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【はばたけラボ コラム】 「弁当の日」を原点とした、子どもの「生きる力」を育む学校をつくりたい。

 

 未来世代がはばたくために何ができるかを考えるプロジェクト「はばたけラボ」。食ベること、くらすこと、周りと関わること、ワクワクすること・・・。今のくらしや感覚・感性を見直していく連載シリーズ。「ひろがれ弁当の日in宮崎」代表・船ヶ山清史さんが子どもが作る「弁当の日」の活動を通して「学校教育」について考える。

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 私は、『子どもが一人でお弁当を作る「弁当の日」を、地元宮崎で広げたい、社会にうねりを起こしたい』と思い、市民グループ「ひろがれ弁当の日in宮崎実行委員会」を立ち上げ、仲間と共に13年間歩んできた。すてきなご縁が次々とつながり、たくさんのイベントを繰り返してきて、少しは「弁当の日」普及の役割を担えているものと思う。また、提唱者の竹下和男先生をはじめ、全国で「食育」を先導する先生方と出会い、学んだ。それを、実践して「食の大切さ」を実感し、その感動をメッセンジャーとしてたくさんの学校で講演してきた。ここでは、その長年の活動で感じてきた事を書こうと思う。

 学校からの講演依頼は、養護の先生、学校保健委員会や、食育担当の先生からの熱烈な電話から始まる。その中でも養護の先生からの依頼は、必ずと言っていいほど「危機感」を持ったものだ。「児童の日常の食生活が気になる」「体調不良の子が多い」など、子どもたちの身体的な異変を保健室で感じているから「何とかしたい」と学校内で奮闘しているのだ。

 中には、学校長自らが同様の危機感を持ち、『「弁当の日」を盛り上げることで子どもたちをサポートしたい』と熱烈な講演依頼を頂くことも少なくない。とはいえ、これほどの熱意を持ち『子どもの未来のために「弁当の日」を盛り上げましょう』と奮闘している先生は、

 職員室の中でも少数派ではないだろうか。その熱い志を持った少数の先生が、職場全体を動かして「弁当の日」を盛り上げている現状がある。実際、その先生が異動になると、前の学校では盛り上がりが減少し、異動先の学校が盛り上がっていく。それが管理職であればあるほど顕著に表れるように思う。校長先生の熱意一つで、学校のカラーさえも変わることがあるのを見てきた。

 私は「弁当の日」は、学校教育の中で取り組むことを望んでいる。提唱者の竹下先生は、社会を変える活動だと言ってきた。「子どもが変わる」ことから、大人や社会が変わって行くことを願っている。「魚を与えるのではなく、釣りざおを与えよ」という言葉があるように、子どもが自ら人生を生き抜く力を身につける、素晴らしいきっかけになるのだ。

 「弁当の日」実践校数、全国1位を誇る宮崎県。とはいえ、「弁当の日」はコロナ禍で風前のともしびとなった。「弁当の日」どころか給食でさえ、「黙食」「前を向いて」「机を離して」がルールになった。現在、「弁当の日」を再開した学校がどのくらいあるのかは定かではないが、あまり期待できない。「見せっこはしない」「対面では食べない」という実態もありそうだ。だからといって、『今こそ「弁当の日」を!』と大きな声をあげることはできない。なぜなら、学校現場が悲鳴をあげていることを「弁当の日」を推進しながら見てきたからだ。もちろん『だからこそ今、「弁当の日」をやりたいので力を貸してください』と声を上げてくれるならば、その学校を全力で応援したい。そして再び「弁当の日」が広がってほしいと思っている。

 「弁当の日」が、香川県の滝宮小学校で産声を上げた2001年から、学校の様相は少しずつ変化してきたように思う。2007年に始まった全国学力調査を皮切りに、学力信仰が加熱していく。2011年「脱ゆとり教育」として学習指導要領が激変。小学校の教科に英語などが加わっていった。そして2020年、「生きる力」を軸とした新学習指導要領がスタート。同じタイミングで「コロナ禍」が始まった。使い慣れないICT機材、コロナ感染の子どもや保護者の対応、変化したスタイルが教員の肩にのしかかった。

 そして今、管理職には先生たちの「働き方改革」が大仕事となっている。仕事量は増えているのに、厳しく残業を管理される。先生の離職、休職も増えていると聞く。そして、そんな現場を察してか、教員を目指す学生も減っているらしい。学校現場は職員数不足が恒常化しているようだ。そして、何といっても、子どもたちも不登校という形で「学校はおかしい」と訴えているのだと思う。その数、全国で24万人超。

 学校教育は何のためにあるのだろうか? 学校教育は「子どもたち」を「先生」を「保護者」を幸せにしているのだろうか? 教育に対する疑問を考えさせられたコロナ禍であった。

 そんな心境の中で、昨年、映画『夢みる小学校』(オオタ ヴィン監督)を見た。心が震えた。今まで食の活動を通して感じていた教育に対するさまざまな疑問や理想、そして、今まで培ってきた実績や体験のバラバラだった点が一つの線になったと感じた。その線の先で、「新しい学校」を作りたいと思った。

 私は今、新たな仲間とともに「宮崎に新しい学校をつくろう!」という活動をしている。市民活動として発足し、1年が経過した。目標は、一条校(学校教育法第1条に掲げられている教育施設)としての私立小学校を作ること。本質的な学びがあり、「弁当の日」を原点とした、子どもの「生きる力」を育む学校をつくりたい。プランと熱意はある。しかし、資金と場所が思うようにいかない。当然想定内だ。諦めず小さな一歩を出し続けること、学び続ける自分、仲間の力があれば夢はかなうと信じている。

新しい学校を作るための会議でアイデアを出し合った模造紙
新しい学校を作るための会議でアイデアを出し合った模造紙

 船ヶ山清史(ふなやま・きよふみ)
 1975年、宮崎県生まれ。うどん茶房ふなや経営。食育市民活動団体「ひろがれ弁当の日in宮崎」代表。「ひなた教育実践工房」代表。学校を中心に講演活動を行い、「弁当の日」が育む子育ての素晴らしさや子どもの成長の喜びを伝えている。

 #はばたけラボは、日々のくらしを通じて未来世代のはばたきを応援するプロジェクトです。誰もが幸せな100年未来をともに創りあげるために、食をはじめとした「くらし」を見つめ直す機会や、くらしの中に夢中になれる楽しさ、ワクワク感を実感できる体験を提供します。そのために、パートナー企業であるキッコーマン、クリナップ、クレハ、信州ハム、住友生命保険、全国農業協同組合連合会、日清オイリオグループ、雪印メグミルク、アートネイチャー、東京農業大学、グリーン・シップ、ヤンマーホールディングス、ハイセンスジャパンとともにさまざまな活動を行っています。

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