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「特集」 《ライドシェア》 幸せの量産をもたらす魔法の杖か その課題と提言

 

牧村 和彦
計量計画研究所 理事

運転手不足の解決策?

 巷(ちまた)で一般ドライバーが客を有償で運ぶ「ライドシェア」が話題だ。わが国で賛否両論が飛び交う中、皆さんはライドシェアがどうして誕生してきたのかご存じだろうか?

 米国から誕生したといわれる営利目的のライドシェアは、自動車保有からの解放をうたい、自動車利用に変わる新しいビジネス、ライフスタイルを提案し、若者やビジネスマンなどを中心に人気を博してきた送迎サービスの一種だ。

 日本では、ライドシェアと表現されるものの、ライドヘイリングと呼ぶのが正しいだろう。Hailing(ヘイリング)は「呼んで迎える」という意味で、日本語で表記するなら、「配車サービス」がニュアンスとして合いそうだ。このところ、運転手不足の解決策としてライドシェアが注目されているものの、運転手不足を解決するために誕生してきたサービスではない点は押さえておきたい。

 また、渋滞問題や環境問題の解決策として、古くから存在するのが、ライドシェア(相乗り)やカープーリング(相乗り)だ。通勤時間帯では多くのドライバーが1・5トンから2トン近い車両をほぼ1人で運転しており、複数で乗り合うことで車両数を削減し、渋滞問題や環境問題を改善していく取り組みの呼び名であり、行政も支援した施策が世界中で普及してきた。近年はウェブやスマホでマッチングする仕組みも一般的だ。

 さらに、地方都市などの移動問題の解決策としては、例えば通勤で郊外から都心まで通勤する人がマッチングサービスなどを利用して相乗りするライドシェア、地域のボランティアが日常の移動を支えるボランティア輸送、公共サービスとして行政が支えるダイヤル・ア・ライドやパラトランジットと呼ばれる送迎サービスが欧米では一般的となっている。

 日本でも地方の移動問題対策として、交通空白地域における自家用有償運送制度や福祉目的の福祉有償運送制度が普及し定着している。自家用有償運送は、全国の約3分の1の市区町村で現在導入され、近年はスマホなどでドライバーと利用希望者をデジタルでマッチングする取り組みも始まっており、例えば富山県朝日町や京都府舞鶴市、兵庫県養父市などが先行している。

まちを変える

 営利型のライドシェア(ライドヘイリング)は、車両、運転手、人(モノ)をデジタルでマッチングするビジネスであり、プラットフォーマーとも呼ばれ、モビリティー産業のゲームチェンジャーとして世界を席巻している。車両もマイカーだけではなく、リース、レンタカー、自転車シェアや電動キックボードのシェア、鉄道やバスなどの公共交通機関も対象としていることから、これら新種の送迎ビジネスを担う企業を交通ネットワークカンパニー(TNC)と称している。日本にも既に進出しているUber(ウーバー)を利用すれば、特急列車のチケット、公共交通機関や高速バスのチケットなども予約・購入できる都市が海外にはある。最近は無人タクシー(グーグル傘下のWaymo)をUberから呼べたりする。

 コロナ禍前のデータではあるものの、広く普及している米国での営利型ライドシェア(ライドヘイリング)の利用者は、都市部での利用が中心(地方部や中山間などはほとんどない)であり、利用者の多くは高学歴、高所得、20~30代だ。年収1千万円を超える人たちが利用者の7~8割を占めている。また、他人との相乗りサービスも存在してはいるものの、利用は1割に満たないとも聞く。

(パーキングリフォームのサイトから)

 広く普及してきたライドシェアなどの影響もあり、欧米の都市部を中心に駐車供給量が過剰となりつつある。例えば米国では、これまで一定以上の建物に課されていた駐車場の整備量の基準や付置義務を撤廃する動きが急速に広がっている。上の地図は、駐車場付置義務が撤廃された米国の主要都市を示したものである(出典・パーキングリフォーム)。従来の自治体が定めた基準を運用するのではなく、都市開発主体にその整備量を任せることで、結果として地区の特性に合った規模の駐車場が整備され、都市の魅力が向上されていく好循環な影響が報告されてきている。また、ドイツのハンブルクに代表されるように、2030年には無人のEV車両のライドシェアを1万台規模で配備し、全く新しいモビリティー社会を構築する先進的な取り組みがこの10月からスタートしている。クルマで埋め尽くされた都市をライフスタイルとともにリ・デザインし、脱炭素化を先導していく狙いがあり、注目の取り組みだ。

観光地や交通空白地域

 このところタクシー不足として、ライドシェアを解禁する発言が活発になっている。発言者が言う「ライドシェア」が何を指しているかが曖昧であることが、混乱に拍車をかけているようだ。

 例えば、流しのタクシーが捕まりづらくなっている対策としてライドヘイリングは有効な対策だろうか? ライドヘイリングはスマホでの事前予約が前提であり、流しのようなサービスではない。むしろ米国や中国のプラットフォーマーが実用化しているような人の需要をAIで予測し、流しの運転手に提供していくようなDXの推進が効果的ではないだろうか。

 また、雨天時では何社か電話してもつながらず、スマホでも配車依頼を複数のアプリで試みて、ようやく呼べたという経験はないだろうか? もし、グループごとに独立した無線や配車サービスではなく、熊本や静岡でも始まっているような複数企業の共同配車があれば、何社も連絡することなくスムーズに配車されたかもしれない。共同配車は連絡した1社が配車できない場合に、他社に連絡される仕組みであり、需要に対してエリアの偏りなどが度々生じるような地域には有効な解決策ではないだろうか? 事実、ドイツのメルセデス&BMWが立ち上げた共同運営、共同配車するFreeNow(フリーナウ)は、今や欧州を中心に急成長し、登録するドライバーは130万人を超え、16カ国、170都市でサービスを拡大している(写真はパリの案内板、筆者撮影)。欧州の競合がひしめく熾烈(しれつ)な競争に勝ち抜きつつあり、競争から共創の新たなタクシービジネスとして参考となる取り組みだ。

 イベントや観光地においてタクシーが不足している地域では、他地域のドライバーなどが応援配車できれば、年間の特定期間でのみ生じるようなピーク時の供給不足は、今よりは緩和するかもしれない。また、航空産業では一般的なピーク時などは運賃を高くし、需要を分散するダイナミックプライシングも効果的だ。歩合制の運転手の給与アップにも貢献するだろう。さらには、兵庫県・城崎温泉のように、各旅館それぞれの車両で送迎していたことをやめ、鉄道到着に合わせ2台の送迎バスで地域として運営するなどの創意工夫もあるだろう。

 交通空白地域などの移動問題への対策を考えた場合、営利型ライドシェア(ライドヘイリング)は有効だろうか? そもそも需要が乏しい地域であるが故に、そのような地域に運転手として稼ぎたい人がどれほどいるだろうか? フランス政府のように政府保証でカープーリングなどの相乗りで移動困難者を支援した方が現実的ではないだろうか。フランスでは、スマホでマイカー通勤者と移動が必要な人をデジタルでマッチングし、通勤者には1回1~2ユーロ、少額の報酬が政府から支援される仕組みを2021年から法改正して導入した。5年間で1億5千万ユーロ(約240億円)を投資する事業であり、スタートしてから2年半が過ぎ、600万回の移動実績があり、昨年よりも50%以上利用者が増加しているそうだ。

2023年10月の相乗りの利用動向(フランス政府)

 日本の場合には、地方自治体と企業が協力し、マイカー通勤が許可されている従業員の社会貢献活動として、朝夕などの移動を支援するとともに、従業員の運行管理を地元タクシー会社などが担えば、運転手も利用者も安心だろう。また、地域によっては、バスとタクシーを一体とした運営も検討の余地は十分あるのではないだろうか。

官民一体で支援を

 いずれにしても、タクシー不足の原因である労働環境や給与水準が営利型ライドシェアの導入で改善されるとは、にわかには信じがたい。運転手不足改善のためには、個人タクシー免許取得のための条件緩和(例えば無事故無違反10年を5年に短縮したり、35歳以上の年齢制限の引き下げ、供給台数制限の緩和など)、女性就労のための労働環境整備支援、時短勤務や副業の支援、運転免許取得支援、運転手の募集活動の支援、ダイナミックプライシング政策の導入、営業所の再編支援や社宅などの支援など、民間だけではなく、官民一体となり取り組むことが、喫緊の政策課題だ。

 米中のプラットフォーマーが目指しているような、自動車保有に依存しない新たな移動社会やライフスタイルを実現していく覚悟が政治家の皆さんにあるのか。そもそも、日本企業が営利目的のライドシェアのプラットフォームに参入できるのか。欧米や中国企業と戦えるのか。その見通しと勝算はあるのか。責任ある言動が一層求められるのではないだろうか。

計量計画研究所 理事 牧村 和彦(まきむら・かずひこ) 1966年生まれ、愛知県出身。モビリティーデザイナー。都市・交通のシンクタンク「一般財団法人計量計画研究所」に90年入所、現在は理事兼研究本部企画戦略部長。東京大学博士(工学)。筑波大学客員教授、神戸大学客員教授。内閣官房をはじめ政府の委員を歴任。代表的な著書「MaaSが都市を変える 移動×都市DXの最前線」(学芸出版社)で22年不動産協会賞受賞。

(Kyodo Weekly 2023年12月4日号より転載)

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