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戦争で生き延びた市民の未来 【サヘル・ローズ×リアルワールド】

「生きている」ということは、このご時世で実は奇跡といってもいいのかもしれない。重たいな、大げさだな、ともし今思った方がいたら、私はうらやましいです。世界中で起きている戦争、内戦、テロ。果たして、遠い国々で起きていることなのでしょうか?

 日本国内でも経済不安からか、悲しいニュースがとても多くなったように思います。無理心中、無差別殺傷事件、強盗・・・。治安が悪くなった背景には何があるのでしょうか? 外国人が増えたから」という言葉を何度も目にしました。耳にしました。容疑者が日本人か外国人か、という差は大きい。犯罪を正当化したいわけではもちろんない。罰を受けて罪を償うことは当たり前。ただ、懸念しているのは「悪者」をつくっていく世の中の流れは本当にこのままでいいのか? 自分の正義を押し付けた先に起きることは「争いの火種」でしかなく、正義という皮を剝ぎ取ったら、悪でしかない。日本国内に限らず、世界中の問題。それぞれの国の利権によって代理戦争は起きていく。その駒になった国々と、その狭間(はざま)で立場上、加担することしかできない国々。個人的な解釈でごめんなさい。間違っているとは思いますが、俯瞰(ふかん)で今この世界を見た時、二つに分断されただけではなく、3分割にされてきているように感じています。

 どの立場でも分かることは一つで、「板挟みになっているのは市民であるアナタ」ということです。報道で知る以上に戦争は残酷です。生き延びた人々の姿を映すことはそうないと思います。生き延びた方の置かれている状況を少し話しましょう。

 今年4月に支援活動でイラクへ行ってきました。難民キャンプには戦禍を生き延びたシリアの人々がいます。「癌(がん)を発症した。治療薬を買うお金がない」と私に涙を流しながら語り出したお父さん。「お金が欲しいんじゃない。私たちは国家にとってゴミも同然。ただ、私の子どもたちには罪はない。戦争で世界のお金持ちになったセレブたちに、忘れ去られたこの声を届けてくれ」と訴えていました。癌は、戦争が起きなかったとしても発症していたかもしれません。ただ、爆薬によって少なからず白血病やさまざまな病気が年月を経て、逃げた人々をむしばんでいきます。

 そしてもう1人、シリアの農場まで出稼ぎに来ていたお父さん。爆撃はなかったものの、その一帯は以前から争いが絶えませんでした。耕作の休憩時に腰をかけようと大きな石をずらした瞬間、爆発が起きました。過激派によって爆弾が置かれていたのです。一命は取り留めたものの、両目と脚を失いました。働くこともできない彼は家族と祖国を追い出され、たどり着いた先がイラクの難民キャンプ。自らのまぶたを引っ張り、目の中を見せようとした時、私は思わず視線をそらしてしまいました。沈黙するしかなかったのです。彼はもう二度と、家族、世界を見ることができません。「未来はどんな表情をしていますか?」と聞かれましたが、私は答えられませんでした。

【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No. 47からの転載】

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サヘル・ローズ/俳優・タレント・人権活動家。1985年イラン生まれ。幼少時代は孤児院で生活し、8歳で養母とともに来日。2020年にアメリカで国際人権活動家賞を受賞。

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