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「特集」  国会〝通信簿〟 自公政権占う防衛財源確保 増税の布石か

政治ジャーナリスト
宮崎信行

 6月21日に幕を下ろした第211回通常国会。「放送法解釈を巡る官邸横やり公文書」問題で、当時総務相だった高市早苗氏が「捏造(ねつぞう)でなければ辞任する」とタンカを切った参院予算委も最後は尻すぼみに終わった。終始与党ペースで、過去に例がないほどの議論が低調な通常国会だったと断じていい。

 通常国会の通信簿を付けるという過分な役回りをお引き受けしたので、時系列は気にせず、この5カ月間で制定された法律で、次の選挙に向けて押さえるべきポイントを、独自の視点で読者に提供したい。

 低調だった理由は簡単で、衆院、参院とも自民党と公明党の連立政権が過半数の議席を獲得し、改選任期も長い「黄金の3年間」だからだ。それでいて、自民党政権として、平和安全法制、労働者派遣法、特定秘密保護法などの懸案は片付いており、やることがない凪(なぎ)にいる。

与党内混乱、白ける官僚

 「重要広範議案」という言葉がある。通常国会で4本を与野党国対が指定している。「重広」になると首相は衆参の本会議、委員会で質疑に臨まねばならない。例年と違い、所得税法改正案と地方税法改正案が重広に指定されなかった。代わりに、野党の要求を受けて「防衛財源確保法案」「原発60年超ルール法案」「感染症法改正案」「健康保険法改正案」を重広指定した。「防衛財源確保法(我が国の防衛力の抜本的な強化等のために必要な財源の確保に関する特別措置法)」審議の前裁きで、今国会では異例であった。

 2月3日に国会に提出。提出順により議案番号は「閣法1号」となった。衆院での審議入りは4月6日。成立は6月16日と130日以上の超スローペース審議となった。参考人質疑、地方公聴会、連合審査会を組み合わせて、長時間審議して、野党は「成立を許してしまった」という風情だ。

 だが、この法律は今後の自公政権を占うことになると思う。昨年末の「5年で43兆円」の安全保障3文書の閣議決定を踏まえ、「防衛力強化資金」を一般会計につくり10年間、防衛財源の確保が必要だと規定。まず本年度は外国為替特別会計から3兆1千億円を取り崩すとした法改正をした。が、来年度以降の具体策は何も示されていない。当然、向こう4年間から9年間、毎年3兆円の捻出を迫られることになる。官邸が押し切れば、財務省が外為特会から3兆円ずつ取り崩すことは可能だろう。歴代政権同様に、財務省が官邸を押し切れば増税となる。全国の接戦区で与党がことごとく落選する未来につながりかねない。

 こども予算では与党内が混乱した。1月25日の衆院本会議で茂木敏充自民党幹事長は「児童手当については、全ての子どもの育ちを支えるという観点から、所得制限を撤廃するべきだと考えています」と語った。官邸と調整済みでの発言だと議場にいた自民議員も考えただろう。しかし、この提案を首相が認めたのは、6月の「こども未来戦略方針」の閣議決定が初めてだ。衆院予算委初日では、自民党の質疑者トップバッターの萩生田光一政調会長が、一戸建て空家をデータバンクに登録して子育て世帯に貸し出す政策を提案。ところが、公明党出身の斉藤鉄夫国交相は、所管のUR賃貸住宅で年収が高い人が退去して子育て世帯が入居しやすくなる取り組みを答弁した。国会の冒頭から、与党内で調整できていない姿が露呈した。自公のパイプ役不在とともに、官僚たちの白けムード、調整努力の低下を感じざるを得なかった。

原発60年超、野党間に溝

 胸をなで下ろしたのは経済産業省かもしれない。「GX=グリーントランスフォーメーション」の美名の下に、原発の60年を超えた稼働を可能とする法律が成立した。目的規定は明快だ。これまでは原子力の平和利用のための規制だったが、これからは気候変動対策のために資源エネルギー庁の規制を強める内容だ。世界情勢の流れを読んだ、経産省らしい法案だった。

 「GX移行債」は参院で再修正されるなど難航したが、原発60年超ルールでは東京電力福島第1原発ヘリ視察の残像がいまだに残る菅直人元首相が経産委員として強烈な反対討論をした。「亡くなられた安倍晋三元総理の祖父である岸信介元総理は、東条英機内閣の商工大臣だったときに太平洋戦争開戦の詔勅に署名し、戦後、A級戦犯容疑で逮捕、収監されました。今、原発を推進していこうという趣旨の法律を成立させることは、約80年前にアメリカと戦争をすることに賛成したのと同じぐらい、後になって犯罪だと批判される政治判断」(4月26日)と語った。一つ付け加えると、岸は国内法でも東京裁判でも有罪判決を受けたことはない。菅氏の過激な発言を与野党とも問題視せずにスムーズに成立した。

 西村康稔経産相の成立お礼あいさつ回りでは、国民民主党の控室で電力総連組織内の2参院議員が笑顔で出迎え握手する姿をお互いがSNSでアピールした。防衛増税反対で一致した野党だが、逆に原発60年超ルールではいくら議論しても埋まらない溝を露呈した。原発所在県の野党一本化は難航しそうだ。

入管法を巡る番狂わせ

 私は学生時代からお互いに懇意の衆院議員の事務所で特別通行記章を作ってもらい、衆院内を取材している。国会記者記章と違い、衆参を隔てずに行き来できないが、アクセスできる範囲は同じだ。

 改正入管難民法を巡っては、衆院法務委員会の狭い傍聴席に、ウィシュマ・サンダマリさんの妹2人が常時傍聴していた。「そんなの嘘(うそ)よ」と叫んだ行為は肯定できないが、議員らの修正協議の機運を盛り上げたと思う。4階建ての衆院分館は、かつて「分煙ルーム」があり、そこから与野党協議が始まるとされた時期もある。現在は全面禁煙だが、委員会で審議する理事らが、既に散会した委員会の理事会室を使い、協議している。報道では自民・公明・立憲・維新の4党協議だったが、現場では立憲理事が国民の委員と2人で密談して、4党協議の内容を教えつつ、意見を聞くパターンがあった。ところが、改正入管難民法の修正案の採決で協議に参加した立憲が反対に回る番狂せ。混乱した。詳述はしないが、政党の問題より、担当議員個人の性格もあるかもしれない。

 LGBT理解増進法も、一昨年提出できなかった素案に、法案作成上のミスがあるとの指摘もあったが、岸田首相の「G7広島サミット前に」との指示で、最終的に成立した。成立してしまった以上どうにもならないが、再修正に向けて、担当省庁と国会との協力に期待したい。

子ども予算3兆円も重し

 さて、所得税法改正案と地方税法改正案が重要広範指定されなかったのは異例だとした。理由は年次改正が小ぶりで、「NISA拡充」にとどまったからだ。防衛財源確保法の成立と「こども」閣議決定から、今冬以降、年6兆円の財源確保が岸田政権のノルマとなった。

 筆者の見立てとしては、行政改革も増税もしなくて国債発行などで調達可能だと考える。でも、財務省は「最終的には増税もやむをえない」との結論につなげようとするだろう。法案の細部から思惑が匂い立つ。

 与党は、国会外で8月に概算要求、11月に税制改正を決めることになる。報道合戦となり、当面野党は蚊帳の外になるが、現在の圧倒的な与党優位の議席配分は、他ならぬ有権者の判断だから、向こう3年近くは自民党本部の廊下の映像が多くなるだろう。

秋の臨時国会9月上旬か

 国会は、金融商品取引法改正案に「来年4月1日に施行する」と明記された条文が継続審査となったので、秋の臨時国会での処理が必須となった。このため、9月上旬にも次の国会は始まるとみられる。内閣改造での若手・女性・民間登用での「フレッシュ感」刷新は限界がありそう。野党の国対用語「大臣の首を取る」は、荒井勝喜、岸田翔太郎両前首相秘書官の更迭にとどまった。昨秋は4大臣更迭となっていることから、今秋以降は野党が再び予算委を沸かせて、大臣のスキャンダル追及に明け暮れることも予想される。

 マイナンバーカードの入力の不具合から、来年秋の紙の健康保険証廃止をやめるよう立憲が要求し、閉会中審査をすべきだと要求した。なぜ紙の廃止の延期ができないのか、そこにどんな利権があるのかは議員の多くも分からないが、首相の判断力に疑問が付いている。国政は選挙で急激に変化する兆しを示している。

 政治家女子48党の「暴露系ユーチューバー」ガーシー参院議員の除名、「売国棄民予算の審議で与党も野党も茶番だ」と主張したれいわ新選組の櫛渕万里衆院議員が登院停止となった。懲罰委員会が衆参とも開かれたのは異例。また立憲・小西洋之議員が予算委で「放送法文書」の世論の後押しが止まった後に、憲法審査会筆頭幹事として「サルのやること」と衆院側の毎週開催ペースを批判し、更迭された。

 30年前の政治改革は「普通の言葉の伝わる政治」(羽田孜元首相)が合言葉だった。その際の政党助成法をよく研究して、「NHKをぶっ壊す」の一言で国政2議席を獲得する政党が現れた。ダイナミズムある政治だが、普通の言葉ではない。そこまで政治にかかわる余裕がない有権者が大勢だ。

 私自身は次の選挙を予想することよりも、選挙結果にかかわらず国会傍聴取材が継続できるように専心するだけだ。

政治ジャーナリスト 宮崎信行(みやざき・のぶゆき) 1974年東京生まれ。97年早稲田大学政治経済学部卒業後、日本経済新聞社に入社。政治部で首相番や民主党を担当するなどし2005年退社、家業の「宮崎機械」の経営を引き継ぎ不動産賃貸業も手掛ける。その傍ら、07年からブログ「宮崎信行の国会傍聴記」でインターネット審議中継をまとめた記事を連日更新中。その活動はフジテレビ「百識王」で特集された。

(KyodoWeekly 2023年7月3日号より転載)

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