人生を豊かに 【正田裕生 コラム 直線・曲線・斜め線】

 日本にもこんなトップアスリートがやっと出てきた。「将来、米国と日本に病院を建てたい」「僕は教育が本当に大事だと思っている」。社会貢献に強い関心を持ち、自身の将来像を明確に語る。6月の競泳日本選手権の男子100メートル平泳ぎで優勝した20歳、岡留大和が発する言葉には視野の広さと意識の高さがあり、驚かされる。

 その思考は、米カリフォルニア大バークリー校に留学することで形成されたのだろう。高校時代にジュニアの国際大会の日本代表に選ばれた。日本の大学に進学するつもりだったが、国際大会で海外の選手と交流して考えが変わった。米国の大学なら学業と水泳を両立できると聞き「自分に合っている」と留学を志す。「ユニクロ」を展開するファーストリテイリング会長兼社長、柳井正氏が設立した財団の奨学金制度で、米国で勉強しながら競技に取り組む道を選んだ。

 専攻は神経科学とビジネスという。「建てたい」のは総合病院や大学病院だ。千葉県の東邦大東邦高出身。病院を持つ大学の付属の高校で、周囲の医学部の学生と接するうちに医療に興味を持った。医療崩壊の危機が叫ばれる中で「日本という国で求められているものは何か、自分がやりたいことは何か」を考え、人生の目標とした。「今学期はクラス(授業)を取り過ぎて期末試験中はあまり寝られなかった」と、学業に励む。

 強豪大学での練習は「部活動に近い感覚」だ。授業を受け、リフレッシュのためにプールに行き、友だちと練習して試合に出る。練習量は決して多くなく、メリハリがある。今年は五輪や世界選手権がないため、3月の全米大学体育協会(NCAA)1部の男子選手権の後はあまり練習しない選手もいる。

 選手としての目標は「チームでのNCAAチャンピオン」。個人ではなく、仲間と一緒に頂点を目指す。これも学生らしい。今年の選手権でカリフォルニア大は7位に沈んだ。岡留自身は2年生の学年を終え、秋から3年生。「自分がチームをつくる立場になる。新入生を含めてタイトルをみんなで取れれば」。五輪が最重要ではない。

 国際大会で学業や研究にも力を入れる欧米のトップ選手を取材すると、人間としてのスケールの大きさを感じる。日本では五輪でメダルを取ることに集中し、その経験から引退後に社会問題に関わるケースが多い。水泳界には大学から社会人へのキャリアを考えた時、閉塞感があるとの声も聞く。学力や経済力にもよるが、キャンパスライフを楽しみながら「文武両道」に励むことは素晴らしい。
岡留はこの夏、サマースクールを受講後、南米大陸を回る旅行を計画していた。しかし、日本選手権で予想外の好成績を出し、8月のパンパシフィック選手権(米国)の日本代表に選ばれたため旅行はお預けになった。だが、それも巡り合わせだろう。

 「今の高校生や中学生が、水泳が速くなるという目的だけじゃなくて、人生観を広げるために外(海外)に出るいいきっかけになってくれれば。水泳を通じて、人生をより豊かにすることはすごく大切で、日本の将来につながると思う」。新たな学生アスリート像は、わくわくさせる。

正田裕生(しょうだ・ひろき) 共同通信編集委員。埼玉県出身。総合商社勤務後、1991年に共同通信社入社。99年に運動部。水泳、バスケットボール、テニス、IOCなどを取材し、五輪は9大会で現地に。ロンドン支局、運動部長、編集局次長などを経て現職。

【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No.24=2026年6月22日号からの転載】

  • 岡留大和=6月4日、東京都江東区の東京アクアティクスセンター、筆者撮影

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