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地下鉄車両で「アルミの水平リサイクル」初実現 ホンダトレーディングなど6社が連携 背景に高度化する自動車リサイクル技術

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自動車リサイクル促進センター

 通勤や通学で毎日のように利用している地下鉄。その車両の背もたれや柱の押出パネル材といった内装部品が、廃車になった車両を溶かして再生されたものだと考えたことはありますか?

 長年にわたって都市の地下を縦横無尽に走り続け、数え切れないほどの人々を運び、役目を終えた車両たち。その役目を終えた車両たちがどこへ行くのかを知っている人は少ないと思います。

 これまでは、その巨体は重機によって解体され、全く別の製品に生まれ変わるか、鉄やアルミニウム(アルミ)のスクラップとして海外で使用されるために輸出されるというのが一般的でした。しかし今、車両の一部が、別の車両の“部品”として生まれ変わるという、新しいプロジェクトが動き出しています。

 仕掛け人は、自動車リサイクルで培った技術を使った自動車関連業界のプレイヤーたち。今回は、地下鉄車両と自動車、そして私たちの未来をつなぐ「アルミの水平リサイクル」の取り組みをまとめます。

アルミ車体の水平リサイクルの共同研究体制(ホンダトレーディング提供) 

「リサイクルの優等生」

 アルミは私たちの日常生活において欠かせない素材です。

 軽くてさびにくく、加工もしやすいといった高いリサイクル性が大きな特徴です。そのため自動車や航空機など輸送機械の部品だけでなく、医療器具や家電、飲料用アルミ缶など幅広い用途で利用されています。

 アルミは「ボーキサイト」という鉱石を原料とした金属です。ボーキサイトは1821年に南フランスで発見されました。ボーキサイトから高純度の酸化アルミニウム(アルミナ)を取り出し、アルミナを電気分解して製造します。

 アルミは軽く柔らかく、加工しやすい一方で、強度が小さく傷つきやすいという欠点があります。純度の高いアルミが持つ欠点を補い、製品として使いやすくするためにシリコンや鉄、マグネシウムなど他の金属を加えたものが「アルミ合金」です。

 一度製品になったアルミを溶かして再生する場合、新地金を作るのに比べてわずか3%のエネルギーで済むといわれています。CO2排出量も97%削減できるため、環境にとっても、コスト面をみてもリサイクルしない手はありません。「リサイクルの優等生」と呼ばれるゆえんです。

 アルミは鉄や銅などの原料と比較してはるかに軽いので、アルミを原料にすれば製品を軽量化できるというメリットがあります。いくつかある特徴の中でも、リサイクルしやすいという点が「サーキュラーエコノミー(循環型経済)」に貢献できるとして、素材を扱う企業はアルミの「水平リサイクル」に取り組んでいます。

国内の地下鉄車両で初のアルミの水平リサイクル

 2024年、アルミの水平リサイクルにとってひとつの大きな転換点を迎えました。

 東京メトロ半蔵門線などで活躍した「8000系」という車両が引退。その車体から回収されたアルミが、半蔵門線の新型車両「18000系」の座席の背もたれなどとして再利用されることになりました。

 東京メトロ(東京都)、メトロ車両(同)、ホンダトレーディング(同)、日本総合リサイクル(富山県高岡市)、日軽金アクト(東京都)、住江工業(京都府田辺市)の6社は2025年11月、廃車となった東京メトロ半蔵門線8000系車両の車体を、アルミ合金種別ごとに選別したアルミスクラップとし、ダウングレードさせることなく水平リサイクルを実現し、半蔵門線18000系の新造車両の内装部品へ循環利用することに成功したと発表しました。

 「アルミを溶かして作り直しただけだろう」と思われるかもしれません。

 しかし、実際には、合金種別ごとの高度な選別や品質管理が不可欠であり、素材価値を維持したまま再び同等用途へ戻すことは容易ではありません。それを乗り越えようと奮闘する関係者の執念や技術が隠されています。本件は、アルミ資源を出来る限り高い価値のまま循環させる取り組みとして、大きな意義を持つものといえます。

連携力で難題クリア

 アルミと一口に言ってもさまざまな種類があります。1円玉で使われる純アルミもあれば、強度を出すためにマグネシウムなどを添加したアルミ合金もあります。窓枠のサッシに使われるか、飲料用アルミ缶に使われるか、用途の違いによっても金属の成分配合は異なります。

 一度使われたアルミは、回収の過程で、ネジなどの鉄部品や塗装、他の金属成分などが混入し、さまざまな不純物を含む状態になります。不純物が混ざったアルミは材料特性が低下するため、再び高品質な車両ボディーや建材用途などに戻すことは容易ではありません。そのため、これまでは不純物の影響を比較的受けにくい自動車のエンジン部品などが「受け皿」として用途を変えて再利用される、いわゆるダウングレードリサイクルが一般的でした。

 しかし今回、この難しい課題をクリアし、同等品質の部品に戻す「水平リサイクル」を実現したのが、本田技研工業(ホンダ)のグループ商社であるホンダトレーディングや解体・破砕事業を展開する日本総合リサイクルをはじめとする企業6社の連携力です。高度な選別技術と品質管理体制の構築によって、素材価値を維持した循環利用が可能となりました。

生きる経験則

 今回の画期的な取り組みについて、ホンダトレーディング非鉄資源事業部の松下智一軽金属課長が説明してくれます。

 2023年4月、日本総合リサイクルから「地下鉄車両でアルミの水平リサイクルができないか」との相談を受け、両社の「他産業との連携を広げたい」との思惑が一致。東京メトロへ提案した結果、廃車両から回収した素材を再生し、その再生素材を用いて部品を製造、さらに新造車両に組み込むには複数企業の協力が不可欠であることから、企業6社によるプロジェクトがスタートしました。

 6社の役割はこうです。東京メトロから提供された廃車両を日本総合リサイクルが解体・破砕し、アルミの破砕材を丁寧に回収。その破砕材をホンダトレーディングが熔解・鋳造し、アルミ合金を再生地金として製造します。その再生地金を押出・圧延メーカーである日軽金アクトで柱用の押出パネル材や背もたれ用板材に加工し、その後、自動車や鉄道などの座席や内装を製造する住江工業が板材を背もたれへと成形します。最終的に押出パネル材と背もたれは内装部品として新造車両に実装するという流れです。

 2024年8月、日本総合リサイクルによって回収されたアルミ破材がホンダトレーディングアルミニウム(HTAL)の群馬工場に運び込まれました。回転炉に投入されたアルミ破材は数百度の温度でドロドロの状態になるまで溶かされた後、鋳型に流し込まれ、数時間かけて冷却されます。一見単純な工程にみえますが、単に溶かすだけでは狙い通りの成分組成を持つアルミ合金にはなりません。

 群馬工場で製造されたアルミの再生地金は2種類。マグネシウムが含有された5000番系合金と、マグネシウムに加えてシリコンを含む6000番系合金です。

 例えば、5000番系の中で高い強度性と耐食性を持つA5083を、汎用的な特性を持つA5052へ再生する工程では、ボーキサイト由来の一次地金(新塊)を炉中に投入します。この新塊の投入量やタイミングは「単なる計算ではなく、長年の経験から導き出されるものです」と松下氏は語ります。

 さらに不純物を取り除くために行う作業前の炉内部のクリーニング、厳密な温度管理、アルミ溶解時に発生する不純物を除去するフラックス(除滓材)の投入タイミングなど、複数の工程が精緻に組み合わさって初めて、廃車両のアルミは再び高品質な素材に生まれ変わるのです。

回転炉(ホンダトレーディング提供)

車両内装部品に再生

 純粋なアルミは柔らかく加工しやすい性質が特徴です。一方、アルミ合金は添加する元素の種類や量によって強度や耐食性、加工性が変わり、一般に1000番系から8000番系までの番号で分類されます。

 例えば、高強度で知られる「ジュラルミン」は2000番系、飲料用アルミ缶には3000番系が用いられます。さらに航空機部品などに使われる最も高強度な材料は7000番系に分類されます。

 今回、水平リサイクルの対象となったのは5000番系と6000番系のアルミ合金です。5000番系はマグネシウムを主成分とし、車両ボディーや自動車用ホイール、建築外装材などに広く使用されています。回転炉での熔解・鋳造工程を経て再生されたA5052は座席の背もたれに、6000番系のA6063は車両連結部分の妻パネル側面材として、いずれも地下鉄車両の内装部品に再生されました。

背もたれ(ホンダトレーディング提供) 

背景に世界的な電動自動車シフト

 アルミの水平リサイクルが求められる背景には、世界的な電動自動車(EV、PHEV、HV等)シフトがあります。地球温暖化対策(CO2排出削減)として脱炭素化が推進される中、電動自動車の存在感は年々増しています。

 国際エネルギー機関(IEA)の「世界EV見通し」2025年版によれば、2024年の世界における電気自動車(EV)新車販売台数は1700万台を超え、販売シェアは20%を超えるとされています。さらに、IEAは2030年に向けてEVの保有台数が引き続き増加すると予想しています。

 具体的には、IEAは2030年までに、中国で現在の政策が維持された場合、3台に1台がEVになると予測。米国、欧州では路上走行車の5台に1台がEVになると予測しています。また、アジアではタイやベトナム、南米、アフリカでもEVの普及が加速していると指摘しています。

世界の電動自動車販売台数(出所:IEAのデータを基に作成)

 このように電動自動車の増加が見込まれる中、アルミニウム需要についても、業界団体などの試算では、自動車のボディーやサスペンション部品、駆動用バッテリーケース向けを中心に、高品質なアルミ展伸材の需要は一層拡大するとされています。

 このままでは、高品質アルミニウムの供給量が不足し、CO2排出量の多い海外産の新地金に依存せざる得ない一方、国内では低品質材が滞留する懸念があります。これこそがアルミニウムの水平リサイクルの確立が急務とされる理由です。

 「アルミの仕分けが肝」

 今回の共同プロジェクトでポイントとなったのは、「不純物の除去」であり、そのための「徹底した分別」でした。

 解体現場では、アルミ以外の素材(ビス、樹脂、ステンレスなど)が混入しないよう、厳密な管理が行われました。内装部品に使われるアルミ合金だけをより分け、不純物を可能な限り取り除く。この地道な選別工程こそが、水平リサイクル成功の鍵です。

 プロジェクトの成果について、ホンダトレーディングの松下課長は「関係者間の連携に加え、解体・仕分けの精度が成否を分けた」と振り返ります。

 日本総合リサイクルやホンダトレーディングが培ってきた金属資源管理のノウハウが、鉄道事業者や押出・圧延メーカー、座席・内装製造メーカーなどといった異業種間との連携によって実現しました。こうした取り組みは、アルミを高い価値のまま循環させていくサーキュラーエコノミーの実装に向けた重要な一歩と言えます。

破砕されたアルミ(ホンダトレーディング提供)

地下鉄車両での成功は第一歩

 地下鉄車両での成功は、あくまで第一歩にすぎません。目指すところは「Car to Carリサイクル」です。自動車ボディーに使われるアルミを、再び自動車用ボディーに戻す。これができるようになれば、日本は資源輸入への依存を抑えながら、自動車生産を持続していく道を拓くことになります。

 「アルミ素材の分野では、自動車リサイクルはある程度進んでいる」と松下課長は自信をみせます。「部品によってはまだ課題が残っていますが、エンジンやトランスミッションなど汎用性の高いアルミ合金はすでに水平リサイクルが進んでいます」と、今後も対象部品の拡大に向け、さらなる高度化への取り組みを加速させます。

ホンダトレーディング非鉄資源事業部の松下智一 軽金属課長

 それでも自動車分野への応用にはなお高いハードルがあります。地下鉄車両の内装部品に比べて自動車部品には人命を守るための厳格な強度要件や安全基準が求められるからです。わずかな不純物の混入が材料特性に影響を及ぼし、製品の不具合や重大事故にもつながる可能性も否定できません。

 さらにコスト面の課題もあります。バージン材(一次地金)よりもリサイクル材の方がコスト高であれば、市場での普及は進みにくくなります。回収に伴う物流費や解体・選別に要する作業工数をいかに抑制するか、そして環境価値をいかに価格へ反映させるかが問われます。加えてリサイクル材を積極的に選択する社会的な合意形成や意識の醸成も重要な要素になるでしょう。

アルミのCar to Carは高水準

 ホンダトレーディング非鉄資源事業部の村上譲治部長は、「自動車のボディーに使われているアルミを、今後どのようにリサイクルしていくかが課題です。これまではエンジンブロック向けに再利用する方法がありましたが、EVの普及が進めば将来的にはエンジン需要は縮小していきます。自動車ボディーに使われていたアルミを再びボディーに戻す水平リサイクルの技術を確立できなければ、スクラップの受け皿が失われかねません」と懸念を示す一方、「一部に仕分けが難しいアルミはありますが、アルミの“Car to Car”はすでに高いレベルで実現しつつあります」と強調します。

ホンダトレーディング非鉄資源事業部の村上譲治 部長

 今回再生された部品が使われている車両には、リサイクル材を使用していることを示すステッカーなどが貼られているといいます。

 欧州では、製品の原材料の由来やリサイクル履歴を記録する「デジタル製品パスポート(DPP)」の導入が進められています。

 日本でも将来、私たちが購入する自動車のカタログやパンフレットなどに「この自動車には再生材を**%使っています」などといった表示がみられる日が来るかもしれません。資源小国といわれる日本ですが、視点を変えれば、私たちの身の回りにある自動車や鉄道車両、飲料用アルミ缶そのものが貴重な資源でもあります。

 次に地下鉄に乗った時、ふと荷棚や手すりに目を向けてみてください。新しい部品の中に、かつて地下鉄を走り、多くの乗客を運んだ車両の「記憶」が息づいているかもしれません。

 捨てればゴミ、分ければ資源。知恵と技術を積み重ねることで私たちの社会は着実にサーキュラーエコノミーという駅に向かって走り出しています。

  • ホンダトレーディング非鉄資源事業部の村上譲治 部長
  • 回転炉(ホンダトレーディング提供)
  • 世界の電動自動車販売台数(出所:IEAのデータを基に作成)
  • 背もたれ(ホンダトレーディング提供)
  • アルミ車体の水平リサイクルの共同研究体制(ホンダトレーディング提供)

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