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日本でも? プロポーズイベント 【平井久志✕リアルワールド】

 ソウル特派員をしていた時の韓国人の知人から、娘さんが結婚を決めたという話を聞いた。娘さんも幼稚園の頃から知っており、ずっと成長を見守って来た。そこで「ところで『アレ』はやったの?」と聞くと、「やった」という。

 「アレ」というのは、プロポーズイベントのことだ。韓国では最近、若者の間で結婚を決めると、高級ホテルなどで男性が「marry me」と正式にプロポーズする儀式をやるのが、はやっているようだ。その様子をSNSなどに挙げて、みんなに結婚決定を知らせるという。

 実は、韓国でこのプロポーズイベントが急に話題になったのは、米紙ウォールストリート・ジャーナルの報道のせいだった。同紙は今年6月に1面で「結婚前に高価な障害物:4500ドル(約60万円)の華やかなプロポーズ」と題した記事を掲載した。1日の宿泊費が100万ウォン(約11万円)を超える高級ホテルで、ブランド品の贈り物などをしてプロポーズをするのが最近流行していると報じた。そして「韓国の結婚率が史上最低水準まで落ちているのに、費用がかかる派手なホテルプロポーズは結婚率を上げるのに役立たず、カップルに負担を与える」と指摘している。

 多くの韓国メディアは、この報道を転電し、韓国の結婚文化の在り方を問いかける記事を報じた。
 筆者の知人の娘さんの場合はこうだった。相手の男性が娘さんとホテルで食事をする約束をした。彼は娘さんの弟に協力を頼み、借りた部屋をプロポーズ用に飾り付けをして、食事後に彼女を連れて行き、サプライズでプロポーズイベントをしたという。

韓国内のホテルでのプロポーズイベント(筆者提供)
韓国内のホテルでのプロポーズイベント(筆者提供)

 韓国のインターネットサイトで「ホテル プロポーズ」と検索してみると、一流ホテルがさまざまなプロポーズパッケージの商品を出していた。

 こうした流行は、富裕層の虚飾という批判がある一方で、別の理由もあるという。最近の不動産価格の高騰でソウルのマンション価格は東京より高くなっている。ホテルなどでの豪華結婚式も、新居も期待できないので、せめてプロポーズだけでも思い出に残るものにしたいという若者も多いというのだ。

 筆者は韓国の結婚式文化にも原因があるように思う。韓国で最も一般的な、結婚式場での結婚式はだいたい20~30分で終わるあっけないものだ。さらに式後の食事会は双方共にではなく、新郎、新婦別々にやる。結婚式の費用は、大体は親が負担し、参列者のお祝い金も親のところへ行く。結婚式が思い出に残るようなものではないので、当事者たちが何か思い出に残ることをしたいのだと感じる。

 だが、プロポーズイベントに対しては、世代間、男女間、階層間で意見が異なりそうだ。多くの若者は、そういうセレモニーもできない厳しい現実の中で生きているのではないか。こういうイベントの流行は、できる者と、できない者の溝をさらに大きくしないか心配だ。

 そんなことを日本の若者に話したら「何を言っているのですか? 日本でも、富裕層の人は似たようなことをやってますよ」と言われた。本当だろうか?

【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No. 43からの転載】

平井久志

平井久志(ひらい・ひさし)/共同通信客員論説委員。2002年、瀋陽事件報道で新聞協会賞、朝鮮問題報道でボーン・上田賞を受賞。著書に「ソウル打令 反日と嫌韓の谷間で」(徳間文庫)、「北朝鮮の指導体制と後継 金正日から金正恩へ」(岩波現代文庫)など。

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