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「特集」 今すぐできる身の守り方 熊本地震から学んだこと

松永利恵
整理収納コンサルタント

 5月以降、全国で大きな地震が相次いでいます。同月5日に石川県で最大震度6強の揺れが襲い、千葉県で震度5強、鹿児島県で震度5弱を観測しました。この原稿を書いてるまさに今、私が住んでいる熊本市でも震度3の地震が起こりました。あなたのお住まいの地域は大丈夫ですか?

 少しの揺れでも敏感になり、もっと大きな揺れになるかもしれないと身構えるようになったのは、2016年4月に熊本地震に遭ったからです。あの体験は、7年たった今でも思い出すのが怖いです。私の被災経験とともに、大切にしてほしいこと、備えてほしいものなどをこれからお伝えしたいと思います。

命あってこそ

 熊本地震を覚えていますか?

 16年4月14日午後9時26分に前震(最大震度7)、同16日午前1時25分に本震(最大震度7)と、震度7の地震が同じ地域で連続して起こるのは初めてのことでした。

 前震、本震の発生時は自宅にいましたが、立ち上がれないほどの大きな横揺れでした。よく「地震が起きたらテーブルの下に!」と言われますが、実際はその場でうずくまるのが精いっぱい、寝室で寝ている子どもたちに声をかけるので精いっぱい。揺れている時間はものすごく長く感じるので、とにかく生きるのに必死でした。

 その後、震度6強を2回、震度6弱を3回、震度5強を4回、震度5弱を8回、余震として観測しています。これだけ余震が続くと、もっと大きな揺れが来るかも…次は家が倒壊するかも…と疑心暗鬼になるんです。家にいるのが怖くて1週間ほど車中泊をしましたが、心も体も休まりませんでした。

 私の実家は益城町。まさに震度7が2回襲った震源地です。本震後に実家の様子を見に行きましたが、見慣れてるはずの道は私が知ってる光景ではなかったのです。全く知らない国に来たような感じで、道沿いの家がバタバタと倒れている光景に物悲しくなりました。

 実家も「半壊」と診断されましたが、家屋は修理して復旧できます。とにかくみんな無事で何よりでした。

 まずは命。命があればどうにでもなります。大切な人を守ったり、困ってる人を助けたりするのも、自分の命があってこそだと思います。

余震に気を付ける

 熊本地震は今でこそ、前震・本震といわれていますが、前震を経験した誰もがそれが最大だと思っていました。火災が起こったり、九州新幹線が脱線したり、ニュースはひっきりなしに被害の状況を伝えていました。地震で散乱した家の中をすぐに片付けた人も多かったのです。

 前震の際、わが家のテレビは奇跡的に台の下にきれいに着地していました。「壊れなくてよかった。固定ベルトを買ってこないと」と言いながら、テレビを元の場所に戻してしまいました。もっと大きな揺れが襲ってくるとは知る由もなく。
 その後の本震で案の定、テレビは派手に倒れて壊れました。あの時戻してなければ、しっかり固定していれば…。もう後悔しかありませんでした。

 熊本地震の後は必ず「倒れた家具はそのままで」と注意喚起されるようになりました。これはまさに、わが家のテレビのように、次の地震でまた倒れる恐れがあるからです。倒れそうなものは、初めから倒しておいたほうが安心です。

 ただし、普段からしっかり固定しておくことです。やっぱりこれが大前提です。ちなみに、わが家のテレビは現在、台にしっかりネジで固定しています。

一番効果的な備え

 「いま大きな地震がきたとして、あなたはどう避難しますか?」。私は防災セミナーで必ず尋ねます。

 「とにかく高台に走って逃げる」「防災リュックを背負って避難する」「家族の安否を確認して迎えに行く」…。それぞれ思い描く行動があると思います。でも実は「分かりません」と答える方も多いのです。

 確かにいきなり「避難して!」と言われても、どこに? 避難ルートは? 何を持って? と普段から考えていなければすぐには思い浮かびません。

 そのため、普段からハザードマップを見てシミュレーションしておくことが重要です。それだけでも「備え」になります。しかも、今すぐ無料でスマホひとつで知ることができ、一番効果的な備えといえます。

 災害時にとっさにできる避難行動は、普段の備えや訓練があってこそです。

就寝中は無防備

 阪神淡路大震災(1995年)、新潟中越地震(2004年)、熊本地震のような直下型地震の犠牲者のほとんどは、家屋の倒壊と家具の転倒が原因でした。特に、寝ている時間は無防備です。家具が倒れてきたとしても、逃げられません。まずはそれを防ぐために、家を安全にしてほしいのです。

 家屋の倒壊については、耐震基準や築年数にもよるので、すぐに対策するのは難しいものですが、家財道具をあらかじめ移しておくことはできます。

 普段寝ている場所を見渡してみてください。布団側に倒れそうな家具や、上から落下してきそうなものはありませんか? ぜひ今すぐ移動して、安全対策を取ってほしいと思います。それだけで助かる命がいっぱいあります。

 整理収納コンサルタントとしては、普段から片付けていてほしいというのが本音ですが…。

 というのも、家じゅうの物を片付けると、そもそも家具や収納用品が不要になるのです。家が片付くと、けがをしない。 逃げやすい。 必要な物を探しやすい。 地震対策には効果絶大です。

 安全対策はやりすぎるということはないので、固定ベルト、耐震ポール、耐震ジェルなど、追加できるものはどんどん追加してほしいと思います。わが家のテレビのように、大事なものが壊れると精神的ダメージが大きいです。地震だけでもショックなのに、物が壊れるショックまで増やしたくないものです。

自分の物は自分で

 災害後は避難生活が待っています。
 最低1週間は自力で生活できるよう備えるように、と言われています。

 ひと昔前までは3日分だったのですが、これだけ災害が多いと支援物資に頼ってもいられません。そもそも首都直下型地震や南海トラフ地震などの大規模災害が起きれば、支援物資が届く保証はありません。被災者が多いので圧倒的に足りなくなるとも言われています。ご近所さんと食料の取り合いなど、避けたいものです。

 そのために「自分のものは自分で備える」。この考えにアップデートしましょう。
 最低でも次の三つは備えておいてください。
 ①食べ物、水(1日1人3リットル)
 ②ライフラインの代替品(ガス・水道・電気)
 ③子ども、高齢者、ペットなどに必要なもの(ミルク、おむつ、薬、えさなど)
 「そんなに置き場はない」という声が聞こえてきそうです。それこそ「片付け」と申し上げたいです。

水害にも注意を

 これまで地震の話をしてきましたが、これからの時期は水害にも注意しないといけません。「50年に1度の大雨」や「線状降水帯」が毎年やってくる異常な時代です。今年も6月に入り、四国から近畿、東海にかけて広い範囲で線状降水帯が発生し、記録的な大雨をもたらしました。ただ、水害は地震と違って、ある程度予測ができます。事前に避難できるので、人的被害は減らせます。

 これもハザードマップを確認しておくこと。「警戒レベル」をこまめにチェックすること。そして「レベル4」になる前に避難することです。とにかく逃げ遅れないよう、早め早めの行動が重要です。

 間違っても近所の川の様子は見に行ってはいけません。今はネットでチェックすることができますから。

これからの防災とは

 「防災グッズと非常食が大事です」と伝えても、ハードルが高いのも事実です。「分かってはいるけど…」という声を多く聞いてきました。とはいえ、これだけ災害が多いと、そんなことも言っていられません。

 防災グッズを「非常時にしか使わない特別なもの」と考えると、購入のハードルが上がってしまいます。そこで私がお伝えしているのは「普段も非常時も使える(食べられる)ものを備えましょう」ということです。

 例えば、デスクライト一つにしても、コードレスタイプなら停電してもそのまま非常用ライトとして使えますよね。わざわざ棚の中の懐中電灯を探さなくていいわけです。

 普段使ってるものだと、故障や電池切れにも気づきやすいし、いいことだらけです。最近よく耳にする「ローリングストック(多めに買って備えながら使うこと)」もそうです。

 これからの防災は日常と非常時の境界をなくして、いかに無理をせず備えられるかがポイントになってくると思います。

 それを1人でも多くの人に実践してもらうために、私はブログ(https://ryouhinseikatu.com)、インスタグラム@mujikko_rie(https://www.instagram.com/mujikko_rie)、コラム、書籍などで発信を続けていますので、ご覧いただければ幸いです。

 これは実際に私の元に届いたメールなのですが、「りえさんのインスタを参考に防災リュックを準備したら、先日の地震でスムーズに持って避難できました」という感謝の声をいただきました。

 私の経験が誰かの役に立つなら、どんどん伝えていきたいと思っています。

 自然災害は減らせませんが、被害は事前の備えで減らせます。拙稿を読んでいただいた方が、備えることで安心を手に入れますよう願っています。

整理収納コンサルタント 松永 利恵(まつなが・りえ)/1983年熊本県生まれ。熊本大学卒業後、診療放射線技師として勤務。出産・育児を機に整理収納コンサルタントとして独立。2016年の熊本地震で被災し「快適な暮らしは安全の上にこそ成り立つ」と実感。防災士などの資格も取得し、10年以上綴っているブログ「良品生活」は月間最高150万ページビューを記録、インスタグラムのフォロワーは現在7万人を超える

(KyodoWeekly 2023年6月12日号より転載)

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