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【はばたけラボ インタビュー 先輩に聞く】 お母さんのご飯で人類をハッピーに/神戸アジアン食堂バルSALA 奥尚子さん

神戸アジアン食堂バルSALAの奥尚子さん

 未来世代がはばたくために何ができるかを考えるプロジェクト「はばたけラボ」。食べること、くらすこと、周りと関わること、ワクワクすること・・・。今のくらしや感覚・感性を見直していく連載シリーズ。

 

 兵庫県神戸市で、アジア人の主婦が日替わりで自慢のお国料理を提供する「神戸アジアン食堂バル SALA」を切り盛りする奥尚子(おく・なおこ)さん。日本に住む外国人が増え続けるなか、食を通じて、国境を超え人類全てがハッピーになれる社会をつくろうと奮闘する。これまでの歩みや今の思い、夢を聞いた。

■見過ごされていた社会問題

――SALAで働くアジアの女性たちと出会った大学時代。何を学び、どんな経験をしましたか。

 大学進学を決める頃は「夢がない」状態。でも、美術が好きでした。物をつくる、絵を描くことに通じるのは、何かをゼロからつくることかなと考えていたら、当時新設された関西学院大学の人間福祉学部社会起業学科に目が留まりました。社会問題をビジネスとして解決することを学ぶ学科です。進学後は、周りにこんなに多くの社会問題があるのかと驚きながら、現場に足を運びました。大阪の釜ヶ崎にホームレスの方を訪ね、段ボールの家で一緒に床に寝てみたことも。その他にもいろいろな場を訪ねるうちに、国際結婚したアジア人のお母さんたちが、日本で深刻な孤独や困りごとを抱えていると知りました。お母さんたちの問題は、“問題”として大きくカテゴライズされることもなく、彼女らに会わなければ、自分も認識できなかったかもしれない。見過ごされ、目を向けられていませんでした。

――アジア人のお母さんたちの問題について、教えてください。

 お母さんたちは日本人と国際結婚して来日していますが、あまり外に出ず、家にこもっています。留学生のように日本語を勉強しているわけでなく、結婚したから日本に住み始めたので、まず識字ができない。片言の日本語で旦那さんとは話せますが、友達をつくる方法、病院を探す方法すら分からないことも。なかには、家族に監視、束縛されて「外に出るな」と言われている人もいます。そんな女性たちが生活の相談に行く、大阪のNGOを訪ねたのが出会いのきっかけです。

 自分がもし全然違う場所に行って、孤立してしまったら? 自分なら嫌だということと共に、困っている人がいる事実を知らない自分、取り残される人に知らない顔をする社会の雰囲気が気持ち悪いなと思い、自分にできることは何かと考えました。

取材時、厨房ではSALA10年目となる台湾出身の游(ゆう)さん(右)がディナーの仕込みを行っていた

――お母さんに料理をつくってもらうアイデアはどう生まれたのでしょう。

 仲良くなり、いろんな話をするようになった頃、お母さんたちが自国料理のお弁当を作ってきてくれました。私にとって初のエスニック料理はタイのヤムウンセン(春雨サラダ)。さっぱりしながらも酸味・辛み・甘みがバシッっと絡み合う日本にはない味で、材料の構成も面白い。お母さんたちはふだん、自国の料理を披露する機会がないまま、家族に和食をつくっています。母国の料理について「どうやって味付けするの?」って尋ねると、うれしそうにいっぱい話してくれる。料理のことだけでなく、国の誇りを語り始め、表情が全然違ってきました。そこで、タイ、台湾、中国、フィリピンの4カ国のママたちと協力し、1日限りの料理イベントを開いたのが始まりです。たくさんのお客さんが来てくれた。

――その後も商店街などでの出店を重ね、いったん就職した後、SALA開業に至ります。

 大手出版社に入り、情報誌の飲食企画営業に携わった後、開業しました。外国人などが活躍する既存の飲食サービスは寄付に頼る慈善事業に近い形態が多く、運営が不安定になりがちな面があります。やるなら、ちゃんと継続するビジネスにしようと、百貨店に長年勤務してきた父とともに、SALAを開きました。私、勢いしかないんで迷いはなかったです!

■セシルさんの壁画

――店内には目を引くトレードマークの壁画がありますね。

 壁画には、いろんな国の人が描かれ、妊婦さん、子どももいます。お互いに認め合い、理解し合い、自身も自分の価値を認める。「全ての人々がエンパワーされる社会(Empowerment of All People)」のコンセプトに合わせ、開業時にフィリピン人女性のセシルさんに描いてもらいました。

 フィリピンには、来日した後、想定と全く違う仕事をさせられるなどして傷つき、母国に帰国後も社会に適応できない女性が多くいます。自身もエンターテイナーとして日本に出稼ぎに来ていた経験を持つセシルさんは、フィリピンに戻ってからそうした女性の人権を守る活動を続けながら、絵を描いていました。当初は“絵が上手な人”でしたが、SALAで壁画を描いてもらったこともきっかけに「本物のアーティストになる」と大学に入り直し、今はアートの仕事で世界を飛び回っているんです。

Empowerment of all people のコンセプトに合わせ、店内に描かれたセシルさんの壁画

――プロのシェフではないお母さんたちのアジアン食堂をビジネスとして進める苦労や工夫は。

 メニューはお母さんたちと話し合って決めますが、日本人的に受けないなと感じても、まず「一回やってみよう」というスタンスです。サプライズ的に思わぬいい提案が生まれるんですよ。簡単に取り下げると、アイデアが出なくなってしまう。あとは、私自身も料理を作れること。お母さんたちは子どもも小さいので、やっぱり急な休みが出る。「このメニューほしかったのに…」という声が1~2年目にあったので、(調理のコツなどを)全部盗み、やり方を教えてもらう。基本になるタレなど5~6割は全員が調理できるようにしてきました。それでも「タイ人のお母さんが作るからおいしい」、その人が休むと、同じ味なのに「味が違う」と、言われるんですよね。悔しくて涙が出ましたが、自分がおいしいと思える、教えてもらったものをしっかり出し、「この人が作るからおいしい」っていう安定・安心感を私が持てたら何があっても大丈夫、って思えるようになりました。

■AI時代の逆を行く“強み”

――今現在は何人のお母さんが料理を作っていますか。

 台湾、タイ、モルドバ、インドネシアの4カ国です。それに2年前に採用した正社員のスタッフと父親を加えてオールスタッフ。お母さんたちの良さを生かすことがSALAのカギだと思うし、お客さんもそれに共感してくださっています。シェフ一人雇ってやる方がよっぽど楽かなと思いますが、それでは面白くないし、やりたいことは全然違う。物価や人件費、家賃も上がり、ビジネスは今が一番大変な時かもしれません。

 加えて、AI(人工知能)などが出てきて効率が重視され、「人いらんやん」という時代に、SALAは人にスポット当てて真逆をやっている。でも、人は今、タブレット端末での注文などを含め「人感」がないことに飽きてきているのではないでしょうか。例えば、おばあちゃんがやっているレトロ喫茶店が若い世代に面白がられていたりします。SALAにいるお母さんたちという「人」が絶対に、また強みになるはずだと思っています。そして、応援してくれる人たちもいっぱいいます。今までも「もうどうしようもない」という時に必ず誰かが手を差し伸べてくれて歩めた。こういう世界を知り、共感し、応援してくれる人がいます。

2年前にSALAのメンバーになった青木七海さん(左)、游さん(中央)と奥さん

―日本では今、在住外国人が増える一方、外国人への差別的な情報発信も広がっています。

 (SNSなどで)流れている情報は、切り取られて発信されているということを分かっていないといけないと思います。例えば、イスラム教徒(ムスリム)が電車の中で一斉にお辞儀を始めた、という内容の動画が流れたとします。そうすると、実際に起きていなくても「ムスリムは怖い」となってしまう。地元神戸のモスクを訪ねた際、司祭の方が「実際にモスクに来る、もしくは教授などちゃんとわかっている人の話を信じてください。日本の八百万の神様なども知っていますが、あなたはこの宗教、私はこの宗教、それでいい。否定はしない」とおっしゃっていました。一緒に生きていくって、そういうことじゃないですか。

 「SDGs」という言葉より、「人類」と言いたい。自分自身も、男女、年齢、外国人じゃなくて、(相手を)「人類」として見ています。難しい言葉でくくって、言葉ばかりが立つと、生きにくくなる人もいると思う。皆、日本で長く、一緒に過ごしてきた。神戸の街も、今の形があるのは、外国人が昔からいて人類としてともに生きてきたからですよね。

――この先の夢を教えてください。

店が掲げているコンセプトを知った人が、違う業種や自分の事業でこの考えを生かしてくださったら、と。そうすれば、コンセプトが連鎖し、「全ての人々のエンパワーメント」に繋がっていく。同じことに取り組む店が増える、真似してもらうなど、同じ志を持つ人がどんどん出てきたらいいなと思います。

――ヒトが人になるために何が必要だと思いますか。

感情を揺さぶる、揺さぶられることで、ヒトは「人」になっていくと思います。いろんな人に興味を持ち、出会い、行動しないと感情は揺さぶられないし、そこで、失敗も含めて人になっていく。感情を揺さぶられることは、けっこう怖いし、自分が自分じゃなくなるときもあるけど、その経験が人の価値や価値観をつくっていく。いろんな人に出会って感情揺さぶられ、受け止め、受け入れ、経験していくなかで、人になっていく。このプロセスは絶対にAIにはできない、人にしかできないことですよね。

奥尚子(おく・なおこ)/1989年、神戸市生まれ。関西学院大学卒業後、リクルートライフスタイルを経て、2016年7月に神戸アジアン食堂バルSALAを開業。2023年、社会課題の解決に挑戦する女性リーダーをたたえる第7回チャンピオン・オブ・チェンジ日本大賞を受賞。忙しい合間のリフレッシュは、最近始めたボクシングと仕事後の一杯。

#はばたけラボは、日々のくらしを通じて未来世代のはばたきを応援するプロジェクトです。誰もが幸せな100年未来をともに創りあげるために、食をはじめとした「くらし」を見つめ直す機会や、くらしの中に夢中になれる楽しさ、ワクワク感を実感できる体験を提供します。そのために、パートナー企業であるキッコーマン、クリナップ、クレハ、信州ハム、住友生命保険、全国農業協同組合連合会、日清オイリオグループ、雪印メグミルク、アートネイチャー、ヤンマーホールディングス、ハイセンスジャパン、ミキハウスとともにさまざまな活動を行っています。 

  • 神戸アジアン食堂バルSALAの奥尚子さん

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