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「止まっている日本」へ声上げよう 【サヘル・ローズ×リアルワールド】

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 私は子どもの頃から褒められると、それまでできていたことができなくなる「褒められるとダメになるタイプ」です。そもそも不器用すぎてほとんどうまくできないので、褒められることすら少ないのが救いです(笑) 。「できない=サボっている」ならバカヤロー者ですが、「努力はしている=それでも、できない」こともあると解釈し、褒められることは向上するための修行と捉えるようにしています。ですが、これはフリーランスだから許される考え方。企業に勤めていたら1週間で解雇されるかもしれません。

 知り合いの正社員、派遣社員はいずれも「生きるってこんなに大変なの?」「どこにも居場所がない」「意見を言いづらい世の中だ」と口をそろえています。ふと思い返すと、希望しかなかった子どもの頃とは確実に現実は違う。「生きやすさ」とは何かを日々考えています。「幸福度ランキング」なんてありますが、「1位の国」は果たして本当に全国民が幸福だと思えているのか? それは違うと思います。「幸せの感じ方」と「生きやすさ」は個々に異なる。30年前の日本は今より幸せが多く存在していたように感じます。実際に今も外国から見える日本は〝経済大国で人々は豊か、貧しい人はいなくて平等〟に見えている。いや、正確には「見えていた」です。

 私は8歳で来日し、日本の方々に助けてもらいながら生活の基盤を母と共につくってきました。そして「日本基準」で物事を見ていましたが、世界を旅していく中で〝日本が止まっている〟多くのことに気づかされました。「30年以上賃金が上がらない」「高度経済成長期の日本を支えた世代が孤独死していく」「選挙の投票率が低い」「我慢こそが美学」「報道の自由がない」「民衆主義なのに、国民の声が反映されない」「格差が広がっていく」「抗議デモ、ストライキがほぼない」「女性の立場がまだまだ弱い」・・・。書き出したら止まらないので、ここでいったん区切ります。

 「日本は先進国」とだんだん言えなくなってきているかもしれません。こういうことを書くと「反日」と言う方もいますが、そうではない。日本を愛してるし、私の故郷でもあります。気づいていますか? 日本を支えているのは「政治家ではなく、国民であるアナタ」だと。電気代、物価の高騰がここまで加速していたら、他国では今ごろデモが起きています。

 日本では、心の中でそう思っていても「何を食べにいく? どこに遊びにいく?」とギリギリの状況をまだ頑張って過ごせている人がいる一方で、わが子に食べ物も買ってあげられない、家賃も払えない人々が増えています。きらびやかにみえる光の裏側の闇は、少しずつ大きくなっていく。声を上げないのは美学ではないのです。声を上げられる人が今、上げないと、明日はアナタも危ない。国民のための国家になるためには、「声」を出せる社会になってほしいと強く思います。

【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No. 42からの転載】

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サヘル・ローズ/俳優・タレント・人権活動家。1985年イラン生まれ。幼少時代は孤児院で生活し、8歳で養母とともに来日。2020年にアメリカで国際人権活動家賞を受賞。

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