都内で小学生が田植え 農大にできた新しい「農と水の森」
田植えの季節。気温や水温が安定したところを見計らい、緑の苗が次々に植え付けられていくニッポンの農の風景。田んぼが広がる穏やかな地域の眺めを思い浮かべるが、実は東京にも水田がある。しかもできたばかりの「農と水の森」だ。世田谷区にある東京農業大学のキャンパスで6月13日(土)、水田のお披露目と田植えイベントが開催された。
東京農業大学の世田谷キャンパスは、環状7号線と8号線の間、世田谷通り沿いにある。都心に向かう車の往来が多い道だけに、門を入って真っ先に目に飛び込んでくる水田の風景はオアシスだ。以前はシンプルな芝生の広場だった場所に、丸みを帯びた上下段二つの水田と、これを分け、また囲むあぜ道、ビオトープ池や手足洗い場、木漏れ日テラスなどができている。水田はそれぞれ上段が63.4平方メートル、下段が101.2平方メートル。芝生からの眺めは“憩いの広場”だが、そこで稲が育つという都心では他にない“実りの場”でもある。

除幕式での記念撮影
田植えイベントには、同大の系列校である稲花(とうか)小学校の4~5年生約30人が参加。梅雨入りした東京だが、誰もが「田植え日和」と形容した晴天で、「熱中症に気をつけながら楽しんでください」という注意も添えられた。いよいよ靴と靴下を脱いではだしになると、子どもたちは楽しそうに付き添いの父母らに手を振ったり、「全身着替えを持ってきたから大丈夫」と“泥だらけ”を予想して友だちとはしゃいだり。
その水田の泥は、事前に同大の学生たちがいわゆる「代かき」をしたもの。たい肥をまき、鍬(すき)で土のかたまりを砕いた後に水を張り、足や手で土を崩して柔らかくする作業だ。事前に「Agri+no(アグリノ)」という水田管理サークルが立ち上がり、あっという間に55人もの学生が集まったといい、食と農に取り組む若い世代の力が実を結んでいる。水田にはすでに、30センチごとに目印がついたひもが規則正しく張られており、泥の中に足を入れた子どもたちは、学生に手渡された小ぶりの苗床から少しずつ苗をとっては、印に従って丁寧に植え付け、根元に土を寄せてから一歩下がる、という工程を繰り返した。
イベントには、被災地の復興や農業支援で米作りに縁の深い歌手の小林幸子さんも参加。柔らかい泥から足が抜けずに膝をついて転び、「子どもたちの方が上手」と笑いを誘う場面もあった。

田植え体験をする小林幸子さん
植え付けた苗は、日本の稲のルーツで縄文時代に大陸から伝わったといわれ、木簡にも記録があるという赤米、古代米の一種の黒米、そして国の研究機関が開発した新品種で、高温耐性に優れた「にじのきらめき」とコシヒカリだ。「赤米、黒米などそれぞれの稲は茎の色も変わってくるので、田んぼアートとは言わずとも、とてもきれいな風景になるはず」と、この日の作業をリードした同大農学部の上地由朗教授。空間デザインを担った日比谷アメニス(東京)の三間慎啓さんは、「子どもたちが見に来た時の安全性など配慮すべきことも多かったが、田んぼは世田谷通りの歩道から見えるようにデザインした」と説明してくれた。キャンパスは、目の前の世田谷通りを挟んで、馬事公苑やけやき広場など地域住民が常日頃散策する場所と向かいあっており、季節を追って変わる美しい“農の風景”という通りすがりの楽しみが増えた形だ。
この日もすでにトンボが田植え前の田んぼの上を飛んでおり、カモも飛来したと関係者はうれしそうだ。田んぼの水もできるだけ水道水を使わず、雨水や地下水を使うように設計されているといい、文字通り「ビオトープ」の形成が始まっている。
同大では、自然環境や食の循環を学ぶ教育の場として、また地域との交流を生み出す場所になるようにと、「農」ある風景のキャンパスづくりを目指してきた。敷地の北側には、緩やかな高低差を生かして階段状の畑があり、果樹や花のフィールドと雑木林がつくる「実りの杜(もり)」になっている。ここではすでに昨年、陸稲やアワなどのイネ科や落花生、トラマメなどのマメ科、トウガラシやシソなどを栽培。秋から冬にかけては、大根やカブなどの根菜系や白菜、ニンニクなども栽培したという。隣接する「農大の森」には、メタセコイアやクスノキがあり、これからの暑い季節にも大きな日かげを作ってくれそうだ。
















