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パレスチナの少女が訴える不公平 【水谷竹秀✕リアルワールド】

 イスラエルによるパレスチナ自治区ガザ空爆で破壊された建物の周辺は、がれきが散乱し土ぼこりが舞っている。その光景を指さしながら、少女が流暢(りゅうちょう)な英語で必死に訴えかけている。

 「これを見てください。どうやって修復するの? 私はまだ10歳よ。この状況で何をしていいのか分からない」

 彼女の頬に大粒の涙が伝う。「私は将来、医者になって人々を助けたいの。でもできない。両親は、私たちがイスラム教徒だからこんな目に遭わされたと言った。アンフェア(不公平)だよ!」

 少女の名は、ナディン・アブドゥラティフさん(写真、本人のインスタグラムより)。ガザで2021年5月、イスラエル軍とイスラム組織ハマスが激しい軍事衝突を起こし、その現場でメディアの取材に応じた時の映像だ。ナディンさんの自宅近くも攻撃され、子ども8人と女性2人が死亡したと伝えていた。

リアルワールド

 あれから約2年半がたち、双方による激しい戦闘が再開し、ナディンさんはまた苦境に立たされた。ハマスによる攻撃が始まった直後の今年10月8日、ナディンさんはインスタグラムに動画をアップした。自宅の窓から外を撮影した映像で、青い空にはミサイルの白い煙がゆらめいていた。

 「空を飛んでいる鳥や周りの木々もミサイルを恐れています。私たちはこの苦しみを世界に伝えなければならない」

 そんな説明をしていると、耳をつんざくような1発の轟(ごう)音が鳴り響いた。ナディンさんは続けた。

 「今の音を聞きましたか? 怖くて泣きそうです・・・」

 私はナディンさんに通信アプリを使って取材を申し込むと、快諾してくれた。ただ、戦時中でネット環境が悪く、電話取材が難しいので、質問を送ってほしいと伝えてきた。私は彼女の置かれた状況を中心に、いくつか尋ねた。回答が届いたのは10月19日で、約1分のボイスメッセージを7回に分けて送ってくれた。

 ナディンさんは、両親と8歳の弟、そして親戚と自宅で避難生活を送っていた。

 「今は電気も水もなく、食べ物や野菜は腐ってしまいました。食べ物があっても食べられません。それは恐怖で吐いてしまうからです。こんな状況でどうやって生きていけばいいでしょうか」

 続けて、こう語気を強めた。

 「将来のことも考えられない。このまま死んでしまうかも。いや、『死ぬ』ではなく、殺されるの。それは不公平だ!」

 彼女が度々、口にする「不公平」という言葉には、どんな意味が込められているのか。

 「私たちは平等に扱われていません。皆さんと同じ将来を夢見たり、同じプレゼントを手にしたりすることができません。私は動物やゴミではなく、ひとりの人間です。学校に行ったり旅行したり、薬を手にする権利もあります。それができないから不公平なのです」

 後日、ナディンさんに再び連絡を取ろうと、メッセージを送ったが、一向に既読にならない。電話にも出ない。最新情報は、インスタグラムに11月27日にアップされた動画だ。一家でガザ地区南部に避難したようだ。いつまで不公平な状況は続くのだろうか。

【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No. 50からの転載】

 

水谷竹秀(みずたに・たけひで)/ ノンフィクションライター。1975年生まれ。上智大学外国語学部卒。2011年、「日本を捨てた男たち」で第9回開高健ノンフィクション賞を受賞。10年超のフィリピン滞在歴をもとに「アジアと日本人」について、また事件を含めた現代の世相に関しても幅広く取材。

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