KK KYODO NEWS SITE

ニュースサイト
コーポレートサイト
search icon
search icon

大学医学部定員増で揺れる韓国 【平井久志×リアルワールド】

 韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権は2025年から大学医学部の定員を1千人以上増やすことを検討している。これに対し、大韓医師協会などは強く反対しており、韓国社会が揺れている。

Doctor with crossed arms on South Korean flag. Medical health and care on South Korean flag. Doctor with stethoscope on South Korean flag

 経済協力開発機構(OECD)によると、2018年現在で、韓国の人口1千人当たりの医師数(漢方医を含め)は2・39人で、OECD平均の3・49人を下回っている。ちなみに日本は2・49人で、韓国よりは高いがこれも平均以下だ。

 韓国では全国の医学部の総入学定員が06年に3058人になってから18年間にわたって固定化され、増えていない。

 実は20年に当時の文在寅(ムン・ジェイン)前政権でも、10年間に4千人定員を増やすとの方針を示したが、大韓医師協会は「医師は足りている」と反対し、コロナ禍でストライキを打った。文政権はコロナ禍を乗り越えることを優先し、定員増は実現しなかった。

 しかし、韓国社会の今後の高齢化などを考えれば医師不足になるとの見方が強い。韓国保健社会研究院は35年には2万7232人の医師が不足すると推定している。

 韓国政府は医学部のある各大学にどれくらい定員増が可能か調査中だが、韓国メディアによれば、各大学の回答を集計すれば2千人以上の定員増は可能だという。

 しかし、大韓医師協会は「政府が一方的に定員増を強行すればあらゆる手段を動員して強力に闘う」とし「2020年のストより不幸な事態になる」と全面抗戦の構えだ。

 韓国の医療界の抱える問題の第一は地域格差だ。保健福祉省によると、ソウルの医師数は人口1千人当たり3・47人だが、京畿道は1・76人、慶尚北道は1・39人だ。

 第二の問題は、必須医療科目の医師をどう確保するかという問題だ。韓国では長時間労働で責任が大きい内科、外科、産婦人科、小児科といった必須診療科目の志願者数が減少し、勤務時間が比較的予想可能で、収入が多い皮膚科、眼科、整形外科といった科目が人気を集めている。最近は美容整形などの人気が高い。産婦人科などは少子化で収入が減り、医療事故などのリスクを恐れて希望者が減っているという。これを考えれば、必要なのは医師の数ではなく、医師の配分だという主張もそれなりに意味がある。

 韓国でも日本の自治医大のように一定期間、地方での勤務を義務付ける国公立医大の新設や、ソウル以外の医学部で地元高校生の定員枠を別途設けることなどの提案が出ている。

 また、この動きを注視しているのは医療界だけではない。「入試戦線」に臨む受験生や予備校など受験産業の関心も高い。3千人の医学部枠が4千人に拡大されれば、受験戦線に大きな変化が生まれるのは必至だ。

 理系進学希望者の中で医学部志望者が増えており、予備校関係者は、一挙に医学部の定員が1千人増えれば医学部合格のハードルが下がり、延世大学や高麗大学の理系学部に合格する力があれば、ほぼ医学部に合格すると予測している。医学部に人材が集中し、他の理系分野の人材確保に弊害が出るという見方もある。

 定員増を25年に実施するためには、保健福祉省が具体的な規模を確定し、24年4月までに教育省に通知し、教育省は各大学の定員増の配分をどうするのか早急に決めなくてはならない。大韓医師協会との協議、説得や、非首都圏への医師配置、必須医療科目への医師確保などを総合的に対応しなければならないだけに課題は山積だ。

【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No. 48からの転載】

日本でも? プロポーズイベント 【平井久志✕リアルワールド】 画像2

平井久志(ひらい・ひさし)/共同通信客員論説委員。2002年、瀋陽事件報道で新聞協会賞、朝鮮問題報道でボーン・上田賞を受賞。著書に「ソウル打令 反日と嫌韓の谷間で」(徳間文庫)、「北朝鮮の指導体制と後継 金正日から金正恩へ」(岩波現代文庫)など。

 

編集部からのお知らせ

新着情報

あわせて読みたい