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退避邦人輸送、韓国との「格差」 【水谷竹秀✕リアルワールド】

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 イスラエルとパレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスの軍事衝突を受け、イスラエル在留邦人に対する日本政府の退避支援がネット上で非難された。

 きっかけは10月13日、日本政府が在留邦人に送った1本のメールだった。その内容によると、政府は翌14日に、テルアビブ発、アラブ首長国連邦ドバイ行きの民間航空機をチャーターしたが、搭乗者1人につき運賃約3万円を請求し、ドバイからの出国やそれまでのホテル宿泊費も自己負担とした。

 これにはイスラエル在留邦人たちから、落胆の声が相次いだ。ガザ付近に住んでいた30代の日本人女性は、私のオンライン取材にこう答えた。

 「イスラエルにいる日本人たちは困惑しています。なぜこの期に及んで、(パレスチナを支持する)アラブ諸国のドバイが行き先なのか。そこまでのチャーター機さえも自己負担で、そこからは自分で帰ってくださいと。私のように小さい子どもを抱えて退避する人もいるのに、ちょっとひどい対応です」

 この女性は、ハマスの攻撃が始まった10月上旬、イスラエル人の夫と子ども2人とともに命からがらテルアビブの北部へ車で避難した。戦況は日を追うごとに悪化しているが、日本に帰国すれば、夫とは離れ離れになる。いつ戻って来られるかも分からず、退避するかどうかで悩んでいた。そんな最中に日本政府からメールが届いた。しかも韓国政府は、軍の輸送機を使って無償で韓国まで輸送すると発表。これに日本人51人が同乗したことで、日本政府の対応との「格差」が明らかになり、非難につながったのだ。

 これに対して松野博一官房長官は定例会見で、日本政府の対応は「適切だった」と述べた上で、その理由をこう説明した。

 「定期商用便を利用して出国した邦人も多くいることを踏まえ、3万円の運賃負担をいただくことにした。自国民の出国を支援する方法はさまざまで、一概に決まったやり方はない。チャーター機を手配する米国や英国は一定の費用負担を求める方針と承知している」

 各国の報道によると、英国は搭乗者に300ポンド(約5万4千円)、ドイツは300ユーロ(約4万7千円)の負担を求めた。カナダは軍用機と商用機の双方が向かい、軍用機は無償。スペインも軍用機を手配しており、各国とも軍用機以外、一定額の負担は求めている。

 日本政府はその後、自衛隊機を派遣し、邦人60人と韓国人18人など合わせて83人を羽田空港まで無償で運んだ。

 前述の日本人女性は韓国軍による輸送を願ったが、先着順に漏れてしまった。このためテルアビブから日本までの便を自分で手配し、子ども2人と合わせて3人で総額約45万円を負担した。自衛隊機派遣の知らせは、帰国後に届いた。〝無償組〟に比べると不公平感は出てしまうが、危険と隣り合わせの状況では、背に腹は変えられない。そして今はイスラエルに残る夫のことが心配だ。
 「毎日、何事もないように祈ることしかできないです」

【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No. 45からの転載】

フィリピン、邦人社会の変遷  【水谷竹秀✕リアルワールド】 画像2

 

水谷竹秀(みずたに・たけひで)/ ノンフィクションライター。1975年生まれ。上智大学外国語学部卒。2011年、「日本を捨てた男たち」で第9回開高健ノンフィクション賞を受賞。10年超のフィリピン滞在歴をもとに「アジアと日本人」について、また事件を含めた現代の世相に関しても幅広く取材。

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